携帯電話の位置情報サービスは、生活する上で非常に便利なサービスですが、アメリカでは収集した位置情報を政治活動に利用しようとする動きが広がっているとされています。ジャーナリストのJon Keegan氏がその方法と危険性について説明しています。

How Political Campaigns Use Your Phone’s Location to Target You - The Markup

https://themarkup.org/privacy/2022/11/08/how-political-campaigns-use-your-phones-location-to-target-you

Keegan氏はまず、政治キャンペーンに使用される可能性のあるデータについて説明しています。その中には、基本的なデータである名前や住所、支持政党、選挙での投票履歴などに加え、ExperianやAcxiomといった商用のデータブローカーが集めたデータが含まれるとのこと。データブローカーは人口統計データやクレジットカードのスコア、オンラインでのブラウジングや閲覧したニュースといったさまざまな情報を保持しており、その結果、有権者の純資産や宗教、購入するブランドに至るまで明らかにすることができるとされています。



Keegan氏は次に、データブローカーがどのように位置情報を収集し、政治キャンペーンに利用するのかについて説明しています。

1つ目は、すでに何らかのリストに掲載されている有権者の自宅住所やその他の情報を基に、デバイスとIPアドレスを照合するという方法です。この方法により、アピールが効果的だと思われる有権者にピンポイントでオンライン広告を配信することができるとされています。

2つ目は、ジオフェンスと呼ばれる仮想領域を地図上に設定し、大学や特定の建物などに入ったデバイスを特定するという方法です。これによって、特定のエリア内に入った有権者のデバイスに広告を配信できるようになり、投票所に入った有権者に「最後のアピール」をすることも可能となります。

3つ目はアプリから正確な位置情報を購入する方法です。マッチング・天気・家族の見守りアプリなどはユーザーから位置情報を取得する許諾を得られた場合、その情報を第三者に提供しています。また、アプリに埋め込まれたソフトウェアの開発キットを使用して、第三者に位置情報を送信する方法もあるとされています。



Keegan氏は実際の企業が政治キャンペーンに提供している位置情報サービスとして、ケンタッキー州を拠点とする広告会社のEl Toroを取り上げています。El Toroは、デバイスのモバイル広告IDとIPアドレスを相互参照することにより、Cookieを使わずに特定の住所のデバイスに広告を配信できると主張しています。同社のウェブサイトによると、このテクノロジーは95%の精度で特定世帯の人々をターゲットにすることが可能であり、4000以上の政治キャンペーンが利用しているとのこと。

一方でEl Toroの最高戦略責任者であるDeanna Durrett氏は、「礼拝所、矯正施設、医療施設、集会・行進・抗議などの政治的イベントで収集された位置データの使用、販売、または共有を制限することを推奨しています」と述べ、同社のサービスは有権者のプライバシーに配慮していると主張しています。

なお、膨大なユーザーデータを収集している企業といえばMetaやGoogleを思い浮かべる人も多いはずですが、両社は大々的な政治キャンペーンが展開されるプラットフォームを所有しているにもかかわらず、政治的な広告に位置情報を使用する機能を制限しています。また、TwitterとTikTokは2019年から政治広告を禁止しています。



有権者の位置情報を取得し、政治キャンペーンに利用することについてKeegan氏は、プライバシーの観点で懸念があると指摘しています。電子フロンティア財団の弁護士であるAdam Schwartz氏は「個人データの収集を制限するための新しい法律が必要です」と述べ、電子プライバシー情報センター(EPIC)の副所長であるCaitriona Fitzgerald氏は「個人に関する膨大な量のデータを悪用するのは非常に簡単になりました」と指摘しています。

Keegan氏は位置情報を利用した政治広告を回避したい人々に対し、「広告ブロッカーなどを用いた広告およびIPアドレスのブロック」「トラッキングの確認」「アプリの位置情報の権限の確認」「収集したデータの開示請求」といった対策を推奨しています。