インプラントの治療期間が短縮できる「抜歯即時埋入」とは? メリット・デメリットを歯科医が解説
インプラントを検討中の人のなかには「治療期間が長い」「歯が入るまでに時間がかかる」という点が気がかりで一歩踏み出せない人も少なくありません。そのような人におすすめしたいのが、抜歯とインプラント手術を同時におこなう「抜歯即時埋入」という方法です。今回はインプラントの抜歯即時埋入について、その具体的な方法やメリット・デメリットなどを「山岡歯科医院」の山岡先生に解説していただきました。
インプラントの「抜歯即時埋入」とは? 通常の治療とどう違う?
編集部
インプラントの「抜歯即時埋入」とは、どのような治療なのでしょうか?
山岡先生
抜歯即時埋入は、「大きなむし歯」や「歯が割れた・折れた」という理由で抜歯を余儀なくされた場合に、抜歯とインプラントの埋入手術を同時におこなう治療法です。かつては抜歯をしてから3~4カ月ほど骨ができるのを待って、インプラントを入れるのが一般的でした。しかし近年、深いむし歯や歯の破折などで抜歯するケースについては、抜歯即時埋入でインプラントを入れるのが主流になりつつあります。
編集部
「深いむし歯」や「歯の破折」とのことでしたが、「歯周病」で抜歯になるケースにも抜歯即時埋入はできるのでしょうか?
山岡先生
歯周病の場合、口腔内は抜歯になる原因が残っているケースも多いため、抜歯即時埋入での治療は難しいでしょう。例えば、口内に毒性の強い歯周病菌が残っているケースは術後の感染リスクが高いため、抜歯即時埋入という方法では予後が悪くなってしまう恐れがあります。したがって、歯周病については細菌を含めて、予後を悪くする要因をすべて取り除いてからインプラント手術をするのが望ましいでしょう。
編集部
ほかにも、「抜歯即時埋入」が難しいケースはありますか?
山岡先生
下顎の大臼歯部で「下歯槽神経」という神経が近くにあるケースでは、抜歯後に骨がつくられるのを待ってからインプラントを埋入する方が安全です。また、上顎の大臼歯部のインプラント治療で上顎洞(鼻の両側にある空洞)に炎症が残っているケースも、いったん抜歯をして炎症が治まるのを待ちます。このように、手術に何らかのリスクが伴うケースについては従来通り抜歯をして、しばらく時間を置く方法を選択していきます。
インプラントの「抜歯即時埋入」のメリット・デメリット
編集部
インプラントの「抜歯即時埋入」には、どのようなメリットがありますか?
山岡先生
患者さんにとっての一番のメリットは「治療期間が短くなること」でしょう。通常であれば半年から1年ほどかかるインプラント治療も、抜歯即時埋入であれば2~4カ月ほどで治療が終了します。また、抜歯とインプラント手術を同時におこなうため、身体的負担も少なくなります。ほかにも、インプラントを埋入した時に骨との結合具合がある程度わかるので、将来的な予測がしやすいというのもメリットです。
編集部
では反対に、デメリットやリスクなどはあるのでしょうか?
山岡先生
糖尿病で血糖のコントロールができていないケースは、術後の感染リスクが高いため注意が必要です。これは抜歯即時埋入に限らず、ほかの方法でも同様で、インプラント治療そのものが難しくなります。また、抜歯即時埋入で同時に仮歯まで入れる場合に、その歯で硬い物を噛んでしまって予後を悪くしてしまうケースが稀にあります。したがって、仮歯が入ってもしばらくの間はその歯で噛まないように注意してください。
「抜歯即時埋入」はどこの歯科医院でも受けられる?費用はどれくらい?
編集部
「抜歯即時埋入」はインプラントをおこなっている歯科医院であれば、どこでも治療を受けられますか?
山岡先生
抜歯即時埋入をおこなううえでは検査機器など必要な設備が整っていることに加えて、歯科医にも高い技術が求められます。ある程度インプラント手術の経験を踏まないと、難しい術式と言えるでしょう。そのため、こうした条件が整っている歯科医院で治療を受けることをおすすめします。
編集部
治療を受けたい場合は「歯科医院選び」も重要になるわけですね。
山岡先生
そうですね。医療設備と歯科医師の技術が重要になります。あくまでも1つの目安ですが、日本口腔インプラント学会の専門医を探す方法はアリだと思います。
編集部
そのほかに、歯科医院選びで押さえておきたいポイントなどありますか?
山岡先生
来院前にホームページなどで、その先生のポリシーや治療方針などもよく確認していただきたいと思います。インプラント治療に関しては1つの方法ではなく、いくつかの選択肢を提示してくるはずなので、よく説明を聞いて自分が納得できる先生や治療法を選ぶのが理想的です。加えて、歯科衛生士などスタッフの教育がきちんとされているかもポイントだと考えます。衛生士さんに質問した際、正しく答えられる歯科医院は教育が行き届いていると言えるのではないでしょうか。
編集部
「抜歯即時埋入」は通常のインプラント治療よりも費用は高くなりますか?
山岡先生
通常の方法よりも費用が高くなるのが一般的だと思います。歯科医院によっては最初から「抜歯即時埋入」を前提に治療費を設定しているところもありますので、費用の説明を受ける際はその点もよく確認しておきましょう。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
山岡先生
インプラント治療を検討するうえでは1つの歯科医院だけでなく、2~3カ所ほど回って話を聞いてみるのがおすすめです。そうすることで「なるほど、そういう考え方もあるんだな」という気づきも生まれてきます。治療は患者さんとドクターの相性も大切ですので、ぜひ自分が納得できる歯科医院で治療を受けていただきたいと思います。
編集部まとめ
インプラントの抜歯即時埋入は、むし歯や破折が原因で自身の歯が残せない場合に抜歯とインプラント手術を同時におこなう治療法とのことでした。別々におこなう従来の方法よりも治療期間が大幅に短縮されるほか、外科処置が1回で済むというメリットがあります。一方で、抜歯即時埋入には専用の設備やドクターの一定のスキルが必要となりますので、歯科医院選びは慎重におこなうようにしましょう。
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