ヴィッセル神戸、横浜F・マリノスほかJリーグ序盤好調の4チームを福田正博が分析「今年の大迫勇也は本来の輝きを放っている」
■第9節まで終了したJ1は、ヴィッセル神戸が首位。堅守速攻スタイルがハマっている名古屋グランパスが2位で、昨季王者の横浜F・マリノスもエンジンがかかってきた。福田正博氏が上位チームの好調の要因を解説した。
現在首位のヴィッセル神戸は、大迫勇也が輝きを放っている
J1は約4分の1を終えて、ヴィッセル神戸が首位に立っている。
4月22日の横浜F・マリノス戦を2−3で落としたものの、9試合を終えて6勝1分け2敗の勝ち点19。
戦力の顔ぶれを見れば、この位置は妥当に感じられるかもしれないが、昨シーズンに監督交代を何度も繰り返した不振を思い起こせば、優勝争いの主役を担っているのは当たり前のことではない。
吉田孝行監督のもとで攻守にバランスの取れたサッカーをしているなかで、チームを牽引しているのがFW大迫勇也だ。昨季はコンディション面で苦しんだが、今年の大迫は本来の輝きを放っている。
大迫が最前線でボールをおさめられるため、味方の選手が攻め上がる時間が生まれて厚みのある攻撃ができている。大迫の得点数はリーグ2位の6点だが、それ以上に大きな存在感となっている。
それはリーグトップのチーム総得点19に表れている。守備面も横浜FM戦こそ3失点を喫したが、それまでは8試合で3失点。DFラインの頑張りはもちろんだが、前線からの守備意識も高い。なかでも中盤でボールを回収して、ピンチを未然に防いでいる齊藤未月と山口蛍の働きは大きい。
選手個々のレベルは高く、攻守でハードワークができる。だからこその首位ではあるが、今後も優勝に向けて突き進めるかのポイントは外国籍選手にあると見ている。
ここまでは日本選手たちが不動のメンバーとなって好調を維持している。ただ、忘れてはならないのは、神戸にはアンドレス・イニエスタをはじめ、力のある外国籍選手たちもいるということ。吉田監督とすればチームが勝っている間はメンバーをいじる気はないだろうが、結果が伴わなくなった時に彼らをどう使うのか。
外国籍選手に限らず、力のある選手というのは、試合に出られなければチーム内の不協和音になりかねない。反面、上手に起用することができればチームを助ける大きな力にもなる。吉田監督がそのチームマネジメントで手腕を発揮できれば、神戸は優勝争いを牽引していくはずだ。
【ボランチがチームを躍動させている】その神戸に勝利して昨季のJ1王者らしさを見せた横浜FMは、神戸戦を迎えるまでは試合内容と結果が噛み合っていない印象だった。それが神戸戦で2点のリードを許しながら追いつき、追い越したことで、ここから乗っていくのではと感じている。
神戸戦で2得点を決めたアンデルソン・ロペスは、ここ3試合で5得点。リーグ戦序盤のチームのもたつき感の要因にもなっていたが、決めるべき選手が決めるようになったことで、今後は勝ち点3を積み上げていくと予感させる。
見逃せないのがボランチの喜田拓也と渡辺皓太だ。彼らの働きは大きく、ふたりがいなければリーグ戦序盤にもっと負けが増えていても不思議はなかった。
それだけに、彼らふたりが試合に出続けられるのか。そこが横浜FMにとっては重要なポイントになる。累積警告や故障などで欠くようだと、ベンチに力のある選手が控えているとはいえ、チームの中核が変わるとチーム全体のリズムが狂う危険性はある。
ボランチがチームを躍動させているのは、名古屋グランパスにも当てはまる。2年目を迎えた長谷川健太監督のもと、9試合を終えて5勝3分け1敗で2位。総失点はリーグ最少の5失点。この堅い守りをベースにしながら、堅守速攻のサッカーで勝ち点を積み上げている。
攻撃は、浦和レッズから移籍したキャスパー・ユンカーを1トップ、その下に置く永井謙佑とマテウス・カストロの3選手でゴールを狙うのが基本線。ボールを奪ったら縦に早くパスを出し、前線3人のスピードを生かす。相手にすれば脅威を覚える。
DFラインはサンフレッチェ広島から野上結貴を獲り、日本代表経験者の中谷進之介と藤井陽也で3バックを敷く。もともと守備は堅かったチームだが、より堅固にしている存在が、今季チームに復帰したボランチの米本拓司だ。
ボールを奪いに行く圧力の高い米本がいることで、守るための守備だけではなく、攻撃に転じるための守備もできるようになった。このためボランチのコンビを組む稲垣祥の攻め上がる機会は増え、そこからゴール前でのシュートチャンスをつくれている。
名古屋は今後も負ける試合は少ないと思う。だが、優勝するためには引き分けではなく、勝利をいくつ重ねられるかが重要で、そのための課題は得点力だ。
堅守速攻でシュートチャンスはもともと多くない。それを前線3人のクオリティでカバーして2位につけている。ただ今後は、相手に対策を練られることは想定され、その場合にどう打破するのか。
そのひとつがマテウスのFKだろう。昨季8ゴールでチーム最多得点だったマテウスは、今季初ゴールを4月15日の川崎フロンターレ戦でFKから決めた。
強烈で精度の高い彼のFKは大きな武器。それだけにマテウスが何本かFKからゴールを奪えれば、相手DFはマテウスのFKを警戒してゴール前での寄せは少し甘くなる。そうした状況をつくれれば、勝ち点3を積み上げていけると思う。
【浦和の好調を支える興梠慎三】この3チームを追う浦和レッズは、開幕から2連敗を喫した。パワーフットボールに近い、中盤を省略するようなサッカーをしていた。パワーフットボールが悪いわけではない。ただ、浦和にいる選手の特性を考えた時に、向き不向きで相性が悪いと思っていた。
新たに就任したマチェイ・スコルジャ監督がこの戦い方を続けるようだと厳しいシーズンになると感じたが、そうはならなかった。戦い方やスタイルは、勝利に近づくためにある。それで勝てないのなら路線を切り替えることも監督の手腕のひとつで、スコルジャ監督は見事に勝利という目標のために柔軟に対応した。
現在の浦和の好調を支えているのが、興梠慎三だ。前監督のもとでは出番が激減して移籍していたが、今季は浦和に戻って存在感を放っている。興梠が最前線に入ることで、選手間の距離が近づいてコンビネーションも生まれ、いい攻撃ができるようになっている。
ただ、興梠も36歳。1シーズン通じてフルに躍動していくには使い方を考慮しなければならなくなっている。興梠を休ませながら勝ち点を積み上げていくためには、外国人FWのパフォーマンスが大事になってくるだろう。
チームが好調だと攻撃陣に目が向きがちになるが、浦和もDF陣が安定している。そして、神戸や名古屋、横浜FMにも言えることだが、好調なチームはボランチがしっかりしていて、これは浦和にも当てはまる。岩尾憲と伊藤敦樹が関係性のよさを生かして、攻守でボールに関わることでリズムを生み出している。
浦和がさらに力強い結果を残していくには、左サイドからの崩しがポイントになると見ている。現状では右サイドに入る大久保智明のところからしか独力での打開は見られない。左サイドも攻撃面で違いを発揮できるようになると、ゴールシーンはさらに増えるのではないか。
今シーズンはまだ序盤戦が終わったばかり。この4チームがこのまま終盤戦まで行く保証はない。ほかのチームが勝ち点を伸ばせば伸ばすほど、混戦模様は強まっていき、優勝への勝ち点は引き下がることになる。創設30周年の記念すべきシーズン、ここからJリーグはさらに熾烈を極めていく。
福田正博
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。