久保建英の強気の姿勢から生まれたゴールで逆転勝利 レアル・ソシエダ、CL出場が見えてきた
4月22日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英(21歳)は、ラージョ・バジェカーノ戦の62分にピッチに入っている。5試合ぶりの途中出場だった。1−1という状況で、ホームでの勝利に向けて積極的にボールを受け、守備を固めた敵陣に割って入った。
左サイドでアイヘン・ムニョスの攻め上がりを誘い、中に走って横パスを受けると、トップのアレクサンダー・セルロートにつけたあと、バックラインの裏に走ってリターンを受けるも、これはオフサイドの判定になった。さらに、ロングボールを右サイドで受けると、2対1の数的不利ながら果敢に仕掛けたものの、せめぎ合いのなかであえなくボールを失い、カウンターを浴びてしまう。どれもシュートにつながらず、危ない場面にすらなりかけたが、崩しに挑む選手が必要だったのだ。
81分、久保の攻撃的な姿勢が実る。
久保は右サイドで味方のパスを受けると、ボールコントロールだけで猛然と寄ってきた相手と入れ替わった。敵の守備ラインを超えてなかへ切り込み、さらにひとりをかわしていたが、相手のカバーがやってきたことで横に展開した。結局、久保のプレーで相手のマーキングにズレが出て、左からのアイへン・ムニョスのクロスを味方FWが合わせ、ゴールに結びついた
。
久保は、2−1と逆転するゲームの殊勲者のひとりだったと言えるだろう。アディショナルタイムには、左サイドで何気なく、相手ラインを完全に破るパスもあり、実力を示した。
ラージョ・バジェカーノ戦の後半17分から出場、勝利に貢献した久保建英(レアル・ソシエダ)
前節のバスクダービー、宿敵であるアスレティック・ビルバオに敗れると、久保はまるで戦犯のような扱いを受けている。「今シーズン最低の出来」や「何もできなかった」という評価もあった。前回のバスクダービーで劇的な勝利に貢献していただけに、期待の裏返しでもあるのだろう。
すべては紙一重である。
そもそも前節のバスクダービーで、久保は酷評されるほど悪かったのか?
久保は前線からのプレスで機能していた。ビルバオのGKウナイ・シモン、DFイニゴ・マルティネスという、それぞれカタールW杯、ロンドン五輪で日本のプレスにより大失態を犯した経験のあるふたりは、戦々恐々としていただろう。久保はその俊敏さとしつこさで守備のスイッチを入れ、脅威を与えていた。
【紙一重の勝負を制した】
攻撃でも、盟友ダビド・シルバとのコンビネーションは悪くなかった。ボールもよく集まっていたし、複数の選手に囲まれても動じない姿を見せ、相手の警戒心が伝わってきた。崩し役として、一定の仕事をしていたと言える。
しかし、得点につながらなかったことで、グレーのフィルターで通したように映ったのだろうか。対面の敵となったユーリ・ベルチチェが堅実でパワフルなマーキングを見せたのも事実で、完全に出し抜けなかったのも大きい。また、交代前に久保自身がこぼれ球で決定機を得たにもかかわらず、シュートのコースはやや甘かった。
久保のプレーはこの2試合で大きく変わっているわけではないが、評価はチームの結果次第で大きく左右されるところはある。たとえばラージョ戦も、無理な突破からのボールロストでカウンターを浴びたシーンで失点していたら、まさに戦犯として槍玉に挙げられていたかもしれない。その危機を味方が守り抜いてくれたことで、久保にもう一度チャンスが訪れ、2点目に結びつくプレーになったのだ。
ラージョ戦では、スペイン大手スポーツ紙の『マルカ』、『アス』ともに星ひとつ(0−3の四段階評価なので、星ひとつは下から二番目)だった。そこまで高い評価ではないが、「彼のプレーがゴールにつながった」とは認めている。決勝点に絡んだ(記録は相手のオウンゴール)カルロス・フェルナンデスも星ひとつであり、悪くもない評価だ(このゲームでは、2本のアシストを決めたアイヘン・ムニョスが星ふたつで際立っていた)。
久保がリスクを恐れず、仕掛け続けたことが、2点目につながったのは間違いない。多くの選手は、ポジションを失ったり、非難を浴びたりする可能性があるために失敗を恐れてしまい、あそこまで前向きに挑むことはできないだろう。それほど勇敢な姿だった。
言わば、久保は紙一重の勝負を制したのである。
おかげで、ラ・レアルは4位をキープした。5位のベティスが敗れたことによって、勝ち点差は6に広がった。これは、チャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得に向け(スペインは4位までがCLに出場)、大きな前進と言えるだろう。残り8試合で、おぼろげながらゴールが見えてきた。
「22歳までにCLを経験したい」
そう語る久保のビジョンも、実現に一歩近づいた。
次節は中2日で敵地でのベティス戦、続く第32節も中2日でアウェーでのオサスナ戦と、厳しい日程のなかで激しい攻防が予想される。はたして、久保は集中砲火を跳ね返し、進軍できるか。