鎌田大地、PKで相手GKにニヤリ。フランクフルトがCL史上稀な混戦を制した理由
チャンピオンズリーグ(CL)は、グループステージ第5節を終了した段階で12チームが決勝トーナメント進出を決めていた。残された枠は4。そのうちグループD1チームもベスト16入りが決まっていない最大の激戦区となっていた。
1位トッテナム・ホットスパー(勝ち点8)、2位スポルティング(7)、3位フランクフルト(7)、4位マルセイユ(6)。第5節を終了した段階で上記のような順位になっていた。これほどの接戦で最終節を迎えたことはCL史でも非常に珍しい。
マルセイユ対スパーズ、スポルティング対フランクフルト。グループDの最終戦は1位対4位、2位対3位の対戦が組まれていた。UEFAのイベントは、グループリーグで勝ち点が並ぶチームが現れた場合、該当チームの優劣を直接対決の結果で決める。スポルティングとフランクフルトの関係は、第1戦でアウェーながら0−3の勝利を収めたスポルティングが優位に立っていた。
チャンピオンズリーグでベスト16進出を決めたフランクフルトの鎌田大地と長谷部誠
すでにベンフィカとポルトが決勝トーナメント進出を決めているポルトガル勢は、スポルティングがフランクフルト戦に勝利を収めれば、3チームがベスト16を占めることになる。CL史におけるその最大値は2。2001‐02、2016‐17、2021‐22シーズンと、過去3回記録している。スポルティングにとってフランクフルト戦は、ポルトガル記録更新をかけた一戦でもあった。
話はそれるが、この流れはカタールW杯でポルトガルを推したくなる理由でもある。国内リーグが昇り調子にある国は、代表チームにも勢いがある。それぞれのレベルには密接な相関関係がある。
一方のフランクフルトは、クラブ史上初のベスト16入りをかけた一戦だった。この試合に勝利したほうが、ヴェロドロームのマルセイユ対スパーズ戦の結果にかかわらず、ベスト16入りを決めるという設定のなかで試合は始まった。
だが、守田英正対鎌田大地は実現しなかった。前週のスパーズ戦で左足のふくらはぎを負傷した守田は、先発はおろかベンチからも外れていた。長引く可能性が高い筋肉系のトラブルだと、W杯にも影響が出るのではないかと心配されるが、先日のW杯メンバー発表の席上、そのことは触れられていない。
鎌田のポジション変更で流れは一変鎌田は前節のマルセイユ戦に続き、5−2−3(3−4−2−1)の守備的MFで出場した。彼がド真ん中に座るとチームに重みが生まれるとは、前節のマルセイユ戦を見て抱いた感想だが、この日はどこかプレーに落ち着きがなかった。雑なプレーをした味方選手のプレーに苛立ち、叱責する場面も見て取れた。勝たなければベスト16入りはないという設定に平常心を奪われたのか、彼自身も気がつけば持ち場を離れ、2シャドーの一角かと思わせる高い位置に進出していた。バランスの悪さを露呈させたフランクフルトが前半38分、失点を許したのは、当然の結果だった。
GKのキックを高い位置で奪われ、その流れからイングランド人ウインガーのマーカス・エドワーズに右サイドを崩されると、ウルグアイ代表MFマヌエル・ウガルテに、アシストとなるセンタリングを許した。決めたのは逆サイドで構えたブラジル人選手、アルトゥール・ゴメス。スポルティングはポルトガル史上初の快挙に向け好発進を切った。
一方、ヴェロドロームの試合は、マルセイユが先制点を挙げていて、この瞬間、D組は1位スポルティング(10)、2位マルセイユ(9)、3位スパーズ(8)、4位フランクフルト(7)の順で並んだ(カッコ内はこのまま終わった場合の勝ち点)。
ところが4チームの上下は、劇的にも残りの45分で真っ逆さまに入れ替わることになる。
フランクフルトは後半、鎌田のポジションを2シャドーの一角に上げ、守備的MFにはバイエルンなどで活躍したベテランのセバスティアン・ローデを投入する。すると流れは一変。運もフランクフルトに味方した。後半14分、鎌田とウルグアイ代表、セバスティアン・コアテスがエリア内で競り合った時、主審の笛が吹かれた。鎌田が背中で相手を押したようにも見えたが、主審はコアテスのハンドを取った。
この重大な場面で当然のような顔でPKスポットに登場したのは鎌田。ジョゼ・アルバラーデをほぼ満員に埋めたスポルティングファンの大ブーイングを浴びながらも、鎌田は助走に入る間際、相手GKに向けてニヤリとした。CLで3試合連続となるゴールを、大物感を存分に漂わせながら右足のインフロントで蹴り込んだ。
その直前、マルセイユ対スパーズ戦では、スパーズが同点に追いついていたため、4チームはこの時、1位スパーズ(9)、2位スポルティング(8)、3位フランクフルト(8)、4位マルセイユ(7)の順となった。
フランクフルトは依然として"敗退サイド"に位置していた。繰り返すが、CLでここまでの混戦は記憶にない。
決勝ゴールが生まれたのは後半27分で、決めたのはフランス代表FWランダル・コロ・ムアニだった。右サイドを強引に突破すると、マーカーを振り切り、強烈なシュートを蹴り込んだ。9月に行なわれた国際試合のオーストラリア戦で、キリアン・エムバペと交代して代表デビューを飾った気鋭のストライカー。フランス代表の層の厚さを再認識させられる一撃でもあった。
ヴェロドロームの一戦は、スパーズが後半のアディショナルタイムにゴールを奪い逆転に成功。D組は最終的に1位スパーズ(11)、2位フランクフルト(10)、3位スポルティング(7)、4位マルセイユ(6)となった。
上質なミステリーとはこのことである。2位と3位を分けた"キモ"を挙げるならば、フランクフルトには鎌田がいて、スポルティングには守田がいなかった――となる。あながち日本人贔屓の安直な結論とは言いきれないはずだ。
さて、スパーズ戦で負った守田の故障はどれほどなのか。W杯本大会に向け、不安を覚えながらの幕切れでもあった。