ネット上の投稿で「名誉毀損」や「侮辱」として罪に問われるのはどんなものか。弁護士の小林航太さんは「明確な線引きは難しいが、社会通念上許容される限度を超えた人格攻撃は該当することがある。ネット上でも法律とマナーを守ることが必要だ」という――。(第2回)

※本稿は、小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

●刑法 第230条(名誉毀損)
1 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損(きそん)した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処する。

●刑法 第231条(侮辱)
1 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する。

■「誹謗中傷」に法的な定義はない

悪口を言ったり、言葉でいやがらせをしたりデマや嘘を触れ回ったりすることを一般に「誹謗(ひぼう)中傷」と言いますが、「誹謗中傷」には法的な定義はありません。

誹謗中傷が名誉毀損または侮辱にあたる場合、民事上・刑事上の責任を負うことになります。ですので、どのような表現が名誉毀損や侮辱にあたるかを知っておく必要があります。SNSによって発言がしやすくなりましたが、インターネット上も公共の場です。法律とマナーを守って利用しましょう。

出典=『オタク六法』

■刑事上の名誉毀損と侮辱の違い

名誉毀損と侮辱は、民事上と刑事上とで定義・要件が異なります。

まず、刑事上の定義・要件について見てみましょう。

刑法の条文をもとに整理すると、名誉毀損罪と侮辱罪の定義は以下のとおりです。

・名誉毀損罪……(a)公然と、(b)事実を摘示し、(c)人の名誉を毀損すること
・侮辱罪……(a)公然と、(b)事実を摘示せずに、(c)人を侮辱すること

まず、(a)公然と、という要件(公然性)が共通していますが、これは、不特定または多数の者が認識可能であることを言います。そのため、メールやSNSのDMなどで行われる1対1のやりとりは公然性を欠き、原則として名誉毀損にはあたりません。ただし、特定少数の者に向けられたものであっても、そこから不特定または多数の者に広がっていく可能性(伝播性)があれば、「公然と」にあたると理解されています。

次に、(b)事実の摘示の有無が両者で異なっています。事実の摘示とは、具体的な内容のある事実を示すことを言います。たとえば「AさんはBさんが描いたイラストを自分が描いたものとして公表している」といったものです。

■「絵がヘタクソ」は主観的な評価なので事実の適示とは言えない

事実の摘示かそうでないかの見極めは必ずしも容易ではありませんが、証拠によって事実の有無を判断できる内容であれば、事実の摘示にあたると考えてよいです。

他方、「Aさんが描いたイラストはヘタクソ」は、ヘタクソかどうかは主観的な評価にすぎず、証拠によってその有無を判断できるものではありませんから、事実の摘示とは言えません。

写真=iStock.com/Oleksandr Todorov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleksandr Todorov

なお、摘示する事実は真実であっても虚偽であってもかまいませんが、後述のとおり、真実の場合は、名誉毀損罪の要件を満たしていても適法になる可能性があります。

(c)の要件も異なっているように見えますが、「人の名誉を毀損」することも、「人を侮辱」することも、いずれも特定人の社会的評価(世間や周囲という外部から受ける客観的評価)を低下させることを意味すると理解されています。

特定人の社会的評価を低下させるものである必要があるので、誰のことを指しているかわからない表現や、特定の属性の集団(たとえば、「オタク」)に対する表現では、名誉毀損罪も侮辱罪も成立しません。

以上を踏まえると、名誉毀損罪と侮辱罪の定義・要件は、事実の摘示の有無のみが異なっていることになります。

■民事上の名誉毀損と侮辱の違い

今度は民事上の名誉毀損と侮辱です。

・名誉毀損……公然と、人の社会的評価を低下させる内容の表現行動をすること
・侮辱(名誉感情侵害)……社会通念上許容される限度を超える侮辱行為のこと

まず、名誉毀損については、公然と人の社会的評価を低下させることという点では刑事上の場合と同じですが、その方法は事実の摘示に限定されません。意見や論評による場合にも、名誉毀損が成立します。刑事上の名誉毀損にあたらない場合でも、民事上の名誉毀損にはあたる場合があるということです。

民事上の侮辱は、これまでのものと大きな違いがあります。民事上の侮辱以外は、いずれも、社会的評価(外部的評価)を低下させる行為でしたが、民事上の侮辱だけは、名誉感情(その人にとっての内心的な名誉)を侵害する行為です。ただし、「社会通念上許容される限度を超える」場合のみが違法な名誉感情侵害(=侮辱)にあたります。

「社会通念上許容される限度を超える」かどうかは、個別の事情に基づいて判断する必要があるので、具体的に線引きをすることは難しいですが、たとえば、「バカ」「アホ」といった程度では、「社会通念上許容される限度を超える」と判断されることはあまり考えられません。

■名誉毀損が成立しないケースもある

名誉毀損の場合、民事上も刑事上も、先ほど見た名誉毀損の要件は満たしていても、一定の要件のもとで、名誉毀損が成立しなくなる場合があります。このような場合を「成立が阻却される」と言ったり、「成立阻却事由が認められる」と言ったりします。

以下の要件を満たすときは、名誉毀損は成立しません。

事実を摘示する場合(民事・刑事共通)

(a)公共の利害に関する事実に係り、
(b)もっぱら公益を図る目的で出た場合に、
(c)摘示された事実の重要な部分が真実か、真実と信じるに足りる相当な理由が存する場合

意見・論評による場合(民事の場合のみ)

上記の(a)(b)に加えて、

(c’)意見・論評の前提になっている事実が重要な部分について真実であるか、真実と信じるについて相当な理由が存するときに
(d’)人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものでない場合

■店への低評価レビューは「誹謗中傷」に当たるか

ここからは誹謗中傷についてよくある相談について見ていきましょう。

【Q1】オンラインショップでのレビューが商品の低評価で埋め尽くされてしまいました。作者への人格攻撃と見られるものもあります。

【A1】具体的にどのようなレビューが書かれているかにもよりますが、ショップや作者の社会的評価を低下させる内容で、意見・論評としての域を逸脱して人格攻撃に及んでいるものについては、名誉毀損が成立するでしょう。また、社会的評価を低下させるものではなくとも、作者に対する社会通念上許容される限度を超えた名誉感情侵害にあたる可能性もあります。

仮に、低評価のレビューを書きたくなるような経験をすることがあっても、実名で、直接、相手と面と向かったときでも言える言葉なのか、よく考えてから投稿するとよいでしょう。

写真=iStock.com/Sittipol Sukuna
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sittipol Sukuna

【Q2】画像投稿サイトに絵を投稿したら、Twitterでスクショつきで「見てこのヘタクソ」「描くのやめろ」「能ナシ発見」などと書かれました。

【A2】まず、イラストのスクリーンショットを投稿する行為は、複製権・公衆送信権の侵害にあたります。スクリーンショットがイラストの一部を切り取るものであれば、同一性保持権の侵害にもなるでしょう。

あとは、投稿の具体的な文言が問題になります。「ヘタクソ」といったイラストに対する評価については、意見・論評を逸脱した人格攻撃に及んでいないかが問題になりますし、イラストへの評価を離れた人格攻撃については、作者に対する社会通念上許容される限度を超えた名誉感情侵害にあたるかを検討することになります。

■個人を特定できない場合は名誉毀損は成立しない

【Q3】昔あった友人との争いについてのマンガを投稿したらバズりました。もちろんフェイクを入れていたのですが、後日その友人当人のSNSに「これって私のこと? 知らない間に好き勝手に描かれたせいで、みんな私のことを批判する。名誉毀損で訴えようかな」と書かれていました。はっきり友人だとわかるようには描いてないし、大丈夫ですよね?

【A3】そこに描かれている内容が誰のことを指しているのか、社会的評価を低下させると言えるのか……一見して判断ができないことも少なくはありません。

これについては、「一般読者の普通の注意と読み方」で判断するのが判例通説です(最判昭和31年7月20日最高裁判所民事判例集10巻8号1059頁)。つまり、「普通、これを読んでもそういうふうには思わない」「普通の人が読んだらこれはあの人だとわかる」という、いわば常識的な感覚で判断します。

この基準に従って、まずは、誰のことを描いているかわかるかどうか(同定可能性)を検討します。

このような体験談マンガでは、わからない人にとってはもちろん誰のことかはわかりません。しかし一連の話を通じて「知っている人が普通の読み方をすれば、誰のことかわかる」という場合は、同定可能だと判断されます。

逆に誰のことかわかる人がいない場合には、同定可能性がなく、名誉毀損は成立しません。

同定可能だという場合、一般の読者が普通の注意と読み方をした場合に、読者の対象者に対する社会的評価を低下させるものであれば、名誉毀損にあたります。

逆に「普通はこれを読んでも、対象者に対する社会的評価は低下しない」という場合は、名誉毀損は成立しません。

■「中の人」の名誉を毀損した場合は匿名でも名誉毀損は成立する

SNSのユーザーの大半は、アカウント名にはハンドルネームを用いて、実名などの情報は公開していません。そういった「匿名の」アカウントに対して、そもそも名誉毀損が成立するのかという議論があります。匿名アカウントに向けた表現では、その「中の人」の社会的評価は低下しないのではないか? という問題です。

作家のペンネームや芸名のようにアカウント名を用いていろんな活動を行っている場合には、そのアカウントの名誉を毀損することは、「中の人」の名誉を毀損するものと言えるでしょう。また、そのような活動を行っていない場合でも、アカウントと「中の人」を紐づけるような情報(たとえば、「中の人」の個人情報)を入れて名誉を毀損した場合には、「中の人」の名誉を毀損するものと評価できます。

他方、アカウント名での活動を行っておらず、そのアカウントと「中の人」を紐づけるような情報も一切ない、いわば完全な匿名の場合、「中の人」の社会的評価を低下させるものとは言えない以上、名誉毀損は成立しないと考えるのが一般的です。

なお、侮辱(名誉感情侵害)については、自分に向けられた表現であると「中の人」が認識することができれば成立しうるとの見解を示している裁判例もあり、完全な匿名の場合でも、成立する可能性があると言えます。

写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■VTuberへの誹謗中傷は名誉毀損・侮辱が成立するか

【Q4】チームでVtuberとして活動しています。複数人で役割分担をして、一人のキャラクターを運用しています。先日からこのキャラクターへの誹謗中傷が激しくて困っています。「△△らしい」「イカれてる」など、あることないことコメントやリプが飛んできます。

【A4】Vtuberに対する名誉毀損・侮辱については、「中の人」に対する名誉毀損・侮辱として捉えるという考え方が定着してきています。確かに、Vtuberそれじたいはバーチャルな存在であり、アニメやゲームのキャラクターに近い側面もあります(キャラクターに対する名誉毀損・侮辱は成立しませんね)。しかし、その背後には「中の人」がいて活動を行っているわけですから、ペンネームや芸名で活動している人に対する名誉毀損・侮辱が成立するのと同じように、Vtuberの「中の人」に対する名誉毀損・侮辱が成立すると考えるのは、至極当然の判断だと言えます。

ただし、名誉毀損・侮辱は、特定人に対して成立します。そのため、複数人で共同して一人のVtuberとして活動している場合は、表現が「中の人」のうちの誰に対するものなのか(一人ではなく複数の「中の人」に向けたものと理解できる場合も考えられます)を判別できる必要があります。

■死者への誹謗中傷は遺族に対する名誉毀損として評価される

自分の死後、あることないことを言われたり、プライベートな情報を公開されたりしても、反論のしようがありません。死後の名誉やプライバシーは保護されるのでしょうか。

死者の名誉は、一応、法的に保護されています。まず、刑事上、死者に対する名誉毀損は、虚偽の事実を摘示して社会的評価を低下させた場合に限り成立します。

民事上の場合は、少し事情が異なります。刑事上の場合と同じく、虚偽の事実を摘示して社会的評価を低下させることが死者に対する名誉毀損にあたると考えることはできますが、死者が、自らの名誉権が侵害されたとして権利を行使することはできません。そこで、死者自身の社会的評価を低下させるにとどまらず、遺族の社会的評価をも低下させる場合には、遺族に対する名誉毀損として評価できると考えられています。

また、「遺族の故人に対する敬愛追慕の情(敬い慕う気持ち)」という人格的な利益も法的保護を受けるものと考えられており、死者の名誉を害する行為が、この敬愛追慕の情を侵害する場合には、遺族に対する不法行為にあたります。

なお、上記は死後に初めて名誉毀損がされた場合の話です。生前に名誉毀損を受けて損害賠償請求を行っており、その最中に亡くなったときは、死者の名誉権(人格権)そのものが相続されるわけではありませんが、生前に行使していた損害賠償請求権が財産権として相続の対象になります。

■死者にプライバシーはない

他方で、プライバシーについては、死後も保護されるという考え方は取られておらず、死者にプライバシーはありません。著名な作家が生前に書いたラブレターなどが、死後に発見されて公開されるということもありますが、これはプライバシーの侵害にはあたりません。

小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)

もっとも、公開されたラブレターなどが著作物にあたる場合には、著作者人格権との関係が問題になります。著作者人格権じたいは相続されることはなく、著作者が死ぬことで消滅してしまいます。しかし著作者が生きているならば、その著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない旨が著作権法上規定されています。

生前であれば、未公表の著作物を著作者に無断で公表することは公表権の侵害にあたりますから、死後も同様に許されません。この場合、著作者の遺族は、著作者人格権の侵害者に対し、差止めの請求および名誉回復等の措置の請求(こちらは故意または過失が必要)をすることができます。

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小林 航太(こばやし・こうた)
弁護士(神奈川県弁護士会所属)
2012年東京大学法学部卒業。2016年首都大学東京法科大学院修了(首席)。2016年司法試験合格。2017年弁護士登録(第70期)。2019年法律事務所ストレングス設立。趣味はコスプレとボディメイキング。
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(弁護士(神奈川県弁護士会所属) 小林 航太)