作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回は「なくてもよかった、暮らしのもの」についてつづってくれました。

第83回「なくしても平気だった道具たち」

なにかと物が多い家に住んでいる。この連載でも散々、捨てない派ですと書いてきた。今回は、そんな私が、なくても平気だったものや買うのをやめたものを紹介します。

●炊飯器はもう買わなくていい

真っ先に浮かぶのは、炊飯器だ。米は大好きだけど、キャンプの飯盒炊飯(はんごうすいはん)を食べてからというもの(小学生だったな)あれを上回る美味しい白飯に出会ったことがなかった。

炊飯器のない生活が十年続いているが不便だと思ったことは一度もない。そろそろ炊飯器の買い替えだなと思ったとき、土鍋でご飯を炊いてみたら驚くほど美味しかったのだ。まさしくキャンプのご飯だった。おこげの香ばしさや、艶々に粒立つ銀シャリよ。冷めても美味しい米は、まず火力が物を言う。

しかし、姉が良い炊飯器を買ったら、それに近い味で炊きあがっているではないか。むむむ。テクノロジー恐るべし。けどなあ、そのお金があったらいい土鍋が5台買えるけどなあ。しかも割れない限り、半永久的に使えるのだ。シンプル・イズ・ザ・ベスト!

ということで我が家は炊飯器はないが土鍋が三台ある。平日に夫婦で食べる2〜3合用、友人が来ての5合用、さらにお鍋用の大きな土鍋では鯛めしなど、炊き込みご飯をする。

炊飯器のように予約はできないけれど、30分あれば炊きあがる。沸騰するまで強火で炊いて、その後蓋をして弱火で10分、火を止めて10分蒸らせば完成。水加減は炊飯器の1,3倍くらい入れるかな。米の一粒一粒まで輝いているではないか。新米の季節はとくにお米の美味しさを噛みしめる。ああ、一度土鍋派になると二度と戻れない。

●IHは今後も使う予定ありません

土鍋とくると、やっぱり火力命ということになる。なくしてよかったというか、頑なに導入しないのがIHだ。掃除が便利だったり、安心感もあるかもしれないけれど、私としてはやっぱり火の強さが目に見えるガスコンロの方が逆に安心して使える。引っ越しのときも、不動産屋さんに、火力であることを一番にお願いした。中華料理を作るときなんかは、強火ででがんがんいきたいし、米だって火で炊くほうが美味しい。

とはいえ、今はガスコンロとて、温度が上がりすぎると勝手に弱火になる機能がついているので、うっかりさんも安心して使えます。

この頃は、電子レンジの代わりに蒸し器を使うことが多くなった。お茶碗に冷蔵庫から出したご飯をよそい、沸騰した蒸し器に器のまま入れて数分待てば、炊きたてのような味わいになる。しかもレンジよりもふっくらして美味しいのだ。時間さえかければ、電気を使わない生活も夢ではないなと思うのだった。

 

●炭酸水を買うのをやめて買ったもの

買わなくなったものに、夏の炭酸水がある。梅シロップや梅酒を自家製するようになって、炭酸で割って飲むことが多くなり、ペットボトルがたくさん出ることに辟易していたのだった。そこで、炭酸水メーカーを買ってしまった。いつでも新鮮な炭酸水が飲めるので便利だし、何より重たい炭酸水を持ち帰らなくて良くなった。ペットボトルがキッチンを占領することもなくなり、すっきりだ。家の炭酸メーカーは、半年に一度くらいの頻度で中の炭酸ボンベを替えることになっている。がぶがぶ飲みたい人にはいいんじゃないかと思う。

あとは、テレビ…かな。一応2階の客間にあるはあるのだけれど、今の家に引っ越して5年、テレビを2階へ置いて以来、全くといっていいほど見なくなった。もちろん、見たい番組を予約しておくことはあるけれど、テレビをぼーっと見て時間を奪われることはなくなったなと思う。

テレビよりも今はYou Tubeのながら観で困っている親御さんも多いと聞く。私も子どもの頃は日曜はアニメを3本立てで見たりして、母に怒られていたのを思い出す。ところが、今は全く見ない。ないならないで案外と困ることはなかったのだ。姉妹三人でひやひやしながらドラゴンボールの続きを見る時間もまた思い出深いけれどね。

あるもので工夫して暮らすことも、生活の知恵の一つだと思う。新しいものを買う前に、あるものを点検して代替えができないか、なくても平気ではないかをいつも考えてみることにしている。