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元草津町議の新井祥子氏が町長室で黒岩信忠町長から性被害にあったと電子書籍で訴えたことをめぐり、著者のフリーライター飯塚玲児氏が12月7日、自身のブログで、2019年に執筆、公開した電子書籍『草津温泉 漆黒の闇5』の記事に誤報があり、販売を打ち切ることを明らかにした。

飯塚氏は、記事内容の前提となった情報について「大きな誤りがあり、記事が誤報だと判断せざるを得ないことが判明いたしました」と報告。「結果として事実に反する記事を公表したことは否定できません」とし、黒岩町長に対して謝罪の意を表明した。

報道によると、新井氏は2022年10月31日、電子書籍を公表して黒岩町長の名誉を傷つけたほか、性被害を受けたとする虚偽の内容の告訴をしたとして、名誉毀損と虚偽告訴の罪で前橋地検に在宅起訴された。飯塚氏も名誉毀損の罪で10月31日付で在宅起訴されている。

飯塚氏は、ブログで公表した今回の「謝罪声明書」で、「前橋地方検察庁より開示された証拠資料によると、情報提供者が証拠を改ざんし、虚偽の情報を提供していたと理解せざるを得ません」と声明を出すに至った経緯を説明。

一方で、「当該記事には公共利害性、公益性とともに、真実と信ずるに足りる相当性があると信じて公表したものであり、現在も当時の私の判断に誤りはなかったと信じています」としている。

飯塚氏としては名誉毀損罪の成立を否定しているものとみられるが、これらの説明には法的にどのような意味があるのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。

●真実を公表しても名誉毀損は成立する「ただし例外あり」

--名誉毀損罪について教えてください。

名誉毀損罪を規定する刑法230条1項は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」としています。

「公然」とは、不特定または多数人が知り得る状態のことをいいます。最高裁昭和34年5月7日判決は、直接の相手方が特定かつ少数でも、そこから他の人に伝播して最終的に不特定多数者が認識しうる可能性があれば公然性が認められるとしています(伝播性の理論)。

「事実」とは、社会生活上評価の対象となり得るもの(身分、職業に関すること、社会的能力、身体的・精神的な特徴等)をいいます。

「名誉を毀損」とは、社会的評価を害するおそれのある状態を発生させることをいいます。今回問題となっているような、「性被害を与えた者」という事実を摘示することは、まさしく人の社会的評価を害するおそれのある状態を発生させることになります。

刑法230条1項は、「その事実の有無にかかわらず」とあり、たとえ、摘示した事実が真実であったとしても、名誉毀損罪は成立します。

ただし、表現の自由と国民の知る権利に配慮して、一定の場合は、たとえ名誉毀損が成立するとしても、違法性が阻却され、罪に問われません。それが、刑法230条の2第1項が定める「公共の利害に関する場合の特例」です。

--どういった場合に特例が適用されるのでしょうか。

刑法230条の2第1項は、(1)行為が公共の利害に関する事実に係り(事実の公共性)、(2)その目的が専ら公益を図るためのものであるとき(目的の公益性)、(3)事実が真実であると証明があったとき(真実性の要件)はこれを罰しないとしています。

なお、最高裁昭和44年6月25日判決は、(3)の真実性の要件に関して、事実が真実であることの証明がない場合でも、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があるとき(真実相当性)は、名誉毀損罪は成立しないとしています。

●真実相当性がある=「犯罪の故意がない」→名誉毀損罪不成立

--真実性と真実相当性の違いは何でしょうか。

「真実性」とは、摘示された事実が真実であるとの証明がなされたことをいいます。

「真実相当性」とは、摘示された事実が真実であるとの証明ができなくとも、真実であると信じたことに相当な理由や根拠があるということをいいます。

--たとえ真実でなくても「真実であると信じたことに相当な理由や根拠」があれば処罰されない理由とは何でしょうか。

前述のように、最高裁昭和44年6月25日判決は、真実相当性の場合でも、名誉毀損罪は成立しないとしていますが、その理由について、「犯罪の故意がない」からであるとしています。

刑法38条1項は、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」としており、犯罪が成立するためには、故意が必要であるとしています。行為者が、真実であると信じたことに相当な理由があることは、犯罪の成立に不可欠な故意に欠けるとしたのです。

●「真実相当性が認められるのは難しいのではないか」

--今回のように「情報提供者が証拠を改ざんし、虚偽の情報を提供していた」という場合、真実相当性が認められやすくなるのでしょうか。

最高裁平成22年3月15日決定は、真実相当性に関して、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないとしています。

どの程度の証拠の改ざんがあったかは分かりかねますが、町長が町長室で性加害行為をしたか否かは、密室の出来事で、一部始終を記録した録音や録画等がない限り、確実な資料、根拠があるとは言えず、真実相当性が認められるのは難しいのではないかと思います。

また、たとえ情報提供者が証拠を改ざんしていたとしても、少なくとも、事実を公表する前に、情報提供者の主張のみならず、町長にも事実確認をして町長側の主張も吟味しなければ、誤信したことについて相当の理由があったとはいえないと思います。

【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/