福岡県久留米市で「TAKECO1982」というスパイス専門店の主宰をする、スパイス料理研究家の吉山武子さん。築80年以上になる一軒家で、アルツハイマー型認知症の夫を介護しながら暮らしています。84歳と80歳の老・老介護生活を支えているのは、スパイスをたっぷり取り入れた食生活。そんな吉山さんの暮らしに密着しました。

80代夫婦2人暮らしを支えるのはハーブ料理

『80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと』(KADOKAWA刊)を上梓したばかりの吉山さんは、夫の進夫(のぶお)さんと二人暮らし。進夫さんは要介護3で、週4〜5回、デイサービスやショートステイを利用しながら吉山さんが介護しています。

「『ひとりで看るのは大変でしょう、施設に入れたら』と周りからは言われますが、夫は家が大好きな人ですから。それに、今まで私が“スパイス人生”を歩んでこれたのは、いつも応援してくれた夫のおかげ。体力が続く限り、ここで一緒に暮らしたいのです」

 

●普段の食事にスパイスを欠かさない

吉山さんの食生活には、スパイスやハーブが欠かせません。朝食はたいてい和食で、ご飯とみそ汁と卵焼きですが、必ずスパイスやハーブを使っています。

「ご飯は、ショウガとターメリックを入れて炊きます。ターメリックは認知症に効果があるといわれるし、ショウガは血流をよくしてくれます。みそ汁にも、具に合わせたハーブやスパイスを入れます。たとえばナスのみそ汁なら、マージョラムが合いますよ」(吉山さん)

朝は、フルーツも必ず食べるそうです。
「季節のフルーツに、シナモンパウダーとナツメグを振りかけ、甘酒やヤクルトをかけて食べます。シナモンには胃腸の働きを助ける効果があり、ナツメグは、口臭予防や食欲増進の効果があるそうです」

肉じゃがや焼き魚、ホウレンソウのお浸しなど、どんな料理にも何かしらスパイスやハーブをプラスするのだそう。

「香りがよくなったり、魚の臭みをとったり、野菜の青臭さがなくなったり、ひと味違って新しい世界が広がりますよ。夫にいまだに老人臭がないのは、スパイスやハーブを取り入れた食生活のおかげだと思っているんです」

 

●ハーブのお湯で体をふき、気持ちよく1日をスタート

80歳になった吉山さん。介護の疲れを癒すのにはハーブが欠かせないといいます。

朝は夫を起こしたら、まずは洗面器の熱いお湯にローズマリーオイルを垂らし、タオルを浸して絞って、顔や背中、頭などをふいてあげるのがルーティンです。

「ローズマリーは眠気をスッキリさせる効果があるので、朝にぴったりなんですよ。そのあと、カルダモンのアロマスプレーを、体全体にかけてあげます。カルダモンには、リラックスや集中力アップの効果があるといわれています」

夜休む前には、ラベンダーに頼ります。アロマスプレーを枕にスプレーしたり、エッセンシャルオイルをアロマランプでたいたり。
「ラベンダーには鎮静効果があるので、気持ちを落ち着かせてくれるように感じます」

疲れている日は、浴槽にフレッシュハーブを浮かべた「ハーバルバス」を楽しむことも。
「ハーブの種類は季節に合わせて選びます。薬ではないけれど、香りで気分がリフレッシュします」

●元気がないときは、カレーを食べます

夫には毎日、たくさんの薬を間違いなく飲ませなくてはいけないし、食事、着替え、トイレなどすべてに介助が必要。夜は大声を出す夫をなだめたり、何度も起こされて睡眠不足になることも。「体力的にも、精神的にも限界に近く、綱渡りのような毎日」と吉山さんは言います。

「気分が落ち込んだり、疲れたなーと思ったら、スパイスたっぷりのカレーを食べるんです。食べた後は体がぽかぽかと温かくなるし、心も体も元気がわいてきますよ。もしスパイスカレーをつくるのが面倒だったら、市販のカレールーを少し減らして、代わりにカレー粉をプラスするだけでも、味と香りが豊かになります。ぜひやってみてください」

 

●YouTuberになるという新しい夢

そんな吉山さんの心の支えは、自分が主宰するスパイス専門店「TAKECO1982」の存在です。

長年のライフワークだった料理教室は、今は夫の介護が大変なのでお休み中ですが、ときどきお店に出て、お客さんとお話をしたりすることで元気をもらっているといいます。

「お店は私の生きがいであり、一筋の光。もし夫の介護に追われるだけの毎日だったら、今頃きっとつぶれていたと思います」

吉山さんには、今、ひとつの新しい夢があります。それはYouTubeを使って、自宅で料理する様子を動画で配信すること。

「それなら、スタッフの力を借りながら、夫がショートステイに行っている間にできると思うんです。スパイスのすばらしさが世の中に広まること、スパイスでたくさんの家庭を元気にすることが私の夢。これからも、“スパイス人生”を歩んでいくつもりです」

80歳の吉山武子さんの暮らし、いかがでしたか? 詳しく知りたい方は、『80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと』(KADOKAWA)をチェックしてみてくださいね。