自己ベストを出したいランナー必見!己を知り、最短で記録を狙うマラソントレーニング/練習
マラソンで自己ベストを出すにはどうすれば良いのか、その方法論を知りたい人は多いはず。
そういったランナーに向けて、独自のメソッドで自己ベスト更新をサポートするのが、ランナー向けトレーニングジム「RUNNING SCIENCE LAB(以下、RS LAB)」です。
このジムでは、まず特殊な測定でランナーの強み・弱みを“見える化”。その結果をもとに、強みを伸ばし、弱みをカバーして自己ベストを狙います。
一体どんなメソッドなのでしょうか。
今回、デサントの新厚底ランニングシューズ「DELTA PRO RACE」を履いたランナーが“デルタランニングクルー”として、RS LABとともに自己ベスト更新に挑戦。その模様を通してRS LABの方法論に迫ります。
レベルを問わず自己ベストを出したい方、必見です。
マラソントレーニング/練習は現状を把握することが、ベスト更新の近道
RS LABでは、自己ベストを出すために、まずランナーの「現状把握」を行います。
具体的には、「ランニングアビリティ測定」という測定を行い、現状の強み・弱みを数値化。それに合わせたトレーニングメニューを組み、3~4ヶ月スパンで自己ベスト更新を目指します。
なぜ最初に現状把握を行うのか。RS LABの杉山虹さんは、その理由をこう説明します。
杉山虹さん
「練習時間をたっぷり取れる方はまだしも、社会人などの練習時間が限られるランナーは、短時間で効率の良いトレーニングが求められます。最初に自分の現状を把握すると、効率良く必要な力を付けて、少ない練習量でタイムに反映しやすくなりますよね。」(杉山さん)
では、どのように現状把握をするのでしょうか。アビリティ測定では、ランナーが特殊な装置を着けて、トレッドミルをランニング。そのなかで、主に呼吸(呼気ガス)から現状のランニング能力を数値化します。
アビリティ測定で分かる、現時点でのランニング能力
この測定で分かるのが以下の能力です。それぞれ説明します。
■VO2max
最大酸素摂取量のことであり、そのランナーが1分間に利用できる酸素摂取量の最大値。最大値が増えると、最大スピードのUPやラストスパートの伸びなどにつながります。
■AT水準
VO2max(利用可能な酸素摂取量の最大値)に対して何%までを使った状態でマラソンを維持できるかの能力。数値が高いほど、追い込んだ状態を維持できることに。
なお、ATとは運動の強度を高めていくなかで、体内の疲労物質(乳酸など)を体が分解しきれなくなる地点。
■ランニングエコノミー
ある決まった走速度での酸素摂取量(VO2)。少ないエネルギーで効率良く走る能力の目安となります。
このほか、体の代謝効率や筋肉量の指標となる「EEH」も計測。その結果をグラフ化し、現状の強み・弱みを明らかにしてメニューを考えます。
なお、マラソンのタイムを縮めるには、ランニングフォームの改善やシューズ選択など、さまざまなアプローチがあります。
RS LABの測定はあくまで呼吸系の数値がメインですが、「測定結果の数値には、フォームやシューズの影響も表れます」と話すのは、RS LABの林貴裕さん。
林貴裕さん
「例えばランニングエコノミーが低い場合、その原因がランニングフォームやシューズにあることも多いですね。フォームが適切でないので、エネルギー効率が悪くなるなど。3つの数値は、さまざまな要素が組み合わさった“結果”であり、決して呼吸系の能力だけを示したものではないんです。むしろこの数値をもとに、原因がどこにあるかを確認します。」(林さん)
こういったアビリティ測定は「何十年も前から研究レベルで行われてきました」と杉山さん。ところで、専門施設に行けない方でも上の数値を知る方法はあるのでしょうか。
「最近は、これらを測定できるスマートウォッチも出ています。ただ、どうしても数値に誤差が出てしまうこともあります。あとは、同じメニューをこなしたときの心拍数を測るのも1つの方法。同じメニューで前回より心拍数が上がっていなければ、AT水準やランニングエコノミーが良化しているとも言えるでしょう。」(杉山さん)
測定で分かった、ランナー2人の課題とは?
そして今回、実際にアビリティ測定を行ったのが、デサントランニングクルーの2名(阪本奈々さん、西川晋作さん)です。
写真左:西川晋作さん、写真右:阪本奈々さん
現在、デサントランニングクルーでは、2022年9月から約4ヶ月でマラソン自己ベスト更新を目指す「デサントランニングプロジェクト」に挑戦中。合計4名のランナーが参加し、12月29日に行われる大会「Beyond 2022」で新記録達成を狙います。
阪本さんと西川さんは、専用機材を着けて測定を開始。トレッドミルで指定のメニューをこなし、現状の数値を測っていきました。
では、実際の測定結果を見てみましょう。
まず阪本さんは、ランニングエコノミーが高く、走りの効率は良いのですが、VO2maxは低めの結果に。今後、自己ベストを出すためには、VO2maxの向上が必要だと分かりました。
阪本さんは、もともと実業団で陸上競技をしていましたが、引退後9年ほどのブランクがあり、約2ヶ月前から久々に走り始めたばかり。そのため「まずはゆっくりでも長い距離を走っていた」とのこと。
VO2maxの向上につながるような、酸素摂取量を増やす練習、つまり自分を追い込む練習は「まだ後で良い」と思っていたようで、「今の練習内容が測定結果に表れていますね」と感想を漏らします。
続いて西川さんの結果を見ると、AT水準は高いものの、ランニングエコノミーやVO2maxは低めに。
特にランニングエコノミーは弱点で「走りの効率が良くないため、心拍数も早めに上がる傾向。まずはランニングエコノミーを改善しましょう」とアドバイスを受けます。
西川さんは「もともと800m走をやっていたので、マラソンに必要な効率の良い走りができていないかも」と分析。2人のこれまでの競技経験や練習状況が測定結果にも出たと言えるでしょう。
今日からできる、3つの数値を伸ばすマラソントレーニング/練習
では、3つの数値を伸ばすために、どんなトレーニングをすれば良いのでしょうか。今回は、なるべく自分でできる簡単なトレーニングを紹介していただきました。
■VO2maxを向上するトレーニング
VO2maxを伸ばすには、ショートインターバルトレーニングのような高強度の練習が有効とのこと。「HIIT(ヒット/ヒート)など、心拍数を上げる運動が良いでしょう」と杉山さん。
トレーニングのコツとして、心拍数の“波”をきちんと作るのがポイント。「途中で短い休憩を挟んで心拍数をしっかり落とし、その後また高くする。心拍数の波を作ると効果が出ます」と林さんが解説します。
このほかに、自宅でできるVO2max向上の方法として、風船を使ったトレーニングがあるとのこと。「毎日10分でも続けると成果が出ると思います」と林さん。
具体的なトレーニングの方法は、記事の最後に動画で紹介しています。
これらの説明を聞いて、VO2maxを上げる方法が分かった阪本さんは、「自分を追い込む練習はつい甘えが出るのですが、明確に課題と対策が分かったので頑張れそうです」と前向きです。
■AT水準を向上するトレーニング
AT水準を上げるには、先述したATに近い強度で運動し続けることが重要。「その強度に体を慣らし、耐性をつけていきます」(杉山さん)とのこと。
RS LABの場合、測定結果からATに近い走速度を算出。その速度でのペース走やロングインターバルを増やすのが基本です。
一方、アビリティ測定はしていないもののAT水準を伸ばしたい人に対しては、「ATの目安は最大心拍の7~8割と言われます。まず高強度の運動で自分の最大心拍を測り、その7~8割となる練習を行ってください」と、杉山さんはアドバイスします。
■ランニングエコノミーを向上させるトレーニング
ランニングエコノミー向上のためには、ゆっくりでも良いのでとにかく長い距離のジョグを走ることが有効とのこと。距離を稼ぐなかで効率の良い走りを作っていくイメージです。
ランニングエコノミーの改善を目指す西川さんは「もともとジョグは苦手だったのですが、数値化されるとやらざるを得ないですね」と笑顔で話します。
シューズ選びも数値に影響。厚底シューズの場合は?
なお、前半で述べたように、3つの数値はトレーニングだけでなく、使うランニングシューズによっても変化が出てくるようです。
「例えば、カーボンプレート入りの厚底シューズの場合、ランニングエコノミーが向上しやすいという研究がいくつか出ています。ただし、厚底シューズは柔らかいために着地が不安定になったり、カーボンの推進力でフォームが乱れたりというリスクも。その点をクリアできると、タイム短縮につながるでしょう。」(杉山さん)
その観点では、今回ランナーが履いているデサントの「DELTA PRO RACE」は、カーボン入りの厚底シューズながら、ソールに安定性を持たせてブレない走りをサポートするコンセプト。推進力と安定性を兼ね備えています。
杉山さんも「安定性を意識しているのは良いと思いますね。着地の安定に加え、蹴り出しもブレないので、カーボンの反発がまっすぐ進行方向に向かうのでは」と言います。
アビリティ測定でランナーの現状を把握し、それに応じたトレーニングを行うRS LABのメソッド。その一端が今回の取材で分かったのではないでしょうか。
なお、RS LABとデサントランニングクルーによるプロジェクトは年末まで続きます。今後もその様子をもとに、自己ベストを出すためのトレーニングや方法論をデサントブランドサイトにてお伝えする予定。ぜひお楽しみに!
文/有井太郎