家づくりの際に、ものを使う場所の近くに適切な収納をプランする。これが、片づく家を建てるためのポイントです。そのとき、造作家具と置き家具のどちらがいいのでしょう。サイズ、デザイン、コストなどさまざまな要素が気になります。収納の考え方について、一級建築士の新井崇文さんが自ら設計した事例を交えながら解説。

造作家具と置き家具、それぞれのメリットとは?

造作家具とは、設置される空間に合わせてつくりつける家具のことです。下記のようなメリットがあります。

 

●造作家具のメリット

【サイズ】
サイズが自由なので、空間にジャストフィットした家具ができる。幅・高さとも空間サイズを最大限に活用した収納になる。狭いスペースやくぼんだスペースを活用して収納を確保するにも有効。

【コスト】
市販の安価な置き家具ほど安くはできないが、新築やリノベーションの工事において大工工事(簡単に言うと、部屋の工事の際に、一緒に業者につくってもらいます)でつくれば、ある程度コストパフォーマンスよく造作家具を実現できることも。

【地震対策】
建物の床・壁・天井等に固定するので、地震対策もしやすい。

 

一方、置き家具とは手持ちの家具や、購入した家具を、住まい手が設置する家具のことです。下記のようなメリットがあります。

 

●置き家具のメリット

【可変性】
造作家具は建物に固定するので移設や撤去が難しいが、置き家具は移設も撤去も容易。将来の模様替え・間取り変更にも対応しやすい。引っ越し先にも、持って行ける。

【コスト】
安価なものから、高価なものまで幅広いバリエーションがある。予算とニーズに応じて幅広い選択肢がある。

【イメージしやすさ】
完成形の実物や写真を見て選ぶことができるので、買う前にイメージしやすい(造作家具の場合は、図面から想像するしかない)。

では、具体的な事例を見ていきましょう。

 

本棚の場合

ウチは本や書類が多くて…という家族には、大容量の本棚が必要になります。その場合、デッドスペースを生むことなく、スペースを最大限活用することがポイントになります。

置き家具で、幅・高さとも空間にピッタリのものが見つからない場合は、造作家具にするのがおススメ。幅は壁から壁まで、高さは床から天井までジャストサイズの本棚を造作すれば、最大限の収納量を確保できます。

 

造作の本棚であれば、窓と一体のデザインも自由自在。このお宅では、緑地の風景を切り取る高窓の幅と高さに合わせて本棚を造作しました。窓をふさいでないので、スッキリと見えますし、心地よいインテリアを収納の存在で台なしにしてしまうこともありません。

 

一方、置き家具のメリットは可変性。フレキシブルに、状況に合わせて使えることです。

このお宅は新築当初、家族3人が川の字になって寝るスペースと子どもの遊び場スペースとを一体にして、家族室として使っていました。子どもの本を収納する棚は、置き家具です。

 

やがて時間が経過し、家族のものが増え、子どもの成長にともない部屋を区切る必要が生じました。そこで、市販の置き家具を購入。本棚収納を間仕切りも兼ねて設置しました。

広々として、四角形のスペースでは、置き家具を取り入れやすいうえに、模様替えなどでも容易に家具の移動ができます(変形した部屋だと、壁際に家具が置きにくい)。

また、無印良品・IKEA・ニトリなどの比較的安価な置き家具を選べば、造作家具より費用も安くできます(上記事例では無印良品のパイン材ユニットシェルフを設置)。

 

ストック品や生活用品向けの収納棚の場合

ストック品や洗濯道具・掃除道具などの生活用品をしまう収納棚も、家になくてはならないもの。こちらは置き家具の事例です。

通路兼クローゼットのスペースにちょうど収まる置き家具(IKEAの「IVAR イーヴァル」という木製ラック)を設置しています。価格は1万円台と、コストも控え目。

 

こちらはトイレ回りのくぼんだスペースに設置した造作家具の収納棚。コンパクトなスペースの幅・奥行・高さにピッタリの棚を造作し、スペースを有効活用しました。動線のジャマにもならず、スッキリとしています。

こちらの造作家具のサイズは、およそ幅70×奥行30×高さ175cm。これくらいの造作家具を新築やリノベーションの工事の際に工務店に製作してもらうと、一般的におおよそ5〜10万円程度の費用となります。

 

テレビボードの場合

テレビボードは、市販の置き家具でさまざまなサイズ・デザインがあります。そのため、とくにスペースの制約が厳しくない場所に設置するなら、市販の置き家具で、問題はないでしょう。予算が厳しければ、安価な製品も選べます。

 

市販の置き家具のテレビボードは高さ40〜50cm程度のものが多く、ソファに座ってテレビを観やすい高さとなっています。収納量としてはさほど多くありませんが、DVD・ブルーレイのソフトやレコーダー、そしてゲーム機などを収納できるように。

 

一方、テレビボードを造作家具にするメリットは、空間サイズにジャストフィットできること。このお宅ではニッチ状に凹んだスペースに、テレビの設置場所と、それに合わせた造作家具をつくりました。

通常、置き家具のテレビボードだと、どうしても隙間が生まれがち。そこに、ホコリがたまり、掃除が手間になるものです。

一方、このお宅では、そうした隙間が一切なし。掃除の手間が省けます。また、隙間になにかものを落とした…といったこともありません。

 

テレビボードを造作家具にするもうひとつのメリットは、収納部分の形状を自由にカスタマイズできること。このお宅では、部屋のコーナーにテレビを設置しました。

コーナー用のテレビボードは、市販の置き家具ではサイズや形状のバリエーションが少ないのですが、造作家具にすればサイズも形状も自由。

この家では、窓枠の位置に合わせたジャストサイズのテレビボードをつくっています。テレビの左右にある窓をふさいでいない点に注目してみてください。

 

造作家具にすれば収納部分の形状も自由です。ここでは、部屋の角にピッタリと収まるように、三角形に近い形の引き出しをつくりました。

リビングで使うものをざっくり収納したい、という住まい手さんの要望に応えて、大きめのワゴン収納になっています。

番外編:デスク&テーブルの場合

最後に、収納以外の造作家具についても軽く触れてみましょう。

筆者への相談者のなかでも「迷っている」と声が多いのが、デスクを造作家具か置き家具にするかという問題。普通の個室に設置するなら、今後の模様替えなどもありますから、自由度の高い置き家具にするのが一般的。

一方、上の写真のように、「あらかじめ間取り決めの際にデスクコーナーとして計画され、今後もレイアウト変更の可能性がない場所」は、造作家具にメリットが多いことがあります。

加えて「コンパクトだけど、なんとかデスクを設けたい場所」にもおススメ。ピッタリしたサイズの方が、当然デッドスペースも生じないので、コンパクトな空間を目いっぱい使えるからです。

 

ダイニングテーブルも、置き家具が一般的。しかし上の写真のように、キッチンと連続させた形状のプランの場合は、キッチン幅に合わせてジャストサイズのテーブルを造作するのも手です。

このお宅では、リノベーションの際に大工工事で造作テーブルを製作しました。床には固定せず、あえて可動式に。来客時に大人数でテーブルを囲むときなど、ちょっとテーブルをずらして使うことができます。造作家具にちょっとした工夫を加えることで、料理や食事の時間がもっと楽しめるように…そんな事例と言えます。

 

どちらがいいかはケースバイケース

造作家具と置き家具のさまざまな事例を見てきました。両者にはそれぞれのメリットがありますから、どちらがよいかはケースバイケースです。

新築やリノベーションの際には、間取りとあわせてこうした点も建築士によく相談して進めるとよいでしょう。なにをどのように出し入れするのか、事前にしっかりしたシミュレーションも大切です。ぜひ、使いやすい収納を計画し、心地よい暮らしを実現していただきたいと思います。