2012年9月下旬に中国初の空母「遼寧」が竣工してから早10年。奇しくも2022年には3隻目となる空母「福建」も進水しています。2019年に竣工した「山東」含め、これまで中国は3隻の空母を手にしています。それらを改めて振り返ります。

ウクライナ生まれの中国育ち 空母「遼寧」

 2022年8月24日、中国軍(中国人民解放軍)は南シナ海で航空母艦「山東」が行った訓練の動画を公開しました。動画では052D型駆逐艦や901型総合補給艦と見られる艦艇と艦隊を組み、艦載機のJ-15(殲15)が「山東」に発着艦する様子が映されています。

 それに先立つこと約2か月前、中国の国産空母第1号である「山東」に続く2隻目、同国海軍としては3隻目となる空母「福建」が2022年6月17日に中国船舶集団(CSSC)の江南造船所で進水しています。「福建」は艦載機の発艦装置として電磁カタパルトを採用し、制動装置と組み合わせたCATOBAR方式での発着艦システムを構築することで、より効率的な航空戦力の運用を可能にしようとするなど、中国は空母の運用能力を高めています。

 そんな中国空母の1隻目は、2012年運用開始の「遼寧(りょうねい)」でした。それから10年、中国空母のこれまでの歩みを振り返ってみます。


中国海軍の空母「遼寧」(画像:中国北海艦隊)。

 中国海軍で初の空母となった「遼寧」は、もともと、ウクライナから購入した「ワリヤーグ」の船体を改造したものです。

「ワリヤーグ」は1988(昭和63)年にアドミラル・クズネツォフ級空母の2番艦としてムィコラーイウの黒海造船所で進水しました。しかしソ連崩壊の混乱と、新たに独立したウクライナが黒海造船所を国有化したことなどにより、ロシア海軍は同艦の建造を凍結。両国での交渉の末、ウクライナが所有権を得たものの、結局は海外に売却することが決まります。

 こうした経緯から、岸壁に放置されていた「ワリヤーグ」に興味を持ったのが中国でした。

似ているけどより洗練 初の国産空母「山東」

 ただ、中国はだいぶ前から空母保有に関心を持っており、1980年代から90年代にかけてスクラップにすることを前提にオーストラリアから退役空母「メルボルン」を購入。また、テーマパークに転用することを前提でロシア海軍から退役した空母「キエフ」ならびに「ミンスク」をそれぞれ手に入れ、これらで空母に関する綿密な調査を行ってきました。

「ワリヤーグ」は当初、軍艦として再生しないことを前提に1998(平成10)年、マカオの観光会社に売却されました。しかし、その回航先は中国海軍向けの新造ヤードや修繕ドックがある大連港でした。


中国海軍の空母「山東」(画像:大連船舶重工集団)。

 大連船舶重工集団で長らく改造工事が行われていた「ワリヤーグ」は2012(平成24)年9月、遂に「遼寧」として竣工します。スキージャンプを艦首に備えた船体や主機は「ワリヤーグ」時代のままでしたが、電子機器類や兵装は中国国産のものが搭載されたほか、飛行甲板前部に置かれていたP-700「グラニート」対艦ミサイルのVLS(垂直発射装置)が撤去され、その部分は燃料や弾薬の保管庫となっていました。ここで得たノウハウは、国産艦として建造された「山東」へと引き継がれることになります。

 その後しばらく、中国の空母戦力は「遼寧」1隻の体制が続きますが、同艦竣工から7年後の2019年12月、初の国産空母となる「山東」が竣工しました。満載排水量は7万トン、全長は315m、全幅は76mと「遼寧」に比べて大型化。船首方向に傾斜したスキージャンプなど船体の形状は、一見すると「遼寧」とあまり変わっていないように思えますが、アイランドの小型化や格納庫の拡張などが図られています。

 なお、艦載戦闘機J-15の運用を想定して、スキージャンプの角度も遼寧の14度から12度に改められています。

スキージャンプ消滅 より大型化した「福建」

 最初の空母「遼寧」が北海艦隊に配備されたことから、2隻目の「山東」は南海艦隊の所属とされており、すでに海南島の三亜を拠点に南シナ海などで演習を行っていることが中国国営メディアで報じられています。

 そして2隻目の中国産空母となる「福建」では、前出のとおりスキージャンプを廃し、アメリカ海軍のジェラルド・R・フォード級と同様の電磁カタパルトを用いた発艦方式が採られることになりました。


2022年6月17日、上海にある中国造船グループ江南造船所で進水した空母「福建」(画像:中国人民解放軍)。

「福建」の満載排水量は8万トンと、これまでの2隻の空母と比べてかなり大きくなっています。目玉装備の電磁カタパルトは3基搭載されており、艦載機にはJ-15に加え、J-35と推定される第五世代の戦闘機や早期警戒機が搭載されると見られています。

 中国は海南島などで空母の運用を支える施設の整備を進めていることから、今後は水上艦艇と潜水艦がセットになって、南シナ海周辺で海洋権益確保のための行動をより積極的に実施していく可能性があります。

 また、アメリカに対抗可能な戦力を整備することを目指す中国が、国産空母の建造を2隻で終わらせるとは考えにくく、「福建」の2番艦、場合によっては原子力空母が登場することも十分に想定されると言えるでしょう。