50歳を過ぎると急激に罹患率が上がる「前立腺がん」。自覚症状がほとんどなく、早期発見のためには検査が重要だといいます。今回の記事では「前立腺がんのPSA検査」について、泌尿器科医の佐々木先生(佐々木クリニック泌尿器科 芝大門)にMedical DOC編集部が話を聞きました。

前立腺腫瘍マーカーのPSAって何の値? 検査で数値が高い(100を超える)と前立腺がんなの?

編集部

「腫瘍マーカー」とはなんですか?

佐々木先生

体内にがんがあると血液検査や尿検査で、特異的な物質の値が上昇することがあります。その物質が「腫瘍マーカー」です。血液検査や尿検査で、腫瘍マーカーの値を測定すれば、体のどこにどんながんがあるのかを推測することができます。

編集部

前立腺がんの腫瘍マーカーは「PSA」ということですか?

佐々木先生

そうですね。PSAは「前立腺特異抗原」の英名の略称で、そもそも前立腺の正常細胞内に誰もが持っている糖タンパクです。がん細胞により前立腺組織が壊れると、PSAが血液中に漏れ出すので、血液中のPSA値が増加します。つまり、血液検査でPSA値が高かった場合は前立腺がんの可能性がある、ということになります。

編集部

どのくらいで「数値が高い」というのですか?

佐々木先生

血中のPSAは、一般的には0~4ng/mLが正常値とされていますので、この範囲以上になると「数値が高い」といえます。また、年齢階層別にもPSAカットオフ値(特定の疾患や状態にあるグループとそうではない群とを分ける値)が提唱されています(50~64歳:0.0~3.0ng/mL、65-69歳:0.0~3.5ng/mL、70歳以上:0.0~4.0ng/mL)。その場合、年齢によっても正常範囲は異なります。

編集部

PSAの数値が高いことが、「イコール前立腺がん」ではないのですね。

佐々木先生

そうですね。先述のとおりPSAは前立腺特異抗原で、がん特異抗原ではありません。PSA値は年齢や生活習慣などでも変わりますし、前立腺の炎症などでも数値が上昇することがよくあります。PSA値が10ng/mL以上の方でも前立腺がんが発見されない場合もあれば、逆に、4ng/mL以下でも前立腺がんが発見されることもあるのです。やはり、確定診断のためにはほかの検査が必要ですね。

参考サイト
https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/diagnosis.html

前立腺がん検査でPSAの数値が正常値4ng/mL以上だとどうなる? がんと診断されたら治療は手術が必要? 監視療法とは?

編集部

PSAの値が高いと言われた場合、その後どうすれば良いのでしょうか?

佐々木先生

まずは泌尿器科を受診してください。そこで必要な診察や検査を行います。

編集部

どんな検査をするのですか?

佐々木先生

それぞれのケースによりますが、血液検査を再度行ったり、「直腸診」といって前立腺の触診をしたり、超音波検査やMRI検査を行ったりします。また、最近では「phi(プロステートヘルスインデックス)」といった新しいマーカー検査があり、必要に応じてこの採血検査を行うことがあります。最終的にこれらの結果を総合的に判断して、確定診断のための前立腺生検検査を行うかの判断をします。前立腺生検検査とは、麻酔下で前立腺に針を刺し、組織を採取する検査です。また、MRI検査で異常部位が認められた場合は、その部位の組織を採取する「標的生検」を行う場合があります。

編集部

では、「前立腺がん」と診断されたら、どんな治療をするのですか?

佐々木先生

前立腺がんの主な治療法としては、監視療法、手術療法、放射線治療、ホルモン療法、化学療法などがあります。がんの進行度や転移の有無などを踏まえて、患者さん本人と話し合いながら治療を決めていきます。

編集部

監視療法とは?

佐々木先生

積極的治療をすぐには行わず、3カ月ごとに直腸診とPSA検査を行い、また必要に応じてMRI検査や前立腺生検を行いながら、進行がみられた時点で必要な治療介入をするという方法です。「積極的治療をしなくても大丈夫なのですか?」と聞かれることもありますが、この治療選択肢は、何もしないといった意味とは違います。適切にフォローして、治療が必要と判断する状況になったら、根治治療を行うといったものです。ただ、経過を見ているだけではないのです。ただし、PSA監視療法は、前立腺がん治療によく精通している先生方にみていただくことをおすすめします。

前立腺がんやPSA検査の疑問を医師に直撃 早期発見のための検査はどこで受けられる? 検査費用や治療後の再発確率は?

編集部

前立腺がんの早期発見のためにはどうしたら良いのですか?

佐々木先生

前立腺がんは早期に発見し、適切に治療することで、死亡率を低下させることが可能ながんです。しかしながら早期の場合、自覚症状がほとんどなく、なんらかの症状が出てきてからの受診ではかなり進行してしまっていることもしばしば診てきました。早期発見も重要ですが、必ずしもPSA高値だからといって、すべてに生検検査が必要なわけではありません。早期発見しても、治療意義が低いがんもあります。つまり、いかに治療が必要ながんをみつけて、治療していくかが重要です。症状がなくても定期的に検診を受けて、PSA高値の場合は、泌尿器科専門医の意見を聞く機会をもち、あくまでも「治療が必要ながん」を早期発見するのが大切です。前立腺がんは年齢とともに罹患率が上がるため、50代以降の方は、まずは一度検査を受けましょう。

編集部

費用はどのくらいかかりますか?

佐々木先生

PSA検査は、市町村などの自治体で行われる「がん検診」に含まれている場合もあります。その場合は自治体の助成などで、無料~数千円程度で受けられると思います。まずはお住まいの自治体で確認してみてください。また、民間の健診や人間ドックや泌尿器科でも自費で行われています。適宜ご確認してみてください。

編集部

最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。

佐々木先生

PSA自体は、すべての男性が持っている物質であり、PSA値の上昇「イコールがん」ではありません。MRI検査、エコー検査、生検などを行い、専門医が総合的に判断する必要があります。 また、仮に「前立腺がん」という診断がついたとしても、すぐに積極的治療が必要とは限りません。「腫瘍マーカーが高値」「前立腺がんの疑いあり」などと聞くと不安になってしまう方も多いと思いますが、慌てずに、まずは専門医の意見を聞くことがおすすめです。心配なことは一緒に解決していきましょう。

編集部まとめ

前立腺がんについて、腫瘍マーカーや診断、治療などについて、お話を伺いました。「PSA値」が前立腺がんの腫瘍マーカーであることは間違い無いのですが、実際に「前立腺がん」と診断され、さらに「すぐに治療が必要」とみなされるにはいくつかの検査による慎重な判断が必要なようです。1人で不安にならず、まずは専門医の意見をきちんと聞いてみてください。

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