Jリーグ第9節、川崎フロンターレ対浦和レッズ。昨季の成績では2位対9位の関係にある両チームだが、今季は前節(8節)を終えて川崎が13位、浦和が4位だ。立ち位置を入れ替えて迎えた一戦だった。

 試合は1−0、川崎リードで終盤を迎えていた。

 今季、連敗で発進したものの、そこから巻き返し4位まで順位を上げてきた浦和。上昇気流を途絶えさせるわけにはいかないとばかり、マチュイ・スコルジャ監督は、残り時間11分という段で3枚替えの手に打って出た。ピッチに投入した選手のなかには、この試合がJリーグデビュー戦となる若手が含まれていた。

 関根貴大に代わって左ウイングに入った早川隼平である。関根も167センチとかなり小柄だが、早川はさらにその下を行く163センチだ。しかも17歳。サッカー少年風で異彩を放つ。

 そのうえ左利きだ。記念すべきファーストタッチは、左ウイングのポジションについたばかりのタイミングで訪れた。左サイドバック(SB)荻原拓也からパスを受けると、その利き足でトリッキーなモーションからパスを縦に送った。興梠慎三に代って入った安居海渡がこれを受け、サポートに入った荻原につなぐ。

 早川はそこに再び現れた。川崎のMFジョアン・シミッチ、さらにはCB高井幸大といった大型選手に囲まれるも、ボールをキープ。小さな身体をくるりと捻りながら、左タッチライン際をパス&ゴーで疾走していた荻原の前方に縦パスを送った。

 その荻原の折り返しをブライアン・リンセンがきれいに合わせ、浦和は同点に追いついた。荻原のアシスト、決めたリンセンのシュートも見事だったが、目に眩しく新鮮に映ったのは早川の絡みになる。左サイドに生まれたスピード感は、早川の細かな球さばきに起因していた。トップチームに昇格して間もない17歳がチームを救う同点弾の立役者となったわけだ。


川崎フロンターレ戦でリーグ戦デビューを果たした浦和レッズの早川隼平(中央)

 川崎の鬼木達監督は後半40分、布陣を3−5−2的な3バックに変更する。対する浦和のスコルジャ監督は、1トップ下の小泉佳穂に代え左SB大畑歩夢を投入。それまで左SBだった荻原を1列高い左ウイングへ、そして左ウイングの早川を右ウイングへ、それぞれ玉突きのように移動させる戦術的交代を行なった。

【ラスト10分、ピッチで最も輝いていた】

 早川は左SBから左ウイングバックに立ち位置をわずかに上げた川崎の佐々木旭と対峙する関係になった。佐々木と言えば、技巧と推進力を兼ねた日本代表レベルにある左SBだ。横浜F・マリノスとの開幕戦では終盤、左サイドを駆け上がり、橘田健人のゴールをアシストしている。

 後半43分、その橘田から左サイドを攻め上がった佐々木の鼻先にパスが出る。横浜FM戦が頭をよぎった。決定的な折り返しが浦和ゴール前に送られるだろうと予想した。しかし佐々木が得意とするボールの持ち出しは、早川によって阻止された。佐々木の技術を小兵ならではの俊敏な動きでストップしたのだ。

 川崎はこのワンプレーを境に最終盤、守勢に回る。5バックで守る時間が増えた。鬼木監督は試合後、3バックへの布陣変更を「攻撃的に出るため」と述べたが、実際は真逆となった。

 その2分後、今度は早川が攻め返す。ボールを保持する川崎の左CB車屋紳太郎にしぶとい動きで食いつくやボールを奪取。ドリブルで右サイドを深々とえぐり、中央にラストパスを送った。これは際どくクリアされたが、163センチの俊敏さと技術が光った瞬間でもあった。

 攻める浦和、守る川崎。スコルジャ監督はベンチ前から「サイドを突け」と指示を出す。その結果だろうか、早川にもう1度、見せ場が訪れた。縦に進出した右SB明本考浩からバックパスを受けると、MF柴戸海とワンツーを交わしながら前進。さらに安居ともワンツーを交わし、シミッチ、佐々木のマークをかいくぐりながら左足でシュートを放った。シュートは惜しくもバーを越え、と同時にタイムアップを知らせる笛が鳴った。

 頭を抱えた早川だったが、ラスト10分プラスアルファの時間に限れば、ピッチ上で最も輝いていた選手になる。ボールを受けたら簡単には奪われない、低い態勢から潜り込むようなドリブル、ボール操作に筆者の目は釘づけになった。163センチがハンディではなく長所に見える選手。日本人らしい選手というより、日本人にも珍しい、超然としたキャラクターに見える。

 浦和の第2列には大久保智明、小泉佳穂、関根貴大と、小柄な選手が揃う。彼らが的確にポジションを変えるサッカーが奏功。昨季より嫌らしさを増している印象だが、そこに早川が加わればエンタメ性はさらに増す。

 今季終盤あたりはその中心になっているのではないか。Jリーグで最も期待できる若手に目を凝らしたい。