1月8日の中国の空港の様子(写真:Featurechina/アフロ)

中国政府が1月10日、日本人と韓国人を対象にした新規のビザ発給業務を停止した。

日韓は中国からの入国者に対する水際対策を強化しており、中国外交部(外務省)は「差別的な入国制限への対抗措置」だと説明する。ただ、より厳格な水際対策を取っている韓国よりも日本に対する対抗措置のほうが厳しくなっており、中国政府の「見切り発車」「各国の大使館への丸投げ」ぶりも鮮明になっている。

中国は昨年12月、経済活動や市民生活を犠牲にしてでも感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ政策」を転換し、大規模PCR検査や濃厚接触者の隔離、移動制限を次々に取りやめた。

その後中国ではすさまじい勢いで感染が広がっているが、集団免疫を早期に獲得する方針に転じた政府は1月8日に感染症対策のレベルを引き下げ、入国者に求めていた指定施設での隔離も撤廃した。

春節前の入国者隔離や検査撤廃は想定外

感染爆発が起きているにもかかわらず、中国が「民族大移動」が起きる春節(旧正月、2023年は1月22日)前に入国者隔離や検査を撤廃することは、ほとんどの関係者が想定していなかった。

地理的に近く、帰省や旅行で中国からの渡航者の激増が予想される日本はいち早く「入国時の検査」「陽性者の隔離」など水際対策の強化を発表。韓国政府も昨年末に水際対策を発表したが、入国時の検査や陽性者の隔離に加え、1月末まで旅行など短期ビザの発給を制限するほか、中国発の航空便の増便を認めず、到着便を仁川国際空港に限定するなど、中国から旅行目的の訪問を事実上ブロックしており、日本よりはるかに厳しい措置となっている。

一方、観光産業で中国人への依存度が高いタイやフィリピン、インドネシアは中国からの渡航者の検査などを実施せず、景気回復を優先する。中国からの渡航者への対応が国ごとに分かれていることから、中国政府は日本と韓国を「差別的な入国制限」と批判したわけだ。

ただ、打ち出されたビザ発給停止の中身を見ると、韓国への対抗措置は「同等」を意識しているのに対し、日本向けは「報復」を超えて一方的だ。

中国韓国大使館は10日夕方、韓国人向けのビザ発給一時停止を発表した。停止するビザは「訪問、ビジネス、旅行、診察、トランジット、私用などの短期ビザ」としている。

韓国政府が中国人向けの短期旅行ビザの発給を停止したことから、同等の「短期」に絞って制限したと解釈できる。

韓国大使館から遅れること数時間。同日夜に中国駐日本大使館が発表した文面は、「日本人向けの普通ビザの発給を一時停止する。いつ元に戻るかは追って通知する」となっている。普通ビザは、政府職員や政治家に発給される「外交ビザ」「公用ビザ」を除く幅広いビザを指し、長期(半年以上)滞在の記者ビザ、就労ビザ、留学ビザも含まれる。

日本は中国からの入国あるいは入国者に対し、検査や陽性者の隔離を行っているだけで、その対象は日本人も含まれる。中国人向けのビザの発給も停止していない。

「嫌がらせをするべきではない」との声も

中国の「対抗措置」がバランスを欠いていることは明らかで、中国駐在歴が長い日本メーカーの工場長は、「筋違いの報復というのが、いかにも中国的ですね」と苦笑いする。

中国企業の日本支社で働く30代の中国人女性は、「中国人として恥ずかしい。メンツを大事にするのは中国らしいけど、自身を『大国』と思っているならこういう嫌がらせのような方法は取るべきではない」と憤った。

突然のビザ発給停止で問い合わせが殺到しているのか、中国駐日本大使館の電話番号は11日午前中つながらない状態が続いた。中国企業の日本法人に勤める社員は、「ツテをたどって中国外交部に問い合わせたが、『具体的なことは大使館が決めている。大使館に聞いてくれ』との返事だった」と話した。

これらの状況から判断すると、中国外交部から具体的な措置を“丸投げ”された駐日本大使館が、見切り発車で普通ビザの発給を一律で停止した可能性が高い。前述したように、日本向けの措置は韓国と比べてもバランスを欠いており、日中ビジネスに携わる中国人は「遅くとも春節後には修正されるのではないか」と推測する。

1月8日に中国での入国者隔離が解除され、日中の往来がようやく動き出した現時点では影響は限定的だ。都内のコンサルファームの幹部は「年末から海外出張が活発になり、隔離もなくなったことだし中国もそろそろ行こうと年初の会議で決まったばかり。(ビザ発給停止は)驚きはしたが、この3年渡航できていないのでその期間が延びるだけという点では大きな影響はない」と話す。

中国関連の人事が停滞する可能性

ただ、発給停止が1カ月以上続くと、日本の新年度や中国の新学期に引っかかるため、「中国関連の人事が停滞する可能性はある」(日本メーカーの中国駐在員)との声もある。

中国の大学に昨年9月に入学したがゼロコロナ政策のため渡航できず、現在は日本からオンライン授業を受けている男子学生は「3月から始まる新学期は、留学生も渡航して対面授業を受ける前提になっている。日本人だけビザが発給されなければ、自分はどうなるのだろうか」と不安を吐露した。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)