自動車盗難の被害が相次いでいます。もはや“ビジネス”として、犯行の組織化、凶悪化も目立ちますが、盗難被害の件数自体は、長年の取り組みから大きく減っています。ここから行政側と被害者感情のズレが浮かび上がってきます。

防止計画から20年 自動車盗難は激減しても、高まる被害者の声

 自動車の盗難被害件数は近年、大きく減っています。官民が協力した盗難防止対策は一定の効果を上げていますが、被害者自ら「盗難の厳罰化に動くべき」と、関係省庁に働き掛ける事態に至っています。数字に現れない犯罪の凶悪化も目立つ中、対策は充分なのでしょうか。


ランドクルーザーとプリウス。警察庁のレポートでも盗難台数が多い2大車種となっている(画像:トヨタ)。

 2023年1月、警察庁生活安全企画課は「自動車盗難等の発生状況について」というレポートを公表しました。

 2002年に6万2673件あった盗難認知件数は、2021年には5182件。20年間で大きく減少しました。検挙率も当時20.4%でしたが、2021年は49.3%に上昇。摘発も効果を上げています。2002年は、警察庁が官民PT(プロジェクトチーム)を立ち上げ、自動車盗難等防止計画を策定し対策に踏み出した年でした。

 盗難の厳罰化を求める被害者要望に対して、同課は「新規立法の具体的予定は有していない」とする一方、「この計画に沿って、自動車盗難防止対策や自動車盗難事件の捜査などに、しっかりと取り組んでまいりたい」と回答した背景には、こうした実績があると思われます。

 それでもなお、盗難被害を訴える声がSNS上にあふれています。

「埼玉県本庄市にてランドクルーザーが盗まれました。1/25 am1:00頃、自宅駐車場に停めてあったランクル盗難。AirTagを追跡したけど、数キロ先で無効化されてました」
「1/14(夕方)〜1/15(朝)の間に車両盗難にあいました。盗難にあった場所は名古屋市東区です」

役目を終えた認識?「自動車盗難等防止計画」警察庁サイトから削除か

 警察庁生活安全企画課は、自動車盗難に関するレポートの中で「自動車盗難等に関する官民合同プロジェクトチーム」の紹介を、第一に記しています。

 自動車メーカー団体、自動車保険共済団体、整備事業者団体、自動車オークション団体など18団体、3省庁が列記されています。しかし、このPTによる「STOP THE 自動車盗難」のウェブサイトは、「諸事情」で2022年末に閉鎖されました。

 事業者だけを集めたPTの効果は、疑問視されています。例えば、保険事業者が対象とするのは、盗難保険加入者の被害だけです。対策を考える団体は直接の被害者ではなく、被害者との利害関係者でしかありません。車両盗難被害ではオートバイ盗も無視できない数がありますが、PTには二輪車の販売、オークションなどの専業事業者団体は入っていません。


「STOP THE 自動車盗難」のサイトは閉鎖されてしまった(中島みなみ撮影)。

 官民で実施する「自動車盗難等防止計画」についても、警察庁のウェブサイト内検索では、発見することができませんでした。

 警察庁に取材を申し込みましたが、文書回答で、「計画に沿ってしっかりと取り組んでいる」(生活安全局)とし、内容の説明はありませんでした。

ビジネス化する自動車盗 被害者は「ヤード規制」立法訴え

 自動車盗がビジネス化していることは、警察庁のレポートも指摘しています。その実態について、「犯罪グループが組織的に関与」「暴力団や犯罪組織の資金源になっているものがある」「盗まれた車両は、ヤードに運ばれ、不正に解体されているものがあります」と分析します。

 ヤードとは車両の解体作業場のことで、輸出用に車体を部品に分解します。この作業場所が、盗難車の痕跡を消すため不正に使われていることがあります。こうした状態が把握されていても、今まで法規制は重視されませんでした。

 現状で「ヤード規制」は、都道府県の条例頼みです。

 自動車盗の発生は地域差が大きく、全国の60.8%を占める千葉県、愛知県、茨城県、大阪府、埼玉県の5府県のうち、大阪を除く4県では独自に条例を制定しています。しかし、多発地域に隣接する東京都、神奈川県、岐阜県、兵庫県などでも年100件以上の認知件数がありますが、条例はありません。

 被害者団体「車両盗難を厳罰化推進の会」は、ヤードを規制することが効果的だと、法律にすることを求めています。SNS上の声です。

「愛知県もヤード取り締まり強化条例を制定したが、ワーストを突っ走る茨城県は『茨城県ヤードにおける自動車の適正な取扱いの確保に関する条例』を平成29年4月1日に施行しても焼け石に水」
「また神奈川、取り締まりの強化の為にも各県警の連携強化と、取り急ぎヤード条例の制定を」


ヤードの例(画像:千葉県警)。

 施錠や防犯装置の搭載などユーザー側の“自衛”や、都道府県警察の“現場力”で盗難は確かに激減しました。しかし、条例のない地域では、捜査の過程でしかヤードの実態が把握できません。条例のない大阪府八尾市では、盗難車を制止させる警察官の発砲(1月13日)があったばかりです。その先の対策が検討されるべき時にきています。