久保建英がゴールを決めればソシエダは勝つ 途中出場で空気を変え、今季7得点目でCLを引き寄せる
4月28日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)はアウェーに乗り込み、伏兵オサスナを0−2で下している。 スペイン国王杯決勝に勝ち進んでいる相手で、決して簡単ではない試合だった。
「ラ・レアルはチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得に向けて、(4位以内の)順位固めに成功」
スペイン大手スポーツ紙『アス』はそう見出しを打っている。 残り7試合、CL出場が見えてきた。
ラ・レアルの14番を背負う久保建英はチームにとって、すばらしいシーズンを彩る象徴のひとりになろうとしている。リーガ・エスパニョーラ(以下ラ・リーガ)という修羅場で、CL出場を自らの手でつかみ取ることが、どれだけの快挙か。少なくとも、日本人では過去にひとりもいない。
オサスナ戦の久保は63分からの交代出場になっている。中二日という日程的に厳しい試合だった。前節ベティス戦に90分間フル出場していたことで、ターンオーバーで先発を外れた格好だ。
ピッチに出た時、0−1とリードする展開だったが、旗色は悪くなっていた。オサスナの本拠地エル・サダルは「赤く燃える」と形容されるスタジアムで、密度の高い歓声を背にしたオサスナに押されつつあった。
オサスナ戦に63分から出場、今季7得点目を決めた久保建英(レアル・ソシエダ)
久保は、その空気を確実に変えている。右サイドでボールを受け、起点になれるだけで、時間を作り出せた。チーム全体にリズムが生まれ、同じく交代出場だったアレクサンダー・セルロート、ミケル・オヤルサバルがそれぞれ決定機を迎えていた。
久保自身はオサスナ陣営にかなり警戒されており、2対1と数的不利に晒される場面も目立った。しかし、彼は少しも怯んでいない。むしろ、果敢に仕掛ける意思を見せていた。81分には、この日のマークについていたマヌ・サンチェスと対峙しながら、巧妙にシュートコースを作り、左足でファーサイドを狙った。わずかにシュートは外れたが、脅威を示せた。
「オサスナ戦は、"彼自身に求められる姿だった"と言えるだろう。ピッチでは決定的だったし、(他との)差を示していた。ベンチから出てきて、チームの元気を活性化している」(『アス』紙)
【「タケよ、どんどんボールを触れ!」】
87分、久保はトッププレーヤーとしての強さを顕示した。味方が自陣でロングボールを跳ね返し、つなげたボールに反応し、カウンターで敵陣に入ってボールを受ける。相手に激しく体をぶつけられながらも、前に入って抜け出した。五分五分に近いボールを、競り合いの中で自分のものにする強度は、今シーズンの特徴と言えるだろう。左足シュートはGKに止められてしまったが。
終了間際、アディショナルタイムに入る直前だった。マルティン・スビメンディの縦パスを受けたセルロートが収め、ミケル・メリーノに落とす。メリーノがひとつフェイントを入れ、右の久保へ流した。
久保は再びマヌ・サンチェスと対峙する形になったが、何度かのトライで間合いを測ることができていたのだろう。膝下の速い振りだけで左足でボールを叩き、敵DFの股を抜きながらニアサイドを撃ち抜いた。GKはボールに触ったが、防ぎきれない鋭さだった。
「タケ(久保)は、チームがストレスから抜け出すために必要な"ロックンロール"をもたらした。ニアサイドへ、今シーズン7得点目を打ち込んでいる。彼がゴールをするたびに、チームは勝利する。タケよ、どんどんボールを触れ!」(『エル・ムンド・デポルティーボ紙』)
久保がゴールを決めた7試合は全勝している。それは良い兆しだ。
最近のラ・レアルは活力がやや弱くなっていたが、再び気運が漂っている。
一時期スランプだったFWセルロートがトップフォームを取り戻しつつある一方、代役だったカルロス・フェルナンデスもゴール感覚の鋭さを見せ、高いレベルの競争が起きつつある。左サイドバックのアイエン・ムニョス、センターバックのイゴール・スベルディアもベティス戦に続いてハイレベルだった。オヤルサバル、モハメド・アリ・チョという故障明け組も徐々に試合勘が戻りつつある。
不振やケガ明けだった選手が調子を取り戻し、代わりにピッチに立っていた選手が最高のパフォーマンスを見せる。ラ・レアルは再び好循環に入ったと言えるだろう。久保はその旗手となっている。
シーズンを通じて、チーム内ではスビメンディと並んでプレーに波がない。ラ・リーガでは29試合出場で7得点3アシスト。リーグ戦だけで2000分間出場を超え、ベスト16まで勝ち進んだヨーロッパリーグなどカップ戦を含めると約2500分間もピッチに立っている。シュート数、ドリブル数もチーム1位のデータで、危険な選手である証左だ。
次節も週2試合の日程が続く。5月2日、ラ・レアルは欧州王者レアル・マドリードと本拠地アノエタで対戦する。戦力では劣るものの、勝ち筋がないわけではない。
何より、久保はかつての"古巣"が相手だけに虎視眈々だろう。強豪レアル・マドリード戦のゴールは千金に値する。一気にスターダムを駆け上がる可能性もある――。今の久保はそれだけの爆発力を持っている。彼のゴール=勝利だ。