古馬の「長距離王決定戦」となるGI天皇賞・春(京都・芝3200m)が4月30日に行なわれる。今年の一番の見どころは、王者タイトルホルダー(牡5歳)の連覇がなるかどうかだろう。


昨年の天皇賞・春を圧勝したタイトルホルダー

 GI3勝の実績は、今年の出走予定メンバーのなかでは抜けた存在。とりわけ、3000m以上の長丁場の戦いでは向かうところ敵なしといった状態で、昨年のレースでも後続に7馬身差をつける圧勝劇を演じている。

 さらに、その直後のGI宝塚記念(阪神・芝2200m)でもレコード勝ち。「現役最強馬」の名をほしいままにしていたが、昨秋、その破竹の勢いにストップがかかった。

 海外GIの凱旋門賞(フランス・芝2400m)に挑戦するも、11着と惨敗。続くGI有馬記念(12月25日/中山・芝2500m)でもほとんど見せ場なく、9着と馬群に沈んだ。

 2戦続けてのあまりに情けない負けっぷりに、同馬の地位も一気に急降下。調子落ちを指摘されるだけにとどまらず、「能力的なピークを過ぎた」といった声まで囁かれた。

 その結果、有馬記念以来の復帰戦となったGII日経賞(3月25日/中山・芝2500m)では、わずかな差ながらも2番人気に甘んじた。

 だが、結果はすでにご存知のとおり。他馬より重い斤量59kgを背負いながら不良馬場をものともせず、最後の直線では後続を引き離す一方。2着に8馬身差をつける圧巻の勝利を飾った。

 その勝ちっぷりによって、周囲の雑音も一掃。関西の競馬専門紙記者は、天皇賞・春に向けても太鼓判を押す。

「昨秋の結果を受けて、調子がどうとか、能力的なピークがどうとか、いろいろと言われてきましたが、調子が悪かったり、能力に陰りがあったりしたら、あれだけのパフォーマンスは見せられませんよ。とすれば、天皇賞・春においても、それまでに指摘されたような不安はまったくない、と考えていいでしょう」

 どうやら、天皇賞・春の連覇へ、視界は良好と言えそうだ。

 とはいえ、そんな"絶対王者"に対しても死角はないものかと、重箱の隅をつつきたくなるのが競馬をたしなむ者の性である。

 タイトルホルダーにとって、まず懸念すべきは展開だ。今年の出走メンバーには、アフリカンゴールド(せん8歳)、ディアスティマ(牡6歳)といったハナを主張したい馬が2頭いる。この2頭、あるいは2頭のどちらかが捨て身の逃げ戦法に出たとしたら、どうなるだろうか?

 無論、それがタイトルホルダーにとって、致命的なものになるとは思わない。現に昨年の宝塚記念では、パンサラッサに大逃げを打たれながらも、最後はきっちりと差しきった。

 しかしながら、逃げて圧勝したGI菊花賞(阪神・芝3000m)や昨年の天皇賞・春ほど、後続を引き離すことはできなかった。先の専門紙記者も、「タイトルホルダーはハナをきらなくてもレースはできるが、ハナをきった時よりパフォーマンスは落ちる」と言う。

 距離の違いもあるゆえ、一概には言えないが、専門紙記者の言うことには一理ある。タイトルホルダーは逃げなくてもレースはできるが、最も強いのは逃げた時、と言うことはできるだろう。

 ならば、仮に逃げた馬のペースが絶妙で、タイトルホルダーがそれを捕まえるのに手こずるようなら、虎視眈々と一発を狙う後続の馬たちにもチャンスが生まれるのではないか。

 そしてもうひとつ、タイトルホルダーのウィークポイントとして考えられるのが、新装なった京都競馬場だ。

 タイトルホルダーは、俗にいう"偏食ホース"の可能性がある。東京競馬場では一度も勝っていないが、阪神競馬場では3戦3勝。しかも、その3戦はすべてGIだ。

 おかげで、菊花賞や天皇賞・春の圧勝劇は、馬のポテンシャルや長距離への適性もさることながら、通常京都で行なわれるこれらのレースが「阪神で行なわれたことも大きかった」という声もあるほどである。

 それがもし本当ならば、つまりタイトルホルダーが実際に"偏食ホース"だとすれば、本来の京都が舞台となる今回の天皇賞・春には、若干の不安を覚える。そこに、他馬のつけ入る隙があるように思う。

 一般的に「力が要る」と言われる阪神・芝コースに対して、京都・芝コースは「軽い」と言われる。だからといって、タイトルホルダーが軽い芝のスピード競馬に対応できないなどと言うつもりはない。

 しかし他の出走馬のなかに、阪神では力を出しきれなかったが、軽い京都の馬場でガラリと一変してパフォーマンスを上げてくる馬がいたとしても不思議ではない。先の専門紙記者が言う。

「以前の京都コースを例に考えれば、真っ先に名前が挙がるのは、そこがまるでの自分たちの庭のように走っていたディープインパクト産駒。改修後のコースが以前と同じなのか、どう違うのか、まだ軽々しくは言えませんが、少なくとも阪神から京都に替わることは、同産駒にとっては大きなプラスでしょう。

 そして、そのプラス要素が予想以上に大きければ、ディープ産駒による"打倒タイトルホルダー"が実現する可能性はあるかもしれません」

 3年ぶりに京都で開催される天皇賞・春。王者タイトルホルダーと、舞台替わりで台頭が見込まれるディープ産駒たちとの、熱い戦いに注目したい。