まるでサソリ! 尾翼でっぷりの珍スタイル3発プロペラ機「トライ・ランダー」 なぜその形に?
ブリテン・ノーマン社の大ヒット・プロペラ機「アイランダー」の系譜をくむ、通称「トライ・ランダー」は垂直尾翼の上部にエンジンを配置するという、独特の形状を持つ3発機です。特異なエンジン配置は、何の目的で生まれたのでしょうか。
大ヒット機「アイランダー」の系譜を汲み
1970年9月11日、イギリスのブリテン・ノーマン社のプロペラ機BN-2 Mk3「トライ・ランダー(正式なモデル名はトリスランダー)」が初飛行しました。この機は、両翼のほか、垂直尾翼の上部にエンジンを配置するという独特の形状を持つ3発機。尾部の上方がボテっと膨らんだその外観は、まるで“サソリ”のようにも見えます。
ブリテン・ノーマン社「トライ・ランダー/トリスランダー」(画像:Pete Webber[CC BY-SA〈https://bit.ly/3RBivZU〉])。
このような独特のエンジン配置をもつ「トライ・ランダー」は、ほぼ真四角な胴体の上部に主翼を配置し、長さ約15m、幅が約16mで、小型機の代名詞ともいえるセスナ172の2倍程度の大きさです。通常は約250km/hで約1600kmを飛行できます。
「トライ・ランダー」は、同じブリテン・ノーマン社で開発され、1300機近くが製造された双発機「アイランダー」の発展版にあたる機体です。
1960年頃から、小型の機体で近距離を結ぶ「コミューター路線」を担当できる旅客機のニーズが高まりました。そのようななか生み出されたのが、「アイランダー」です。この機の特長は、生産コストだけでなく、運航コストも抑えられる機体だったことです。
「アイランダー」はドアを開ければ乗客がすぐ乗り降りできるように利便性を確保するほか、胴体を軽くする目的で、主翼を胴体の上に配置。また短距離離着陸性能(STOL性能)にも強みがあり、250m(820 フィート)未満で離着陸できるとされており、砂浜など滑走路を設置できない環境でも、条件次第では離着陸可能なほど堅牢な設計も強みでした。まさに「アイランド(島)」を飛び交うための飛行機だったといえるでしょう。
この成功をもとに開発されたのが、「トライ・ランダー」です。
「トライ・ランダー」、なぜサソリのような飛行機に?
「トライ・ランダー」でエンジンの増備が図られたのは、収容力アップのため。「アイランダー」は8〜9名の旅客しか乗せられなかったのに対し、「トライ・ランダー」は倍近い16人の乗客が搭乗できます。胴体も4m程度、「トライ・ランダー」の方が長くなっています。一方「アイランダー」には及ばないものの、強みである短距離離着陸性能も健在。「トライ・ランダー」も450mの滑走路から発着でき、「アイランダー」と同じく不整地でも使用することができます。
ただ、ここまでサイズが大きくなると、2発のエンジンでは力不足。実用化に不可欠な当局の型式証明を満たす出力を獲得できず、その解決のため、エンジンを増やすことになりました。ここでエンジンをどこに装備するか、というのが課題になってきます。
ブリテン・ノーマン社「アイランダー」(画像:ブリテン・ノーマン社)。
プロペラ機でエンジン数を増やすケースでは、機首に装備することが、もっともスタンダードな手法です。ただ、「トライ・ランダー」のデザインをできるだけ流用するとなると、それは叶わなかったそう。そこで、ボーイング727やホーカー・シドレー「トライデント」、ダグラスDC-10といった大型旅客機などの例を参考に、尾部へ装備する方針が取られたと記録されています。とはいうものの、尾翼部分は大きな再設計が必要でした。
このように開発された「トライ・ランダー」ですが、姉妹機である「アイランダー」レベルのヒット機とはならず、製造は72機にとどまりました。ただし、日本のコミューター航空でも導入があり、鹿児島を拠点とする日本内外航空がこの機を運用していました。
ちなみに愛称の「トライ・ランダー」は、エンジン3基を意味する「トライ」と「アイランダー」をかけ合わせたものです。