決定機を逸した三笘薫は「勝負を決めきれない選手なんだ」と悔しがる ブライトンが惜敗したFAカップ準決勝現地レポート
「あなたはどう思う?」
FAカップ準決勝でPK戦の末に惜敗した後の会見で、ブライトン&ホーヴ・アルビオンのロベルト・デ・ゼルビ監督は、最初の質問者にそう訊き返した。
FAカップ準決勝惜敗のブライトン。三笘薫はゴールシーンをつくれなかった
問いかけは「内容にふさわしい結果だったと思いますか?」だった。その記者が「わかりません」と答えると、今季のプレミアリーグに旋風を巻き起こしているイタリア人指揮官はこう続けた。
「勝利に値したのは我々だったと思う。だがそれは私の意見に過ぎない。それでも、より良いパフォーマンスを見せ、より多くのゴールチャンスをつくったのは私たちだった」
実際、『BBC』のスタッツによると、シュート数はどちらも15だったが、ポゼッション率はブライトンが61%と上回っている。そして多くの時間帯で主導権を握っていたのは、間違いなく青と白のチームだった。
フットボールの聖地ウェンブリーにはこの日、前日に行なわれた別カードの準決勝の観衆を1万人以上も上回る、8万1445人のファンが詰めかけていた。記者席のあるメインスタンドから見て、左にマンチェスター・ユナイテッドの赤、右にブライトンの青が配されていたが、声援とノイズは明らかにブライトン側が優(まさ)っていた。
英国南部のご機嫌なビーチリゾートから大挙してやってきた彼らは、クラブ史上初のメジャータイトル獲得まであとふたつと迫ったチームを後押しすべく、キックオフの数時間前からスタジアム周辺で騒いでいた。
クラブのもっとも有名なサポーターのひとり、ファットボーイスリムの曲を大音量で鳴らし、会場内では青と白の風船を飛ばして最高の雰囲気を演出。試合後に三笘薫が「ブライトンのサポーターの声が大きくて、すごく感じていました」と言ったように、その空気は過去12回の優勝を誇るユナイテッド相手にも、今季ばかりは勝てるかもしれないと思わせるものだった。
【三笘薫は相手のマークに手を焼く】試合が始まると、その印象はさらに強くなっていった。デ・ゼルビ監督の率いるブライトンはこの日も、最後尾の中央からでさえただではパスを出さず、相手を十分に引きつけてから瞬間的にフリーになった味方にボールを預けていく。
地元出身の主将にして守備の要、ルイス・ダンクは1、2シーズン前と比べて見違えるほどに球捌きが巧くなり、のちにマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたセントラルMFモイセス・カイセドは、相手に囲まれても抜け道を見出してリズミカルに攻撃を組み立てる。
続出する負傷者の影響からか、普段とはやや異なる2トップ気味に臨んだものの、やることはいつもと同じ──イタリアのカウンターカルチャーの担い手、デ・ゼルビ監督が信じる攻撃的な手法で、強者に立ち向かった。
ただし、公式マッチプログラムの表紙に描かれた三笘は、対峙したアーロン・ワン=ビサカに手を焼いた。序盤にカットインからアントニーに倒されてFKを獲得した時は、この日も期待できそうに思えたが、その後はワン=ビサカの粘り強い守備に沈黙を強いられていった。
前半の終盤にはブライトンのテンポが乱れ、ユナイテッドが高い位置でボールを奪って続けざまに決定機を迎えた。しかしブルーノ・フェルナンデス、アントニー・マルシャル、クリスティアン・エリクセンのいずれもが決定機を逸している。
後半に入ると再びブライトンがペースを掴み、56分にはフリオ・エンシーソがGKを強襲し、直後のCKからダニー・ウェルベックが際どいヘディングを放った。ユナイテッドのエリック・テン・ハーグ監督はこの劣勢に適切に対処し、フレッジを投入して中盤を引き締めることで、青に傾きかけた流れを食い止めた。後半終盤には、右サイドからソリー・マーチが切れ込んで一撃を放ったものの、ユナイテッドのGKダビド・デ・へアがゴールを許さなかった。
【「あそこのクオリティがすべてなので」(三笘)】90分を終えてもスコアが動かなかったのは、両監督にとって今季3度目のこと。すっかり闇に覆われたロンドンの空から雨が降り出し、延長が始まった。
その前半にはマーカス・ラッシュフォードの強烈なシュートがDFに当たって枠に飛びながらも、ブライトンの守護神ロベルト・サンチェスがスーパーセーブ。逆に後半には、少しずつ調子を取り戻した三笘が、ボックス内でアレクシス・マクアリスターのリターンパスを受けるも、タッチが乱れて仕留めきれなかった。
「あそこのクオリティがすべてなので」と試合後に三笘はそのシーンを振り返って肩を落とした。「あれを決めきれるか、決めきれないかで勝敗がつく。あのシーンに戻りたいですけど、それはできないし、(自分は)勝負を決めきれない選手なんだと」。
迎えたPK戦では、どちらも6人目まで全員が決め、先攻のブライトンの7人目、マーチが右のトップコーナーを狙い、惜しくも枠を外してしまった。直後にユナイテッドのビクトル・リンデロフが冷静に沈めて、勝負は決した。
ブライトンはこの大会で唯一決勝に駒を進めた1983年と同じく、ウェンブリーでユナイテッドの前に跪(ひざまず)いた。
本来の力を発揮できなかった三笘も、タイトルを意識したことを認めている。
「もちろんそれは......、勝てば決勝でしたし。なかなかこういう機会がないなか、優勝すれば来季のヨーロッパリーグという大きなチャンスもあったので」
大粒の雨なのか、それとも悔し涙なのか、スポットキックを外したマーチは試合後、濡れた顔を下に向けて立ち尽くしていた。
「私自身、選手時代にPKを何度も失敗したと彼に伝えた」とデ・ゼルビ監督は明かした。「ウェンブリーでのPK戦だ(重圧は計り知れない)。マーチは今日のうちのベストプレーヤーのひとりだ。彼、そしてチーム全員を誇らしく思う。特に今日は」
もしあのままPK戦が進めば、その次の次が三笘の順番だったという。現場にいた者としては、率直に、見ていられなかった気がする。それほどのプレッシャーが感じられた。
南から吹く潮風と熱いファンに後押しされたブライトンの冒険は、惜しくも4強で終焉を迎えた。夢はいつしか目標に変わり、敗れてもなお、勝利にふさわしかったと信じている指揮官もいる。悔しいに違いない。だがサポーターたちはきっと、このセンセーショナルなシーガルズに誇りを抱いているはずだ。