【漫画付き】半年以内で矯正治療を終わらせることは可能?

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歯の矯正治療には、ただでさえ目立つうえに、「治療期間が長い」というイメージがある。この両者が、治療をためらってしまう大きな要因といえるだろう。そこで、「名古屋ステーション歯科・矯正歯科」の伊藤先生に、矯正治療の時短方法を伺った。スピード化が抱えるリスクについても押さえておこう。

監修医師:
伊藤 竜也(名古屋ステーション歯科・矯正歯科 院長)

愛知学院大学歯学部卒業。三重大学病院歯科口腔外科入局後、中京地区を中心に数々の歯科医院院長、医療法人理事などを歴任する。2018年には、名古屋駅の近くに「名古屋ステーション歯科・矯正歯科」を開院。「あなたの素敵な笑顔を作るための歯並び治療」をモットーとして掲げている。日本口腔外科学会、日本矯正歯科学会の各会員。三重大学病院口腔外科非常勤歯科医。

条件や症例によっては、短期間の治療も可能

編集部

矯正治療を半年以内に終わらせたいのですが?

伊藤先生

そのためには、いくつか条件があります。まず、むし歯や歯周病といったお口の病気を発症していないこと。次に、顎の成長が落ち着いた大人であること。加えて、抜歯などの大がかりな治療を必要としないこと。これらの条件をクリアしていれば、症状によっては、半年で済ませられる可能性はあるでしょう。もちろん、必ずというわけではありません。

編集部

歯を動かさず、見た目の良いかぶせ物で済ませる方法があると聞きましたが?

伊藤先生

セラミックをかぶせて見た目を整える「審美治療」は、治療期間を短くする方法ではあります。ただし、かぶせ物のために、ご自身の健康な歯を少なからず削る必要がありますので、慎重に判断してください。担当の先生と「審美治療」と「矯正治療」どちらが良いか、あるいは併用することも含め、よくお話をされてから、治療を始められることをおすすめします。

編集部

前歯だけなど矯正治療の範囲を限定するのはどうでしょうか?

伊藤先生

症状によっては「可能」です。期限を設けているということは、おそらく半年後に、何かしらの「イベント」があるということなのでしょう。例えば結婚式や成人式、重要な面接とかですね。そのタイミングに向け、前歯だけを整えるような治療なら、時間を短縮できます。

編集部

急いでいる場合、どの矯正器具が使われるのでしょう?

伊藤先生

成人矯正の場合、表側・裏側・マウスピースなど様々な矯正器具の選択肢がありますが、オーソドックスな表側のワイヤー矯正が、もっとも歯を早く動かせる可能性が高いのではないでしょうか。歯の表側と裏側は半径が違いますから、当然、矯正器具の大きさも異なってきます。より操作範囲の広い装置や材質の差によって、がたつきのある歯へ強い力を加えることができます。

編集部

マウスピース矯正と比べてもワイヤー矯正のほうが早いのでしょうか?

伊藤先生

症状にもよりますが、マウスピース矯正のイメージは、アライナーと呼ばれるマウスピースを繰り返し装着することで、複数の歯を同時にゆっくり動かしていくというのが基本になるんですね。痛みが出にくいなど、それによるメリットはもちろんあるんですけど、限局的にスピードをもって動かしたいとなると、やはりワイヤー矯正に分があると思います。

実はこんなにあった、矯正治療の時短方法

編集部

装置による違い以外に、歯を動かすスピードを早める方法はありますか?

伊藤先生

いくつか方法があります。一つは、歯に付けるブラケットの素材です。例えばセルフライゲーションというシステムをそなえたブラケットは、ワイヤーとの摩擦が少なく、歯の移動をスムーズにおこなえるとされています。

編集部

ほかにも歯を早く動かす方法ありましたら、教えてください。

伊藤先生

「アンカースクリュー」と呼ばれる、インプラントのような“支え”を打つことも効果的です。矯正装置を引っ掛けるようにして使います。天然の歯どうしで引っ張り合いをするだけでなく、強固なアンカーを個別に打つことでさらに大きな力をかけていきましょうという考え方です。なお、歯茎や歯槽骨への負担が大きく、治療中に違和感を覚えることもあります。矯正治療終了後は「アンカースクリュー」を抜いて、元の状態に戻します。

編集部

なるほど、外科的な処置を別個におこなうこともあるんですね?

伊藤先生

さらに言えば、「コルチコトミー」という外科手術があります。これは、歯槽骨そのものに“切れ目”を入れて、歯を動かしやすくする方法です。日本語で「促進矯正法」と訳されているくらいですから、かなりの効果が期待できるでしょう。

編集部

抜歯はどうなのでしょう? 矯正治療で良く見かけると思うのですが?

伊藤先生

スペースを確保する手段としては有効だと思います。しかし、スピードアップという観点からしたら、あまり関係ないと考えています。

編集部

ここまではワイヤー矯正について伺ってきましたが、マウスピース矯正の時短方法もあるのでしょうか?

伊藤先生

メーカーによってですが、さまざまなオプションが開発されているので、主治医と相談してみてください。ただし、追加で診療代金がかかってしまう可能性もあります。

スピード化に伴うリスクを知っておく

編集部

矯正治療のスピードを早めることに、デメリットはありますか?

伊藤先生

「至適矯正力(してききょうせいりょく)」という考え方があります。歯は、与える力が弱すぎても、逆に強すぎても、うまく動かないのです。この適切な力のことを「至適矯正力」と呼び、患者さんごとに異なります。この見極めを誤ると、治療計画が崩れかねません。

編集部

痛みはどうなのでしょう?

伊藤先生

力をより加える分、痛みもより強くなると思います。ほか、歯の神経にダメージを与えたり、矯正装置が外れやすくなったり、それなりのリスクは避けられないと思います。「短期間で済む」というメリットと、「治療に伴うリスク」というデメリットを、患者さんがどう評価するかですね。

編集部

後戻りのリスクも気になります。

伊藤先生

「歯を早く動かしただけ、後戻りも早いのでは」というご心配ですよね。治療終了後、いかに保定装置を使っていただくかによって違ってきます。歯の周りの骨や組織が固定するまでは、保定装置やリテーナーの装着が必要なのです。ぜひ、治ったあとも保定装置を頑張って着けてもらえればと思います。

編集部

最後に、読者へのアドバイスがあれば、お願いします。

伊藤先生

「半年」を「あくまで通過点の一つ」とお考えいただいたほうが、気が楽になると思います。目標である「半年」を過ぎたらどうするのか。その点を、ぜひ、治療前に考えておいてください。例えば、ワイヤー式からマウスピース矯正へ変えるのか、あるいは矯正のスピードを通常まで戻すのか。それによって、初期治療の選択肢は変わってくるでしょう。あらかじめイベント事の時期がわかっている場合は、余裕を持った治療期間を確保することをおすすめします。

編集部まとめ

どうやら、症例によっては、「矯正治療の期間を半年以内に縮めることが可能」といえそうです。注意したいのは、強い力が必ずしも「大きな動き」に直結していないこと。「至適矯正力」という概念が存在することを覚えておきましょう。また、矯正治療を短時間の単体と捉えず、人生の節目とあわせてアレンジしていくような発想も必要なのではないでしょうか。