今期業績予想ベースでは株価は割高でも、業績が伸びる来期に割安になる銘柄にいち早く注目したい(写真:hachiware/PIXTA)

株価の割安さ、割高さを判断するための代表的な指標といえばPER(株価収益率)。株価が1株当たり純利益(EPS)の何倍の水準となっているかを示し、成長性や業種・業態によって適正な水準は異なるものの、一般的にPERが低いほど割安ととらえることができる。


3月17日発売の『会社四季報プロ500』2023年春号では、1〜3月決算の全上場企業を対象に、『会社四季報』の来期(2023年度)業績予想をベースにした「来期を先取り!」ランキングを掲載。来期の営業増益率、高配当利回りのランキングとともに取り上げているのが、割安度が向上する「来期PER低下ランキング」だ。

3月決算の銘柄であれば3月末が今2023年3月期の期末となり、4月後半から5月にかけての決算発表のタイミングで、来2024年3月期の会社の業績計画が示されることになる。

これを先取りして、すでに株価に織り込み済みとなっていることが多い今期業績ではなく、いちはやく来期の業績予想を銘柄選びに役立てるというのがコンセプトだ。今期、来期の2期分を掲載している『会社四季報』の独自業績予想ならではの強みを生かしたランキングとなっている。

PERで株価の割安さを判断する上で重要となるのが、過去の水準との比較。「PER=株価÷EPS」で算出されるため、来期EPSが増えればPERは低下することになる。今期予想ベースでは割高でも、業績成長を見込む来期予想ベースでPERが低下する「未来の割安銘柄」を発掘したい。

自動車部品メーカーが上位にランクイン

来期PER低下ランキングのトップは、日産自動車向けが主軸の自動車用プレス大手、ユニプレス。昨年10月以降の中国でのゼロコロナ政策の影響が直撃し、自動車生産が当初計画に届かず2月に今2023年3月期の業績予想を下方修正。純利益は従来計画の25億円から5億円に減額され、修正後の今期予想ベースでのPERは約80倍と割高な水準となっている。

しかし、来期は日産自動車の新車増産にともない、プレス部品の数量が復調する見通し。純利益は39億円に急回復する予想で、PERは約10倍に大きく低下する見通しだ。

2位は自動車用樹脂部品が主力製品でホンダ向けが大半を占める森六ホールディングス。食品の包装フィルムや機能性点滴バッグなど化学品商材事業も展開する、1663年創業の老舗企業だ。1958年に発売された自動2輪「スーパーカブ」に樹脂製品が採用されたことが、ホンダとの良好な取引関係を築く礎となったという経緯がある。

同社もユニプレスと同様、中国のロックダウンなどコロナ影響による顧客自動車メーカーの減産を受け、樹脂加工製品が当初計画から大きく下振れるなど今期業績は苦戦。ただ、来2024年3月期業績予想に目を向けると、PERは10倍前後まで改善しそうだ。

続く3位にも、ホンダ系列の自動車部品メーカーの武蔵精密工業がランクインした。自動車や自動2輪向けにシャフトやギアなどの精密部品を展開。AIを活用した工場向けの外観自動検査装置をトヨタ自動車に納入するなど、先端技術の取り込みにも積極的だ。

今2023年3月期は前期比で増益を見込んでいた従来計画から2月に一転して減益に下方修正したものの、会社四季報の来期純利益の予想は今期比4.7倍となる98億円。コロナ感染拡大前の2019年3月期の水準まで一気に回復する予想となっている。

これにともない、PER水準も43ポイント改善する見通しだ。顧客となる自動車各社の生産がコロナ影響や半導体不足の問題などから復調することにともない、来期予想ベースでは自動車部品メーカーのPER水準は大きく改善することになりそうだ。

構造改革効果や経済再開が追い風の企業も

自動車部品メーカーが顔を揃えたトップ3以外でも、注目の「未来の割安銘柄」がランクインしている。たとえば、PERが今期の53倍から12倍に改善する見通しで、4位になったのがコニカミノルタ。複合機の中堅メーカーで、液晶用のTACフィルムでも高い世界シェアを握るほか、X線撮影装置など医療関連の事業にも力を入れている。

2020年3月期から前2022年3月期まで3期連続の最終赤字から、今2023年3月期は人員削減など構造改革の効果が後半に発現して、小幅ながら黒字化することが濃厚。来期は構造改革効果が通期寄与することにより、純利益は4.5倍の247億円となる予想だ。

コロナ禍からの経済再開が追い風となる旅行・観光関連の代表格とも言える日本航空も、来2024年3月期にPERが割安な水準まで大きく改善する。国内線の復調とともに、後半から国際線の旅客回復が本格化していく想定の下、純利益が大きく増加。つれてPERは今期の約45倍から15倍台へと低下する見通しとなっている。

スマホゲームの「モンスターストライク」が稼ぎ頭のMIXIも、来期にPERが低下する銘柄の一角。PERは39倍から12倍に改善する予想で、ランキングの13位に入っている。今2023年3月期は「モンスト」がイベント効果で好調の一方、開発中の一部ゲームを中止したことにともない事業撤退の特損を44億円計上。来期は「モンスト」の好調が続くとともに、特損がなくなることで純利益が大幅増となるというのが会社四季報の見立てだ。

業績の成長性の高いITサービス関連で24位にランクインしたのが、ネット媒体の広告枠を自動売買するアドテクノロジー事業を展開するジーニー。2月末に買収した米国の同業Zelto社が通期で貢献することにより、来期の純利益は今期比約2倍の18.9億円に拡大する見通し。来期予想PERは16.5倍で、高成長銘柄としては比較的割安な水準となっている。

なお、『プロ500』の誌面では、業績やテーマ性、株価の動向などをもとに全上場企業から500銘柄を厳選して掲載。今回の1〜3月期の全上場企業を対象にしたランキングの上位に入った銘柄でも、誌面で非掲載となっているものもある。『プロ500』に非掲載の企業については、全上場企業を掲載している『会社四季報』やオンライン版の『会社四季報オンライン』で来期の業績予想の背景などをチェックしてみていただきたい。


(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(島 大輔 : 『会社四季報プロ500』編集長)