外食産業はどうなっていくのか(写真:編集部)

コロナ禍がようやく終息に向かいつつある。この3年は、外食産業にとっては未曽有の災厄となり、ほとんどの企業がその業績に大きなダメージを受けてきた。コロナ禍の終盤(であると期待したい)となった今、外食産業はどうなっているだろうか。

復活状況は業態によってバラツキ

日本フードサービス協会のJF外食市場動向調査によれば、2022年12月には外食全体としての売上動向は、2019年同月との比較で100.6%となり、コロナ前を上回った。ただ、その復活状況は業態によってバラツキがある。

好調なのは、ハンバーガーなどの洋風ファストフード(124.0%)、牛丼、うどんなどの和風ファストフード(109.0%)が牽引するファストフード業態で、112.2%となり、コロナ前よりも1割以上も伸ばしている。ただ、ファミリーレストランでは93.7%、ディナーレストラン85.7%、居酒屋54.7%と、ディナー依存度、アルコール比率が高い業態ほど回復していないことが見て取れる。


コロナ前なら年末の稼ぎ時だった12月であるが、個人客にはかなりの回復があったものの、大人数の宴会客などが戻らなかった、と同協会では分析している。主要外食各社の業績に関しても、コロナの渦中であった前期と比べて、多くの企業が増収にはなっている。

主要上場企業45社の四半期直近決算を抽出して、前期と比較してみると、44社が増収となっており、また営業赤字は前期26社から16社へと減った。ファミリーレストラン、ディナーレストラン、居酒屋業態を中心とした企業には赤字企業が多いが、業界全体として回復基調にあることは間違いないだろう。


病み上がりの外食産業を襲う価格高騰

ディナー、アルコール関連での需要にも影響する、首都圏人流の動向を表すJR東日本の在来線の旅客輸送量(コロナ前比較値)を見ると、2023年3月期では第1四半期79.6%、第2四半期76.3%、第3四半期85.1%と徐々に回復しつつあり、2023年3月末では95%まで戻るという予測値を示している(JR東日本決算説明資料)。

併せて、コロナの扱いが「5類」に変わって、感染動向による行動規制がなくなることで、ディナー需要に関しての制約はかなり改善する。これまでは会社員、公務員などビジネスパーソンについては、職場でのクラスター等発生を回避するため、大人数での宴会、部署内宴会などを、制限していた組織は多く、これは昨年末の宴会需要が戻らなかった要因でもあろう。

これらの行動規制が実質なくなることで、ディナー系需要も本格的な回復に向かうことが期待できる環境が整うはずだった。しかし今、コロナ禍という災厄から病み上がりの外食産業に、次なる災厄が迫っている。食料、エネルギーを中心とした価格高騰が、回復の兆しを見せていた外食需要に冷や水をあびせつつあるからだ。

12月の消費者物価指数は前年比で+4%となって、長い間デフレが続いていた国内の物価は上昇に転じており、特に海外からの輸入に依存するエネルギー、食料の高騰が著しくなっていることは、ご存じのとおりである。

食を提供する外食産業にとっても、原材料である食品価格や、光熱費の高騰は大きな影響があり、価格転嫁を進めていかねばならないという苦しい局面となっている。ただ、それ以上に外食産業にとって懸念されているのは、今回の価格高騰が海外由来のものであり、賃上げには直結するものではないということだろう。

賃金上昇が進まない中、食品、光熱費といった必需支出が増加すれば、コロナのときにも聞いた「不要不急」の支出とされる外食が抑制される可能性が高い。こうした需要環境での原材料やコスト上昇の価格転嫁の難度も高くなる。

客数が減少している企業が続々

前段で業績をピックアップした上場外食のうち、既存店売上動向(売り上げ、客数、客単価)を公表している企業(37社)の2022年10〜12月の対前年比の客数の動きを表に並べてみた。1月は前年にコロナ感染者拡大による落ち込みの反動影響があるため比較から外している。


客数が減少している企業の数は、10月8社⇒11月17社⇒12月19社と増加しており、外食チェーンの客数が減る傾向にあることがわかる。これらの要因は明確には把握されてはいないのだが、客数が減った企業のほとんどで、客単価が上昇している(≒価格改定実施)ということがわかっており、値上げによって来店が抑制されたと解釈するのが妥当であろう。財布の紐を締めねばならない消費者としては、値上げに敏感に反応して、行く回数を減らした、ということをデータは示している。

さらにどのような人が来店抑制したのかを推測できるデータもある。総務省「家計調査」では、所得階層を5つ(調査母集団を人数で5等分し、所得が低いほうから1〜5階層としている)に分けて、項目別に支出の動向を見ることができる。


外食支出は、2022年9月にはそれまでの落ち込みの反動からプラスとなっていたが、10月以降は所得が少ない層から落ち込みの傾向が顕著になっている。高所得層(5階層)に関してはプラスを維持して10月以降も増加基調が続いている。

関連して、中食についてみてみると、所得層にはあまり関係なく若干増加という傾向になっている。これらの結果を見る限り、外食に関しては所得の少ない層は、必需支出項目の高騰の影響から、節約モードに入って、支出を抑える傾向が顕著になっているが、高所得者層においては値上がりによる影響は見られない。


中食については増加傾向が続いており、所得の少ない層における外食支出を代替しつつある、といったことも考えられる。今後さらに賃上げなき価格上昇がさらに進むようなら、2階層、3階層へも外食支出を控える動きが拡大していく可能性がある。現時点では大企業の賃上げは少しずつ実現しているようだが、中小企業に関しては、その大多数が賃上げ余力はないと報じられている。

対応が素早い「すかいらーく」

外食企業の顧客層がどのような所得階層か、を公表したデータはないため、われわれにはこれから各社にどのような影響が出るかを予想できない。しかし、外食企業として自社の顧客層の所得階層を把握しているのであれば、顧客のロイヤリティを加味しつつ、物価上昇の進行度合いに応じたシミュレーションが可能だろう。

コロナ禍という一難が去りつつあるが、次の一難も経営を揺るがすような影響となる可能性があり、自社への影響を予測しておく必要があるはずだ。すかいらーくは、「インフレの加速による生活防衛意識の高まり」等を織り込んで、100店舗の閉店をかなり前に決定していたが、こうしたシミュレーションを踏まえた素早い対応なのだろう。社名である「すかいらーく」という店名が残っていないほど業態を変化させて、老舗大手として存在感を維持し続ける会社の危機対応に学ぶべきところは多い。

(中井 彰人 : 流通アナリスト)