久保建英はどうバルサを攻略するのか 前節も現地紙最高点、いまや1対1で対峙できるディフェンダーは?
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英が、破竹の勢いを見せている。今シーズンは、過去のリーガ・エスパニョーラ日本人史上最多の8得点を記録。「レアル・マドリードが買い戻すのでは?」「バルサも獲得合戦へ」「プレミアリーグ勢が触手を伸ばす!」と、真偽のほどもわからない報道で賑わっている。チャンピオンズリーグ(CL)出場という目標にたどり着いた場合、移籍は考えられないのだが......。
5月13日に行なわれたジローナ戦も、試合自体は2−2の引き分けに終わったが、久保はほとんど無敵だった。オサスナ戦、レアル・マドリード戦と2試合連続得点だったフィーリングを失っていない。右サイドでボールを受けると、何度も決定機に持ち込んだ。
開始2分、右サイドで1対1になると、誘うようなドリブルで中央に切り込み、ファウルを受ける。このPK奪取で、先制点に貢献。とにかく、相手は1対1で止められない。24分にも、ファーサイドへ左足で落とすボールを蹴り、ダビド・シルバのゴールをアシストした。
シルバとのコンビネーションは、この日も格別だった。2得点目は最強時代のバルサで、リオネル・メッシからジョルディ・アルバへ、というホットラインで生まれていたゴールに近かった。左利き同士だけがわかる、阿吽の呼吸だ。
前節ジローナ戦でダビド・シルバのゴールをアシストした久保建英(レアル・ソシエダ)
結局、前半終了間際にチームは乱調に陥って2点を返され、試合そのものは引き分けに終わるのだが、久保自体はふたりがかりでも止められないプレーを見せ続けた。
「タケ(久保)は"狂気のピッチ"に君臨していた」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の評価だ。
「間違いなくベストプレーヤーだった。前半はPKを誘発し、シルバのゴールもアシスト。後半も解き放たれたプレーを見せ、右から入る動きを誰も止められない。ジローナのディフェンスにとって、"苦悩の種"だった。セットプレーも見事。決勝ゴールを叩き込んだかとも思われたが、ぎりぎりゴールライン上で防がれていた」
【マッチアップするのは攻撃型DF】
後半も勢いは衰えなかった。56分、久保はカウンターから右サイドでボールを受けると、逆をとってディフェンスを外し、追いすがってきたところを引きつけ、左のシルバへ完璧なラストパス。60分にはマーカーと対峙しながら鋭い振りでニアに飛ばし、一瞬、ラインを越えたかと思う一撃だった。その直後、ミケル・オヤルサバルへのバックラインの前を横切るパスで、PKの疑いのあるチャンスを演出。終盤にもCKからバーに当たるシーンを作り、攻撃を引っ張った。
久保は試合後、「前半最後の10分間は、コミュニケーションが足りなかった」と突然の不調で同点にされたことを悔やんでいる。ただ、彼自身は評価を高めた。ボールを受け、失わず、崩せるのは醍醐味だが、相手のカウンターをパスカットし、守備を攻撃に結びつけるなど、攻守両面で集中力を失わなかった。
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』の採点は両チームを通じ、唯一の三ツ星(星0〜3の4段階)だ。
「タケはたいしたやつだよ。安心してピッチに立ってもらえる。正直、(移籍が決まった時のことを思い出すと)驚きだね」
ラ・レアル在籍8年目になる生え抜きDFアリツ・エルストンドは『アス』紙のインタビューで、そう言って久保を称賛した。
「夏にやってきた初日は寡黙な印象だったので、できる限り早くチームに馴染むように助けようと思っていた。でも、次の日からしゃべるのがすごく好きだとわかって、話しながらすぐに仲良くなったよ。とても面白く、魅力的な奴さ。もちろん、選手として"スーパーな補強"だった。すごくよくやっているし、もっと喜びを与えてくれるはずさ」
5月21日、久保は幼い頃を過ごした"古巣"バルセロナとの一戦を迎える。ラ・リーガ27回目の優勝を決めたばかりの相手であり、単なる1試合ではない。その一戦次第で、周囲はさらに騒がしくなるはずだ。
はたして、久保はどうやってバルサを攻略するのか。
マッチアップするのは、同じバルサ下部組織ラ・マシア出身のアレックス・バルデ、もしくはジョルディ・アルバになるだろう。どちらも、攻撃型のディフェンダーであり、守備は鉄壁ではない。つまり、高い位置で久保がボールを受け、ふたりのいずれかと1対1になる瞬間が生まれたら、ゴールの予感が漂うことになる。
現在、ラ・リーガで久保と1対1で対峙できるディフェンダーは、ロナウド・アラウホ(バルセロナ)、ダビド・アラバ(レアル・マドリード)のふたりくらいだろう。どのチームも、今や"2人体制"で久保に対処している。バルサも、ガビ、アンドレアス・クリステンセンなどが必死になって、カバーに回ることになるかもしれない。ただ、そうなればバルサの攻撃力は削がれることになる。
ひとつの焦点になるのは、久保とシルバのレフティ同士の連係か。ジローナ戦の2点目のように、釣瓶の動きで相手の背後を取って一撃を食らわすパターンは、「バルサのお株を奪う」という意味でも有効になる。一瞬のタイミングでクロスを上げ、然るべきポイントに入るのは、簡単そうに見えて神がかった技術と呼吸が必要で、ふたりはその境地に立っているのだろう。さらにオヤルサバル、アレクサンダー・セルロート、ミケル・メリーノなど、他のレフティとの関係性もよくなっている。
カンプ・ノウの大歓声を、久保は沈黙させられるか。