<2022年12月3日>裾野市「さくら保育園」に県と市が特別監査に入る様子(写真・共同通信)

 ギリギリ、ギスギス、頑張れない、ブラックすぎる “3G職場” が次々と “ビンタ保育士” を生み出しているーー “年収は300万円以下56.5%” “1日8時間超の過重労働73%” “勤務先で虐待が問題になった16.4%” 異次元の少子化対策を掲げる岸田首相よ、現場のリアルな叫びを聞け!

「正直、園児を虐待する気持ちもわかります。私は暴力をふるったことこそないものの『いい加減にして!』と、怒鳴ってしまったことがあります。報道を見て、他人事じゃないなと感じました」

 曇った表情でこう話すのは、岐阜県の保育士(25)だ。

 昨年12月、静岡県裾野市「さくら保育園」では、元保育士3名による1歳児への虐待が発覚。さらに、9月には静岡県牧之原市の「川崎幼稚園」で、送迎バス内に置き去りにされた3歳児が死亡する事故が起きるなど、2022年は保育園や幼稚園での事件・事故が相次いでいる。

 そこで本誌は、保育現場のリアルな実態を調査するため、全国の保育士121名に、緊急アンケートを実施。すると「園児を虐待したことがある」と回答した保育士が1割近くに及び、「園で虐待が問題になったことがある」という回答も、16.4%にものぼった。

『ルポ保育崩壊』(岩波新書)などの著書を持つ、ジャーナリストの小林美希氏は、この結果に驚きを隠せない。

「10人に1人が虐待したことがあるということです。園児数にもよりますが、1つの園あたりで、保育従事者は10〜20人が雇われています。平均して、園に1〜2人は虐待した保育士がいるということですから、多い数字だと思います」

 実際に虐待現場を目のあたりにした東京都の保育士(35)は、こう訴える。

「私が勤めていた保育園では、 “しつけ” の名目で日常的に虐待がおこなわれていました。園児が片付け忘れたコップで頭を小突いたところを、保護者に目撃されて問題になったことが。また、言うことを聞かなかった子を担ぎ上げて投げつけ、顔から流血させた事件もありました。いずれも保護者から苦情がありましたが、園長が『熱が入りすぎて、思わず手が出てしまった』などと釈明し、大きな問題にならずじまいでした」

 別の東京都の保育士(29)は、さらに卑劣な虐待現場を思い出し、肩を落とした。

「給食を時間内に食べ終わらなければ部屋の外に出し、床に正座させ、食べ終わるまでそのまま放置するんです。園児がウトウトしだすと、ドアをドンドン叩いて起こし、鬼のお面を見せて『早く食べないとお前を食べるぞ!』と声を低くして脅していました。口に食べ物がいっぱいに詰まった状態で脅されるので、園児は泣きながら吐き出してしまう。すると、吐いたものを無理やり口に詰め込むんです。とても “しつけ” と呼べるものではありませんでした」

■「園児の脱臼に気づけず」困窮する保育の現場

 一方、「事故の現場を見逃してしまった」と言う保育士も。

「50人ほどの園児が外で遊ぶのを、一人で見ていなければならないときがありました。そんななか、一人の園児が肩を脱臼する事故が起こりました。私はすぐに気がつかず、あとで主任にひどく叱られました。でも、園長も主任も、基本的に現場には出ません。慢性的な人手不足のせいで、こうした事故や虐待が起こっても、気づけない状況にあるのです。さらに、1日12時間以上働いて、月の手取りは約13万円。行事前などは特に忙しくて、先生たちはみんなギスギスしています」

 アンケート結果でも、1日の労働時間が8時間以上という回答が73%だったのに対し、年収300万円以下の保育士が半数以上にのぼり、低賃金・長時間労働の実態が如実に表われた。前出・小林氏が、こうした状況の背景を語る。

「大きな原因のひとつが、営利企業が認可保育園に参入できるようになったことによる人件費の削減です。保育園に入る運営費は人件費で8〜9割を占めますが、事業者によってはそれを4〜5割に抑え込むところがあります。年収が手取り200万〜300万円と答えている保育士も、東京23区では、本当は1人あたり最大で560万円が、公費で出ている計算です。

 ほかにも、安倍政権下の2013年度から急ピッチで保育所を作りすぎたことによる、保育士不足も深刻です。また、戦後から70年以上も4〜5歳児の配置基準が変わっておらず、保育士1人で30人まで担当しなければいけません。人件費の使途を明確にし、配置基準の引き上げをしない限り、虐待や事故はなくならないでしょう」

 岸田文雄首相は、4日の年頭会見で “異次元の少子化対策” を優先課題に掲げ、「幼児・保育サービスの充実」を目玉のひとつに据えた。保育業界の歪みが露呈した2022年。2023年は、光が見える一年になるかーー。