チャンピオンズリーグ(CL)、スペイン勢はFCバルセロナ、アトレティコ・マドリード、セビージャの3チームが、グループリーグで敗退した。唯一、レアル・マドリードだけがベスト16に進出。現行方式のCLになって以来、スペイン勢で1チームしかベスト16に勝ち上がれなかったのは初めてのことである。

 2008‐09シーズンから2017‐18シーズンまでの10シーズンは、まさに「スペイン黄金時代」だった。バルサとレアル・マドリードが合計7回、欧州王者になっている。リーガ・エスパニョーラの2チームがベスト4に進出した年が6回あり、決勝での同国クラブ対決も2回(いずれもレアル・マドリード対アトレティコ・マドリード)あった。

 リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドというふたりのスーパースターがけん引した時代だったとも言える。彼らが華やかな舞台を演出し、国内の魅力的選手が台頭、その切磋琢磨が一時代を作った。しかしふたりのトップスターもいつしか歳をとり、今やどちらもリーガを去った。スペインサッカーの凋落は緩やかに始まっていた。

 カタールW杯、日本代表はスペイン代表と対戦する。元世界王者との対決だが、恐れをなす必要はあるのか?

 スペインサッカーは今も数多の人材を輩出している。

 しかし、プレミアリーグの資金力には太刀打ちできていない。人材流出は続く。ロドリ、エメリック・ラポルト(ともにマンチェスター・シティ)、セサル・アスピリクエタ、マルク・ククレジャ(ともにチェルシー)など、スペインからプレミアリーグに流れた例は枚挙にいとまがない。今やウナイ・エメリ監督まで、シーズン途中にもかかわらず、ビジャレアルを離れてアストン・ビラに鞍替えする有様だ。

 これがリーガの停滞と結びついている。

 スペイン国内の人材は空洞化しつつある。プレミアリーグだけでなく、パブロ・サラビア(スポルティング・リスボン)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)、ファビアン・ルイス(パリ・サンジェルマン)など国内の有力選手は魅力的なオファーを受け、次々に国境を越えている。

レアル、バルサの選手で代表チームを組めない

 ユース年代でも、国外クラブに引き抜かれることが少なくない。それは今も才能の宝庫である証明だが、かの地で伸び悩むケースも多く見られる。たとえば「ポール・ポグバ以上」と謳われたイライシュ・モリバはよりよい条件を求めてバルサを出て、ドイツのライプツィヒに移籍したが、鳴かず飛ばずで、結局、スペイン(バレンシア)に舞い戻った。言わば、パワーダウンの連鎖だ。

 一方、クラブのスタンスも気になる。優秀な下部組織を持ちながら、ワールドクラスの選手に大枚を叩くようになった。

 今シーズンのバルサは象徴的だろう。ロベルト・レヴァンドフスキを獲得し、彼自身はゴールを量産している。しかしスペイン代表のフェラン・トーレスは出場機会が減った。同じくスペイン代表アンス・ファティへの出番の与え方も限定的。また、バルサBで昨シーズン19得点のフェラン・ジュグラはベルギーのクラブ・ブルージュに移籍を余儀なくされている。ジュグラはベルギーでトップスコアラーを争っており、CLでも2得点を挙げて、チームのアトレティコを退けての決勝トーナメント進出に貢献している。


「バルセロナ寄り」とマスコミから批判されているスペイン代表のルイス・エンリケ監督

 そして単純に「スペインらしさ」の濃度は減った。欧州王者のレアル・マドリードも、主力はカリム・ベンゼマ、ティボー・クルトワ、ルカ・モドリッチなど外国人選手。スペイン人の人材は変わらずにいるが、スケールは小さくなった。

 その昔、スペイン代表は70%以上をバルサ、レアル・マドリードの選手でほぼ均等に分け、残りが「それ以外」という陣容だった。2010年南アフリカW杯でスペインは優勝しているが、たとえばオランダとの決勝戦の先発11人中10人が、レアル・マドリード(イケル・カシージャス、セルヒオ・ラモス、シャビ・アロンソ)、バルサ(ジェラール・ピケ、カルレス・プジョル、セルヒオ・ブスケッツ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデス、ペドロ、ダビド・ビジャ)の選手だった。

 錚々たるメンバーが、バルサ、マドリードで中核を成していた。しかし今は、かつてほど傑出したスペイン人選手はいない。たとえばバルサのセンターバック、エリック・ガルシアはうまいが、あまりに貧弱だ。

突出しているのはペドリぐらい

 そんな実状がスペイン代表の歪(いびつ)さも生んでいる。

 代表を率いるルイス・エンリケ監督は、今も最強の戦いを求められる。しかし実現は難しい。バルサ時代に指揮官として欧州王者になっているだけに、バルサの選手を中心に編成すると、「レアル・マドリードに恨みがある」と批判を浴びた。ルイス・エンリケはレアル・マドリードとバルサ、どちらでもプレーした人物だが、前者では不遇を囲い、後者で愛された。本人の好む好まざるにかかわらず、キャラ付けがあるのだ。

 日本代表も森保一監督の不人気が話題になっているが、ルイス・エンリケも支持率は低い。特にメディアとの軋轢は、もはや修復不能だろう。負けた試合後の記者会見は修羅場となる。

 ルイス・エンリケが率いるスペインは盤石ではない。人材は豊富だが、本当に突出した選手はペドリぐらいだろう。そのペドリにしても、昨シーズンのヨーロッパリーグでフランクフルトの鎌田大地に完全に封じられ、最近は孤軍奮闘の感も強い。

 スペイン勢がCLで1試合を残して3チームがグループリーグ敗退。それは「黄金時代の終焉」のエピローグであり、新たな事実ではない。常勝レアル・マドリードがどうにかメンツを保っているにすぎなかった。

 日本人選手は今やヨーロッパのカップ戦でも奮闘を見せている。怯むことはない。W杯でも真っ向から戦うべきだろう。