2022年、ポーランドがアメリカ製と韓国製、2種類の主力戦車を相次いで調達することを決めました。すでにドイツ製の「レオパルト2」戦車も運用しているポーランド、なぜそうまでして戦車の数を増やしているのでしょうか。

M1「エイブラムス」に続いてK2「黒豹」の調達も決定

 ポーランドは、2022年に入ってからアメリカ製M1「エイブラムス」戦車と韓国製K2「黒豹(フクピョ)」戦車の導入を相次いで決めています。その背景には、ワルシャワ条約機構解散後のNATO(北大西洋条約機構)への加盟、さらには昨今のロシアによるウクライナ侵攻といった、複雑な事情が絡んでいるようです。


今後ポーランド軍の主力となる3種類の西側戦車。上がドイツ製のレオパルト2、右下がアメリカ製のM1「エイブラムス」、左下が韓国製のK2「黒豹」(画像:ポーランド国防省、ノルウェー国防省)。

 いまから30年以上前、ワルシャワ条約機構時代のポーランドは、ソ連(現ロシア)の衛星国として、NATOとの間に位置するいわば緩衝地帯としての役割を担っていました。そのため、ソ連は同国の戦車戦力構築に力を入れ、T-72戦車のライセンス生産を認めていました。

 しかし1991(平成3)年12月にソ連が崩壊・消滅すると、ポーランドは1999(平成11)年にNATOへと加盟。一転して、今度はロシアに対するNATO側の最前線を担う立場となりました。その一環として、同国は国内にアメリカ軍部隊を駐留させるようになりましたが、結果的に2022年現在、ロシアの脅威に対する重要な「安全装置」の役割を果たしています。

 このような事情から、ポーランドとしてはワルシャワ条約時代の「忘れ形見」であるソ連製の兵器体系から脱却し、アメリカを含むNATO兵器体系への移行を続けてきました。しかし、長年に渡って築かれてきた国軍の兵器体系を一新するには、相応の費用と時間が必要です。

 ところが、ロシアのウクライナ侵攻という事態が、ポーランドばかりでなくアメリカを始めとした西側各国に強い危機感を抱かせることとなりました。特にロシアと国境を接しており、ワルシャワ条約時代には資本主義に対するソ連の緩衝地帯扱いされていたポーランドは、ウクライナの実情を眼前にして「明日はわが身」と捉えており、手持ちのT-72約240両を、急ぎウクライナに提供しています。

韓国製ならドイツ製やアメリカ製兵器と互換性あり

 2022年現在、ポーランドはNATO最大のMBT(主力戦車)保有国で、その総数はソ連製、西側製合わせて約800両にも及ぶほど。そのなかにはワルシャワ条約時代にライセンス生産したT-72系も多数含まれています。

 旧ソ連邦の構成国であったウクライナにとって、やや旧式化したとはいってもT-72は扱い慣れたMBTであり、ポーランドがそれを緊急で提供したのは、もちろんポーランド一国の意向だけでなく、アメリカを始めとしたNATOの思惑も含まれたアクションだといえるでしょう。

 なお、ポーランドがこのように気前よくウクライナにまとまった数のT-72を供与できたのも、その「抜けた穴」を塞ぐ目途が友好国から「約束」されていたからです。事実、その後アメリカとの間でM1シリーズの最新バージョンであるM1A2SEPV3を250両購入する契約が成立しています。

 加えて、ポーランドは一層、自国の戦車戦力を拡充すべく、大胆な動きに出ました。それが韓国と結んだK2「黒豹」の導入契約です。


ポーランドが過去ライセンス生産していた旧ソ連製のT-72戦車(画像:ポーランド国防省)。

 K2「黒豹」は、韓国がかつて国産戦車の開発に際して提携発注した、M1「エイブラムス」の開発元であるアメリカのクライスラー・ディフェンス社(現ジェネラル・ダイナミクス社)主導の下で製造したK1戦車の技術ノウハウを下敷きにする形で、独自に生み出した新型戦車です。

 韓国は、アメリカとの強い同盟関係を維持しており、とうぜんながらK2「黒豹」についてもアメリカのM1「エイブラムス」とのインターオペラビリティ(相互運用性)が考慮された設計となっているため、ポーランドがM1と共に装備・運用するには適しているといえるでしょう。発想としては、かつてアメリカ空軍がF-15とF-16、2種類の戦闘機を運用することで目指した「ハイ・ロー・ミックス」の戦車版といえるかもしれません。

 加えてポーランドは、K2に関して韓国で生産された車体を輸入するだけでなく、ポーランド国内でのライセンス生産も行うとしています。同国が導入するK2の総数は約1000両といわれていますが、輸入するのは180両のみであるため、ポーランド国内で800両以上を製造することになります。

国内生産が示す大きなメリットとは

 ポーランドは、かつて旧ソ連が開発したT-72をライセンス生産した経験があるため、一定レベル以上の戦車製造と改修・改造能力を備えているといえるでしょう。そのT-72の生産ノウハウに代えて、K2の生産ノウハウを取得することで、今度はNATO加盟国として、M1やレオパルト2なども含めた西側戦車の技術も合わせて修得しようというわけです。

 なお、一説によると、将来的にポーランドで生産されるK2には独自のアップデートも盛り込まれるようです。同国でライセンス生産する車体は「K2PL」と呼ばれるそうですが、この改良内容は韓国から輸入したK2にも随時反映されるため、おそらくK2PLのノウハウは、韓国側へもフィードバックされることになっているでしょう。

 ポーランドとしてはアメリカのM1のライセンス生産も視野に入れていたようですが、コストや技術面での折り合いから、最終的にK2に白羽の矢が立てられたのは、前述の「K1からK2へと続くM1系列の技術的血筋」が、大きく影響していることは間違いありません。


M1「エイブラムス」やK2「黒豹」とともにポーランドの戦車戦力の一角を占めることになるドイツ製のレオパルト2A5戦車。同車は全数がドイツから輸入した中古である(画像:ポーランド国防省)。

 ポーランドは、その国土を何度もロシアにより蹂躙、分割、統治されてきた悲惨な過去を有しています。NATOへの加盟も、過去の惨劇を繰り返さないための保証的な意味合いが強いものでした。このような同国の姿勢からすれば、現在のウクライナのような事態が、いつわが身に降りかかるのかという危惧を抱くと同時に、政治も軍事も含めた、よりいっそうの国防への注力は当然といえます。

 その意味で、陸上防衛力の中核となる戦車戦力の整備に関して、「実績と信頼」のアメリカ製戦車M1「エイブラムス」と、自国の戦車生産ノウハウを生かすことができ、かつ独自改良が可能なうえ、前述した「M1系列の技術的血筋」を受け継ぐK2「黒豹」の2本立てで構築しようというのは、至極まっとうな選択なのかもしれません。