2015年12月〜2023年1月にかけて販売された4代目プリウス(写真:トヨタ自動車

「Hybrid Reborn」をコンセプトに斬新なスタイリングで話題を呼んでいる5代目トヨタ「プリウス」。ついそのデザインに目が奪われるが、加速性能をはじめとしたHEV(ハイブリッド車)としての性能を磨き込んだことも、注目ポイントだ。

しかし、斬新なスタイリングと走りのブラッシュアップという点は、2015年12月に登場した先代(4代目)も、3代目から大きく変わった点であった。


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重心を下げ、“走りの良さ”を強調したことが、それまでとの大きな違いで、特徴的なデザインとあわせて賛否がわかれたものである。

これは、「ヴィッツ(当時)」から「アルファード」まで、あらゆるクルマにHEVがラインナップされたことで、プリウスの存在感が問われたがゆえのモデルチェンジだったともいえ、トヨタの試行錯誤の結果でもあった。実際、発売から時を経るごとに販売は伸び悩み、「アクア」をはじめとした他車種に移った感もある。

そこで、5代目プリウスが誕生した今、4代目が「どんな人に売れたのか」を見ていきたい。

アクアやカムリなど5車と比較

一般にデータ分析では比較を行うことが基本となるため、いつもユーザー分析をする際には、競合車種と比較している。しかし、エコカーの代表として君臨し続けたプリウスは、比較対象となる競合車種があまりない。一時、ホンダ「インサイト」が存在感を示した時期もあったが、プリウスの牙城は崩せなかった。


発売当初の「前期型」となる4代目プリウス(写真:トヨタ自動車

そこで、本分析ではプリウス購入者のうち、それなりに多くの人たちが実際に比較した車種である、トヨタ「アクア」、トヨタ「カムリ」、ホンダ「フィット」、日産「ノート」、日産「リーフ」を比較対象として取り上げることにした。

使用するデータは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」を使用する。

<分析対象数>
■トヨタ プリウスプリウスα、プリウスPHVは除く):4,282名
■トヨタ アクア:5,369名
■トヨタ カムリ:712名
■ホンダ フィット:4,495名
■日産 ノート:5,356名
■日産 リーフ:1,188名
※いずれも分析対象は4代目プリウスの販売期間に合わせて2015年12月〜2022年11月新車購入者とする


まずは4代目プリウス発売以後、6年間のプリウスプリウスα含む)の順位と販売台数を自販連のデータから見てみよう。

■2016年 1位(248,258台)
■2017年 1位(160,912台)
■2018年 3位(115,462台)
■2019年 1位(125,587台)
■2020年 12位(67,297台)
■2021年 16位(49,179台)
■2022年 20位(32,675台)
※一般社団法人日本自動車販売協会連合会「乗用車ブランド通称名別順位」より
プリウスαを含む

2015年12月に登場した4代目プリウスは、登場直後となる2016年からスタートダッシュに成功。乗用車・軽自動車含めて、唯一の20万台超えとなる24.8万台もの圧倒的な台数を記録した。

ちなみに2位は同じくトヨタのアクア(約16.8万台)、3位もトヨタのシエンタ(約12.6万台)であった。この3車種だけで50万台オーバーと、中規模メーカーの年間販売台数を超えそうである。

その翌年の2017年も1位と好調で、2018年は3位(1位はノート、2位はアクア)となるも、2019年に再び1位に返り咲く。しかし、2020年から急激に販売台数は減少する。2021年、2022年も前年割れが続く。2020年といえば新型コロナウイルスの感染が広がった年であるが、コロナ禍とはいえ販売台数の落ち幅は大きすぎる印象だ。


フロント・リアのデザインが変更された後期型モデル(写真:トヨタ自動車

理由はいくつか考えられるが、1つには同じトヨタ内に「ヤリス」など新たな人気モデルがしたことがある。それらのモデルにはもれなくハイブリッド仕様車がラインナップされ、ハイブリッド専売車であることの価値が相対的に低くなった。加えて、SUV人気に押しやられた点も、影響としては大きいだろう。

総支払額「250万円」が1つの基準に

ここからは購入者のデータを見ていく。まずは「車種決定のこだわり度」から。


プリウスの「ぜひこの車種に」は45%となっており、他の車種と比較するとアクア、フィット、ノートのコンパクトカーよりは高いがBEVのリーフよりは低く、カムリとはほぼ同じである。プリウスオーナーの“プリウスへのこだわり”は、特段高くも低くもないといったところだ。

続いて性別・年代構成を見てみよう。最も多いのは60代以上の男性で、37%だった。


女性も60代以上が21%であり、合わせて60代以上の割合は58%と高い。デザインの方向性よりも、それまでに築かれてきたプリウスというブランドへの信頼感が、シニアに選ばれる理由なのだろう。デザインを一新した5代目では、「決定のこだわり度」がどれほど強いこだわり側へ動くか、またユーザーの若返りが進むのかに注目していきたい。

次に取り上げるのは、価格に関するデータだ。4代目プリウスの「値引き前車両本体+オプション価格」の平均値は329万円であり、下位グレードよりも中上位グレードのほうが売れていたと考えられる。値引きおよび下取り額を引いたあとの「最終支払い額」は270万円であった。


アクアの210万円より60万円高く、250万円を超える予算があるかどうかが、プリウスにするかアクアにするかの1つの判断基準になっていそうである。さらに走りや高級感、室内空間などを求める人は、100万円ほど価格帯は上がるがカムリが選択肢に入るだろう。

では、4代目プリウスのオーナーはどこを気に入って、購入したのか。最もスコアが高いのは「燃費の良さ」であった。ハイブリッドカーとして鮮烈なデビューをかざった初代から、「プリウス=低燃費」のイメージが多くの人に届いていることがわかる。


一方で「スタイル・外観」の評価は低い。タイプが違うので単純比較はできないが、カムリは8割近い人が「気に入った」と答えたのに対し、プリウスは4割に満たなかった。デザインについては4代目の発表当時から評価が割れていたが、それが表れていると言えよう。

各車に「あてはまるイメージ」の回答結果も紹介する。多くの購入者に選ばれたものを順位形式で示したものが、以下の表だ。


最も多くの票を集めたのが「環境にやさしい」であり、2人に1人が選択している。続いて「経済的」「先進的」「安全」「信頼」と続く。同じくトヨタのハイブリッド専売車であるアクアでは、「先進的」「信頼」のかわりに「カジュアル」「都会的」がランクインしており、キャラクターの違いが見て取れる。

環境にやさしいイメージはあれど……

最後にプリウス購入者の「環境に対する意識」を2点ほど示しておこう。プリウスの気に入った点として「燃費の良さ」を、そしてプリウスにあてはまるイメージとして「環境にやさしい」と答えた人が多かったが、だからといって必ずしも「環境意識が高い」わけではないようだ。

「環境保全のためなら多少余分に車にお金を払ってもよい」に、「あてはまる」と回答した人はわずか1割で、リサイクル素材を使用した商品の購入についても、同程度であった。環境に優しいプリウスは気に入っているが、「お金を払ってでも環境に良い車を買いたいか」と聞かれれば、「Yes」と答える人は少ないという結果となった。



今回は、5代目プリウスが登場したタイミングとして、先代モデルである4代目プリウスの購入者像を明らかにした。大きく印象を変えた5代目の販売が進んでいったとき、その購入者の年代やキャラクターに変化があるのかないのか。もう少し時間が経ったら、5代目初期購入者の分析も行ってみたい。

(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)