“クルマは遊び”のためという作り手の思いが詰まったジープのコンセプトモデルはワクワクが止まらない!
世のジープ好きなら、いちどは行ってみたいのが、毎年、米国ユタ州モアブで開催される「イースター・ジープ・サファリ」。
2023年は4月1日から9日にかけて、キャニオンランズ国立公園を舞台に、北米のみならず世界各地からジープファンが集まって、岩場のコースを走り回りました。
もうひとつ、毎年イースター・ジープ・サファリの楽しみとされるのが、ジープのデザイン部がお披露目するコンセプトモデルの数かず。
悪路走破性から環境適合性、さらにデザインにいたるまで、ジープの持つさまざまな特徴を強調したモデルが並べられます。
なので、コンセプトを見ていると、いまジープが何を考え、これからどこへ向かっていこうとしているのか。少しは理解できた気になります。
2023年も、用意されたコンセプトカーは7台におよび、日本にいる私たちの目からしても、たいへん興味深い。心躍るような楽しさです。
しかもキャニオンランズでは、すべてのコンセプトモデルが実走可。壁のように見える巨石が作りあげた土地を、世界で(おそらく)たった1台のクルマで走ることができました。
なかでも、ここに足を運んだ私がとくに興味を惹かれたモデルを中心に、ご紹介しましょう。
▼「1978ジープ・チェロキー4×eコンセプト」
▲17インチホイールに37インチ径タイヤの組み合わせですごみが出ている
▲ウインドウがないのも米国ではよく見るレストモッドのスタイル
ひとつはレストモッドというアメリカ独特の古いクルマの楽しみに注目したモデル。「1978ジープ・チェロキー4×eコンセプト」と名付けられています。
「70年代のジープ・チェロキーSJ型を、現代風に解釈したもの」。ジープのデザインをひきいるマーク・アレン氏は、キャニオンランズでそう説明してくれました。
レストモッドは、レストア(古いクルマの修復)と、モディファイ(改造)からなる造語。オーナーが現代風のツイストを加えて、自分のセンスを見せる楽しみかたです。
ジープのデザイン部は、最新のプラグインハイブリッドモデル「ラングラー・ルビコン4×e(フォーバイイー)」のシャシーを使い、そこに当時を思わせる魅力的な2ドアボディを載せました。
当時のオリジナルは、けっこう加飾が多くて、ゴテゴテとした印象があります(そこがいいと今の人は言いますが)。今回はチョップドルーフにするなど、すっきり感も強調しています。
車体はあえて、ぶ厚さを感じるスチール製。特にドアを閉めたときの金属音は当時のアメリカ車を連想させるもの。実はそれもデザイナーの意図だったと教えてもらいました。
インテリアもユニークです。2シーターにしてしまい、後席から荷室にかけては、カーペットを敷き、天井を見上げるとカラフルなペイントが施されています。
ドライブした印象は、ベースが悪路走破性の高いルビコン4×eですから、こんなところ登れるの? と焦るぐらいの岩をぐいぐいと上り、下りも同様。
コンセプトカーだけあって、遮音材とかはないため、さすがにノイズは大きいですが、そんなの意識しないほど、ドライブしていて興奮してしまいました。
毎年、魅力的なレストモッドの提案があるので、1台ぐらいは量産化して欲しいものだと、「1978ジープ・チェロキー4×eコンセプト」に乗って、私はつくづく。
アレン氏にそのことを伝えると、「うーん、量産化はなさそう」とのことでした。いやいや、期待してますよ。
▲1978ジープ・チェロキー4×eコンセプトは当時のオリジナルの再現でなく、レストモッドふう表現
▲ド派手なグラフィック(グラフィティ?)で雰囲気を出した1978ジープ・チェロキー4×eコンセプトのインテリア
▲8トラックもデザイナーのこだわり(音源は23年に50周年を迎えたピンクフロイドの名盤だ!)
▼「グランドワゴニア・オーバーランド・コンセプト」
▲余裕あるサイズのSUVでも悪路を走ってキャンプに行けたらと開発されたグランドワゴニア・オーバーランド・コンセプト
▲グランドワゴニア・オーバーランド・コンセプトにはレッドテイル・オーバーランドのルーフトップテント搭載
「グランドワゴニア・オーバーランド・コンセプト」は、クルマで寝泊まりして旅をする人に向けたモデル。
全長5.75mの車体に、3リッター直列6気筒ツインターボエンジンを搭載。500hp(米国式)の最高出力と、691Nmの最大トルクです。それに4WDシステムの組合せ。
このグランドワゴニアにルーフトップテントを載せて、車内からルーフのハッチを開けてアクセスできるようにしているなど、オーバーランダー(旅人)が喜びそうなデザインです。
毒虫などから身を守れるうえ、トレーラーより簡便と、米国でよく売れているルーフトップテント。ジープが選んだのは「RedTail Overland 」の「 Skyloft 」です。
カーボンファイバーによる軽量で高剛性がセリングポイント。ほぼ一瞬で、前後長6フィートのテントが展開。電灯はもちろん、エアコンもコネクティビティも装備されています。
「地図にもないような土地を快適に移動するという、ジープの可能性のひとつの極といえるモデルとして仕上げました」
開発を指揮したアレン氏は言います。今回のコンセプトは、キャニオンランズの岩場を走らなくてならないため、特製のタイヤを履いていました(市場では未発売)。
18インチホイールに35インチと超大径タイヤのおかげで、5.7mのSUVが、ラングラーと同じ道を走れます。このタイヤを収めるため、ホイールハウスは切り欠きを大きくしたとのこと。
▲耐久性と快適性がセリングポイントのレッドテイル・オーバーランドのルーフトップテント
▲快適装備満載のグランドワゴニアで岩場を走るのは意外な楽しさ
▲レッドテイル・オーバーランドのスカイロフト搭載(市販品は外からラダーでアクセスする)
▼「スクランブラー392コンセプト」
▲6.4リッターV8エンジンに軽量化ボディと車高のリフトアップで悪路走破性を高めているスクランブラー392コンセプト
▲もし市販されたら人気が出そうな軽快なスタイリングのスクランブラー392コンセプト
▲巨大な40インチ径のタイヤが迫力のスクランブラー392コンセプト
ラングラー・ルビコンには「392」なるモデルが設定されています。車名は、排気量を米国式にキュービックインチで表したもので、6.4リッターのV型8気筒搭載車です。
「ジープの熱心なファンはやっぱり大きな排気量エンジンが好きです」
ラングラーの開発を統括するピート・マイロ氏がそう説明してくれるように、コンセプトモデルにもちゃんと(?)392を載せた「ジープ・スクランブラー392コンセプト」が用意されました。
遊び感覚あふれたエクステリアの造型と、あざやかなグリーンのカラリングが、このクルマは遊びのため、という作り手の思いを具現化しているようです。
ドアのない、軽快感がセリングポイントと見受けましたが、どうせやるなら徹底的に、と車体は軽量で高剛性のカーボンファイバー製。ドアもない車体を載せています。
1981年に発表したジープ・スクランブラーCJ8のイメージを活かしたデザインだそうです。とはいえ、20インチのホイールに40インチ径のタイヤの組合せは、すごい。やりすぎ感たっぷり。
ドロドロドロ〜って聞こえる独特のV8のサウンドと、ごく低回転域から大きなトルクが出て、回転数の上昇とともに、どんどん力を増していく加速感は、昔ながらのもの。
このクルマが量産されたら(されない感じ……)、ときどきキャニオンランズ国立公園での走行を楽しみたくなりました。
▲エアサスペンションにより車高は1.5インチから5インチまで3段階で変えられるスクランブラー392コンセプト
▲スクランブラー392コンセプトの荷室にはボディ同色のカーゴベッドと洒落たデザインコンセプト
▲スクランブラー392コンセプトのシートはファブリック張りで座り心地が良好
▼「マグニトー3.0コンセプト」
▲どんどんパワフルになっていく第3世代のEVコンセプト、マグニトー3.0コンセプト
▲あえて市販モデルと近いイメージでピュアEVの現実性を強調するかのようなマグニトー3.0コンセプトのデザイン
▲無音で早い異次元感覚のマグニトー3.0コンセプト
ジープは2024年にピュアEVを登場させるとしています(25年の説もあり)。それを楽しみに思わせてくれるのが、「マグニトー3.0コンセプト」です。
ベースは、ラングラー・ルビコン。そこに電気モーターとバッテリーを搭載しています(バッテリーについての詳細は不明)。
3.0とは第3世代の意。「1.0」が2021年に、「2.0」が22年に発表され、そのたびにスタイリングが洗練されるとともに、パワーが上がっています。
23年の「3.0」の最高出力は285hp、最大トルクは370Nm。ダッシュボード上のスイッチによって、650hpと1220Nmへと切り替えが可能というユニークなシステム採用です。
もちろん、7スロットグリルなど、ジープのイメージはしっかり持っていますが、印象はより精悍に。Bピラーの位置変更と、ドアをとっぱらったスタイルで躍動感も増しています。
私が驚いたのは、無音で、岩場をよじのぼってしまう性能ぶりです。「4×e」も電動モードをもっていて、大きなモーターのトルクを活かした踏破能力に感心しますが、その上をいく印象。
岩場のコースのために用意したタイヤと、長いサスペンションストロークのおかげで、乗員は大きく揺さぶられることなく、望んだコースをしっかりキープして走っていけるのにも感心しました。
もうひとつ、特筆しておくべきことは、6段マニュアルシフトをそなえていることです。今回は3速いれっぱなしで、電気なので、クラッチを切らなくてもエンストはありません。
「マニュアルシフトは加速していくときに使えます。運転の楽しさを味わっていただけますよ」(アレン氏)
電動化はジープにとって不幸なことでなく、あたらしい楽しさを見出せるもの。という主張すら感じられました。
▲マグニトー3.0コンセプトのマニュアル変速機はトラベルが長くて、かつクラッチペダルは重い
▲マグニトー3.0コンセプトは車内で、出力の切り替え、ブレーキ回生の強さ選択、ヒルデセントコントロールのオンオフ、車高調整が行える
▲5インバーターを含む電動パワートレインが見えるような遊び心のあるマグニトー3.0コンセプトのデザイン
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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