西九州新幹線 成功のカギは「駅前駐車場」に? クルマと“共存”する新幹線 地域どう便利に
鉄道・バスとの接続が主体だった黎明期の新幹線駅と違って、クルマ利用が主体の地方では広い駐車場を擁する駅が多くなっています。開業を控えた西九州新幹線も、九州ならではの「クルマでのアクセス」が反映されています。
最近の新幹線駅、トレンドは「クルマ」利用の取り込み
新幹線の駅といえば、幹線鉄道やバスが接続する公共交通の一大拠点として整備されるのが一般的でした。しかし自家用車が普及した地方の新幹線駅では、クルマでの利用を想定して、広い駐車場や周辺道路の整備などに重点を置くようになっています。2022年9月23日に開業する西九州新幹線も、同様の傾向が見られます。
武雄温泉駅での試運転列車歓迎セレモニー(画像:JRTT鉄道・運輸機構)。
これまでの代表的なケースといえば、駅前に整備した300台以上の無料駐車場によって定住者・通勤需要を掘り起こしている東北新幹線 くりこま高原駅(宮城県栗原市)や、東京・新横浜への新幹線利用で72時間まで駐車場が無料になる山陽新幹線の各駅などが挙げられます。近年では、無料駐車場と道の駅をセットで整備した北海道新幹線 奥津軽いまべつ駅(2016年開業、青森県今別町)なども、同様の方向性を目指したものと言えるでしょう。
九州では、既存の九州新幹線(博多〜鹿児島中央)の全線開通が2011(平成23)年と比較的歴史が浅く、多くが在来線の駅と離れている上に、路線バスとの接続すら少ない駅も存在します。そうした環境の中で、当初から各駅に駐車場が整備され、鉄道利用とセットで駐車料金を割り引く「パーク&ライド」制度が充実しています。
鉄道利用者のみのお得な料金体系もあり、例えば157台分を擁する筑後船小屋駅(福岡県筑後市)の駐車場は1日最大料金600円のところ、新幹線利用の場合のみ24時間最大400円(72時間まで)。ほか熊本駅、新八代駅、鹿児島中央駅などでも、鉄道利用とセットで一時利用・月極利用がともに割引となる駐車場が整備されています。最近ではアプリ「akippa」による事前予約にも対応しているため、クルマを停められず新幹線に乗り遅れる心配もありません。
また割引制度がなくても、新鳥栖駅のように一時利用でも40分間まで無料、その後24時間ごとに300円という格安の駐車場が市営・民間合わせて600台以上整備されている場合も。この駅は「鳥栖筑紫野道路」など主要道路が東西・南北方向にクロスし、各方面からのアクセスも良好です。
新鳥栖駅は佐賀市からもクルマで40分少々ということもあり、佐賀駅に近い地域から、こちらを利用する場合も多いのだとか。佐賀市街地は駐車料金が高く渋滞もあることから、もともと高速バスを利用する場合でも、市北部の「金立公園」無料駐車場から博多・天神方面のバスに乗車するケースが見られました。こうしたなかで、新鳥栖駅・新幹線利用がもう一つの選択肢として生まれたわけです。
高速バスで根付いた「パーク&ライド」 西九州新幹線でも
このように九州地方では鉄道だけでなく、高速バス・都市間バスの事業者も駐車場の整備や乗り継ぎ割引の適用に積極的です。その背景には「近隣の地方都市ならともかく、(道が広く交通量も多い)博多・天神では運転したくない」というユーザーの指向があり、鉄道・バスとも要望に応えるかたちで、クルマとの共存による利用を伸ばしてきました。
では、新たに開業する西九州新幹線 武雄温泉〜長崎間はどうでしょうか。
新規開業駅のひとつ新大村駅は、在来線との接続もありますが、クルマでの利用者獲得に向けて270台の駐車場を整備、また月極利用者向けの駐車場も整備されます。そして駅の西側には彼杵(そのぎ)・諫早などへ通じる国道34号があり、駅の至近を通り国道のバイパス的役割を担う片側2車線の「大村外環状線」も2022年3月に全通したばかり。
大村市はこれまで国道の慢性的渋滞に悩まされてきましたが、このバイパスで新幹線駅へのアクセスや市南北の移動はかなり改善されそうです。ちなみに新大村駅の近くには、1000台以上の駐車場を擁する長崎空港もあり、九州外に移動する人にとって選択肢が広がりそうです。
建設中の新大村駅。この周辺に駐車場が整備される(宮武和多哉撮影)。
もうひとつの新規開業駅、嬉野温泉駅にも200台以上の無料駐車場が整備されます。これまで嬉野市には鉄道がなく、高速バスが停車する嬉野温泉バスセンターなどが玄関口となっていましたが、新しい新幹線駅は駐車場と「道の駅 うれしのまるく」(駅開業とともにオープン)も併設され、路線バスも乗り入れ予定。新幹線駅の周辺エリアを交通の一大拠点として位置付けていくようです。
立地的にも、西九州道の武雄南ICが近く、佐世保市内までも30分ほど。また東隣には新幹線の開業によって特急列車の激減に見舞われる鹿島市があり、嬉野温泉駅は将来的に、鹿島市のクルマユーザーの玄関口となる可能性もあります。ただ今回の部分開業の段階では、嬉野温泉駅から6分走行すると、武雄温泉で博多方面行き在来線特急への“対面乗り換え”が必要に。武雄温泉駅でも駐車場の増設が予定されていることもあり、嬉野温泉駅が実力を発揮するのは、もう少し先になるかもしれません。
クルマ利用のもう一つの主役・カーシェアリングはどうなる?
そして、鉄道+クルマ利用といえば、駅を出てからの「ラストワンマイル」(目的地までの最後の移動手段)を担うカーシェアリング・レンタカーの存在も見逃せません。
カーシェアリング「タイムズカー」を展開するパーク24(東京都品川区)は、現状でも新青森〜東京〜博多〜鹿児島中央間の新幹線全駅でカーシェア車両を配置した“ステーション”を整備しています。
同社によると九州では、博多駅や鹿児島中央駅だけでなく、久留米駅、新八代駅といった中間駅でのビジネス・観光利用も目立つとのことです。なお同社は西九州新幹線の沿線でも武雄温泉駅、諫早駅、長崎駅にステーションを整備していますが、新駅(嬉野温泉、新大村)へのステーション設置はまだ検討中とのことです。
武雄温泉駅は従来から広い駐車場を有している(宮武和多哉撮影)。
地元の人は自宅からクルマで駅に向かい、駐車場に停めて新幹線利用。外部から来訪する場合は、駅からカーシェア・レンタカーなどへの乗り継ぎ。九州では路線バスや鉄道などの拡充が難しいなか、実態に合わせた「クルマ→新幹線」「新幹線→クルマ」ユーザー獲得に向けた取り組みが、着々と進んでいます。