段々と気温が下がり始め、少し肌寒いなと感じる日も増えてきました。夏の間フル稼働した冷房も、そろそろ暖房に切り替える時季ですが、海外ではどのような冷房・暖房を使っているのでしょうか? そこで今回は、アメリカ・シアトルに住んで十数年。子育てに奮闘するライターのNorikoさんに、「アメリカの冷暖房事情」について教えてもらいました。

西海岸では、自分で取りつけられるエアコンが人気

アメリカとひと口に言っても、アラスカからハワイまで気候はさまざま。土地によってまったく状況が異なるため、ここではおもにアメリカ西海岸を例に冷暖房事情を紹介します。

夏は平均気温が20度台で日差しが強いものの湿度のないカラッとした暑さ、冬もめったに雪の降ることがない温暖な気候が特徴的なアメリカ西海岸。…というのは、もはや昔の話かもしれません。

●異常気象で、冷房設備の需要がアップ!

2021年夏、記録的な熱波が西海岸を襲い、死者まで出る深刻な事態となったことは日本でも報道されたことと思います。そして、2022年夏もやはり西海岸に熱波が到来し、昨年に続き冷房設備を求める人が続出しました。

全米では9割の家庭に冷房設備があるとされるなか、シアトルでは半分にも満たない普及水準です。昨夏は42度超え、州内の一部では47度以上にも達し、エアコンのない家の中は、まさに地獄。コロナ禍ということで店内飲食を提供する店は限られ、カフェに避難することもかないません。

そこで今年の夏こそはと、品切れになる前にエアコンを購入。なんとか熱波をやり過ごすことができました。

最初は「年に数日の熱波のためにエアコンなんて…」と、まったく乗り気でなかった西海岸育ちのアメリカ人の夫。アメリカ市場にも日本式の壁掛けエアコンは進出していますが、今年の夏はすでに取りつけ工事の予約が完売との記事が出ていましたし、なにより高額のため、夫の反対を前にあきらめました。

そこで、より一般的な床置き、移動式のスポットクーラー(スポットエアコン)を選択することに。売れ筋の価格帯で4万円前後と比較的安価なうえ、自分で取りつけられるのも、アメリカで広く受け入れられている理由。目が飛び出るほどの工事費や人件費に、頭を悩まさずにすむのは大きいですね。

●スポットクーラーのメリット・デメリット

すでに導入している現地の日本人は、「とにかく音がうるさい」と口をそろえるスポットクーラー。室内機と室外機が一体化している構造のために、運転音が大きくなってしまうようです。

そこで、商品選択の際には騒音値をチェックし、「音が静かで赤ちゃんもぐっすり」というようなうたい文句のあるものを探しました。これが大正解! コロナ禍のリモートワークが続く夫も私も、涼しい環境で音を気にせずに仕事ができます。

また、壁かけエアコンと比べてパワー不足というマイナス面のあるスポットクーラーのなかでも、できるだけ涼しくするために、給気用と排気用のダブルダクトのタイプをチョイス。窓にダクト接続用のパネルをはめ込み、2本のダクトをつなげます。現在は結露の排水の手間を減らせるノンドレンタイプが主流のようで、こうした機能もマストです。

以前はサーキュレーターのみだったわが家ですが、これからは暑さが年々ひどくなっているシアトルの夏も快適に過ごせそう。結局、夫のほうが喜んでスポットクーラーを活用していたくらいです。

ただ、日本人としてはやっぱり壁かけエアコンの威力を知るだけに、「ものたりない」というのが正直な感想。夏だけとはいえ、本体もダクトも部屋の一角を占拠することになり、場所を取り過ぎるのも困りものです。

トイレの高機能温水洗浄便座と同様に、壁かけエアコンもまた、アメリカ生活ではめったにお目にかかれない高級品です。コンパクトなポータブルクーラー(ミニエアコン)もありますが、それでは部屋全体を冷やせないんですよね。アメリカの古い家、とくにニューヨークなど東海岸でよく見られる固定式の窓用エアコンは比較的パワフルと聞きますが、わが家の窓の規格には合いませんでした。

●見た目スッキリのセントラル空調

例年、夏は日本よりも過酷な暑さとなるアメリカ中西部や南部では、冷房をセントラル空調に組み込んでいる家庭が多いようです。巨大な室外機を庭に設置する必要がありますが、広々とした敷地を持つ中西部や南部の家では問題にならないのでしょう。

西海岸でもセントラル空調の家がほとんどなのですが、冷房はなく、暖房のみ。日本の雪国で最近浸透してきている、いわゆるセントラルヒーティングですね。

これのいいところは、家全体の温度をボタンひとつで設定、管理できること。エアコンや灯油式の暖房では、設置した部屋だけを暖かくしますが、セントラルヒーティングでは、玄関、廊下、キッチン、トイレ含め、あらゆる空間を同じ暖かさにできます。

アメリカの家はダクトが壁の内側を通り、天井や壁、床にはめ込まれている吹き出し口から温風が出てくる仕組み。給気口もはめ込みです。通常、ボイラー設備は地下やクローゼットの中などに置かれているので、インテリアなど部屋のデザインや雰囲気には影響なし。メンテナンスも、ダクト清掃を数年に1回、フィルター交換を年に1回くらいと、それほど苦になりません。

●しかし、デメリットも…

デメリットは、時間帯や場所によって希望通りの温度に調整するのが難しいところ。たとえば、夜に暑過ぎるとなかなか寝付けないので、寝室は冷やしておきたいのですが、設定がうまくいきません。基本24時間稼働のセントラルヒーティングでは禁じ手かもしれませんが、わが家では夜間にいったん切って、朝にスイッチを再びオンにします。

また、光熱費が高くなるという欠点も。うちはガスですが、暖房の熱源によってはもっとかかりそうです。冷房機能もあれば、さらにコストは高くなります。家の中が乾燥しやすいのも欠点と言えるでしょう。

アメリカでも近年は、環境保護やエネルギー効率の観点から日本式のエアコンなど、「ダクトレス」冷暖房は注目を集めています。寒さの厳しい日の朝などは特に、暖かいトイレにセントラルヒーティングのありがたみを感じますが、それも一長一短ですね。

古い家やアパートはセントラルヒーティングになっていないため、昔ながらのオイルヒーターが備えつけてあったり、個人的に最新のパネルヒーターを購入したりしているようです。

●アメリカの冬の風物詩・暖炉も健在

アメリカらしい暖房と言えば、暖炉もあります。冬に嵐が吹き荒れる頃、シアトルはしばしば停電になりますが、そんなときも薪をくべて火を起こせば明るくなるだけでなく、家中あったか。クリスマスや記念日など、特別な夜にも彩りを添えてくれます。うちの猫たちも暖炉が大好きで、暖炉の前でよく丸くなっています。日本のコタツもいいものですが、アメリカの暖炉もまた、冬の風物詩ですね。

最近は、すぐに着火するよう加工された薪も数々売られていて、ますます便利。薪を使わない、インテリアとしての電気暖炉(暖炉型ヒーター)も増えており、スイッチを入れると、まるで薪の炎が揺れているように見えるだけでなく、ちゃんと部屋も暖めてくれます。
こうした電気暖炉はリノベーションが必要な埋め込み式だけでなく、手軽な床置きや壁かけ式のタイプも日本で販売されているようなので、ノスタルジックな「暖炉のある暮らし」を楽しんでみたい方にはおすすめです。