トランス脂肪酸は身体に悪いもの? どんな食品に含まれているの? 管理栄養士が解説
トランス脂肪酸は体に悪いと聞いたことがあっても、実際には体にどのような影響があるのかよく知らないという人が多いと思います。身体に悪いという印象がありますが、実際のところはどうなのでしょう。トランス脂肪酸とはどのようなものなのか、管理栄養士の片村さんに伺いました。
そもそもトランス脂肪酸とはなにか? どんな食品に含まれている?
編集部
トランス脂肪酸はどのようなものでしょうか?
片村さん
トランス脂肪酸は脂質を構成している脂肪酸の一種です。脂肪は分子の構造によっていろいろな種類に分けられます。そのなかの一つである不飽和脂肪酸には、炭素に結合している水素原子が同じ側にあるシス型と、反対側にあるトランス型があります。天然の食品に含まれている不飽和脂肪酸はほとんどがシス型であるのに対し、トランス型は加工食品に多くみられます。これは、多くの場合、液体の油脂から固体の油脂を製造する際の水素添加という工程によるものです。
編集部
トランス脂肪酸はどのような食品に含まれていますか?
片村さん
トランス脂肪酸は植物油などからマーガリンやショートニングなどを加工するときや、植物油を高温にして脱臭する工程で生じます。そのため、マーガリンやショートニングを原料とした食品にトランス脂肪酸が含まれることがあります。また、自然界では反芻動物に由来する乳製品や肉に含まれています。天然のトランス脂肪酸はほぼシス型なのですが、反芻動物では胃の中の微生物によってトランス脂肪酸が作られるのです。
編集部
トランス脂肪酸は一種類だけなのでしょうか?
片村さん
トランス脂肪酸は、たくさんの種類をまとめたものです。脂肪はグリセリンに3つの脂肪酸が結合したものですが、脂肪酸は長さや二重結合の数、位置によって性質が異なっています。トランス型の結合を1つ以上持つ脂肪酸をまとめて、トランス脂肪酸と呼んでいます。
トランス脂肪酸の健康影響を解説 摂取目安量はどのくらい?
編集部
トランス脂肪酸は日本人の体への悪影響はありますか?
片村さん
日本人は脂質の摂取量が少なく、通常の食生活をしていれば健康への影響は小さいと考えられています。ほとんどの日本人はWHO(世界保健機構)が設定している基準よりも下回っていますが、脂質に偏った食生活をしている人は脂質の摂取量に気を付ける必要があります。ほとんどの研究報告が海外のものであり、脂質の摂取量が少ない日本人に対するトランス脂肪酸の情報はまだ少ないのが現状です。
編集部
外国ではトランス脂肪酸についてどのようなことが言われているのでしょうか?
片村さん
トランス脂肪酸を多く摂取することによって、心筋梗塞などの冠動脈疾患、肥満、アレルギー性疾患のリスクが高まるとされています。しかし、トランス脂肪酸にはたくさんの種類があることから、どれが健康に悪影響を及ぼすのか、天然と加工過程でできるトランス脂肪酸には体への影響に違いがあるのかなどの詳しいことについては、十分な科学的根拠が得られていません。
編集部
トランス脂肪酸の摂取目安量というのはあるのでしょうか?
片村さん
摂らなければならないという量はありません。WHOでは、総摂取エネルギー量の1%を基準としています※。2000kcalのエネルギー摂取では20kcalに相当する量になりますので、グラムに換算すると約2g程度となります。マーガリンを例にすると、マーガリン100gあたりには7.0gほどのトランス脂肪酸が含まれています。しかし、マーガリンを一度に100gも食べることはほぼないので、通常の食事をしていれば基準量を超えるというのはほぼあり得ないことです。ちなみに、日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は総エネルギー量の0.3%程度と考えられています。※厚生労働省「トランス脂肪酸に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091319.html
トランス脂肪酸の摂りすぎに注意しよう! 食事の際の注意点を解説
編集部
トランス脂肪酸の摂りすぎにならないためにはどのような食事が理想なのでしょうか?
片村さん
トランス脂肪酸は脂質の一種ですので、まずは脂質を摂りすぎないように気を付けることが前提です。揚げ物や炒め物など油を多く使う料理や、肉類に偏りすぎないように注意しましょう。おすすめの調理法は茹でたり蒸したりする湿式加熱と呼ばれる調理法です。自然と油の量を抑えられるので脂質の摂取量を抑えることができます。
編集部
脂質の摂取以外に気を付けることはありませんか?
片村さん
マーガリンやショートニングは、菓子やスナック類に原料として使われている場合がありますので、間食の摂り方にも気をつける必要があります。例えば、ケーキやドーナツなどの洋菓子やビスケット、コーン系のスナックにはトランス脂肪酸が含まれる場合もあります。間食はトランス脂肪酸だけではなく、全体的にエネルギーが高く糖質や脂質を多く含む傾向にあります。生活習慣病予防の観点から見ても、摂取量を減らすことが望ましいと言えるでしょう。
編集部
海外ではどのような取り組みがされていますか?
片村さん
脂質の摂取量が問題視されている国では、トランス脂肪酸だけではなく脂質の摂取量について注意喚起がされています。また、国が企業に対してトランス脂肪酸の表示を義務付けたり、減らすように呼びかけをおこなっていたりと、社会的な取り組みをおこなうことで国民の摂取量減少を実現できた例もあります。日本のようにトランス脂肪酸の摂取量が低い国では規制はしなくとも、企業に対して脂肪酸の量を減らすよう自主的に努力するよう求めている国もあるようです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
片村さん
今の日本人の食生活では、トランス脂肪酸についてはそこまで慎重に考える必要がないと言えるでしょう。しかし、日本では海外の食事や文化が広がってきていますので、今後どうなるかはわかりません。私たちが普段の生活のなかでできることは、まずは脂質の摂取量に気をつけて、バランスが良く健やかな食生活を送ることだと思います。トランス脂肪酸だけを意識するのではなく、全体を見ながら食事を組み立てていきましょう。
編集部まとめ
トランス脂肪酸はマーガリンや加工食品に多く含まれているもので、肥満や生活習慣病、アレルギーなどの疾患と関連性が示されているということがわかりました。実際はまだはっきりとわかっていない部分が多く、日本人の食事では心配するほどのトランス脂肪酸を摂取していることは少ないそうです。トランス脂肪酸だけではなく脂質全体の摂取量が多くなりすぎないように、バランスの良い食事を心がけることが大切だと言えるでしょう。
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