衝撃の甲子園デビューから1年「こういう選手がいるチームは強い」を体現する男。横浜・緒方漣を支える反骨心と図太さ
こういう選手のいるチームは強いよな......。
試合中に何度もうなってしまった。横浜高校の1番・遊撃手、緒方漣(2年)のことだ。早々に2ストライクに追い込まれても、しつこくファウルで粘って四球をもぎとる。時にはシャープなスイングで長打を放ち、ポイントゲッターの役割も果たす。遊撃守備でも広範囲の打球を落ち着いてさばき、センターラインを引き締める。
初戦の三重戦で攻守にわたりハツラツとしたプレーを見せた横浜高校・緒方漣
昨夏に緒方の存在を知った野球ファンも多いに違いない。2021年8月11日。広島新庄との甲子園初戦で、緒方は逆転サヨナラ3ラン本塁打を叩き込んだ。1年生選手のサヨナラ本塁打は大会初の快挙。2対0と広島新庄の完封ペースだっただけに、沈滞ムードを切り裂くような緒方の一弾は衝撃的だった。
そして1年生の偉業を一層引き立てたのは、試合後の監督・選手の緒方に対するコメントだった。
「最後に緒方がやってくれるんじゃないかという期待は、正直言ってありました」(村田浩明監督)
「緒方ならやってくれる、つないでくれると思っていました。勢いだけじゃなく、冷静に試合に入っていけるので、頼もしい存在です」(当時の主将・安達大和/現・日本体育大)
入学間もない1年生がこれだけの信頼を勝ち得るのは尋常ではない。それまでの公式戦や普段の練習から、間近で見てきた人間に伝わるものがあったのだろう。
そして今年、2度目の甲子園でも緒方は躍動した。三重高との初戦は8月9日の第1試合に組まれた。横浜の主将を務める玉城陽希が「気持ちが高まる一方で、朝8時のプレーボールで体が動いていない印象でした」と語るチームにあって、身長169センチ、体重69キロの小兵は元気だった。
試合開始直後の1回裏には、相手先発の好右腕・上山颯太に9球を投げさせたうえで四球を選ぶ。3回裏の2打席目には甘く浮いたチェンジアップを右中間に運び、三塁走者の鉾丸蒼太を還す先制二塁打を放った。打っては2打数1安打1打点2四死球、守っては4本のショートゴロをさばいている。
4対2で勝利した試合後、首元から足までユニホームを泥だらけにして緒方は試合を振り返った。
「自分はチームに勢いを与える打撃をして、起爆剤になれたらと考えています。今日は3出塁できたので、自分の仕事はできたかなと思います」
出塁率は驚異の6割超え横浜の村田監督は、この1年の緒方の成長についてこう語る。
「体も心も鍛え直して、体重は1年で8〜9キロ増やして甲子園に戻ってきました。パワーで負けず、かつ俊敏に動ける、選手としてレベルアップしてくれました」
冬場にはバリエーション豊富なティーバッティングのドリルを通して、打撃のレベルアップに取り組んだという。
「拾う、たたむ、叩く、伸ばすの4項目を身につけることで、相手の決め球を粘れるようになったり、ヒットにできるようになったりしました」
緒方の打撃はより嫌らしさに磨きがかかっている。特筆すべきは出塁率の高さだ。1年夏も2年夏も緒方は神奈川大会で.625という驚異的な出塁率をマークしている。ただ安打を量産するだけでなく、四死球で出塁ケースも多い。
2番を打つ板倉寛多は、打席に入ると6割の確率で緒方が塁上にいる計算になる。板倉は緒方についてこう語った。
「どんなボールに対しても食らいついてヒットにしたり、粘ってフォアボールをとったり、出塁する執念がすごいです」
板倉の口から「執念」というフレーズが出たが、これは奇しくも緒方のモットーでもある。緒方は言う。
「泥臭く、がむしゃらにプレーするのが小さい頃から自分のあるべき姿だと考えていました。今日はユニホームをいっぱい汚せて、執念のあるプレーができたと思います」
体格的に恵まれているわけではない。50メートル走のタイムは6秒3、遠投距離は95メートルと身体能力が突出しているわけでもない。それでも、緒方がグラウンドに立つとこれだけ輝けるのはなぜなのか。そんな疑問を本人にぶつけてみると、緒方は真っすぐにこちらを見てこう答えた。
「中学(オセアン横浜ヤング)時代の恩師の上野(貴士/元横浜高ほか監督)さんから『デカいやつには絶対負けるな』と言われていたんです。それからは大きな選手とか、馬力のある選手には絶対負けないという思いでやっています」
強烈な反骨心と、大舞台に怯まない図太さ。これから戦うステージが高くなっても、緒方漣は緒方漣であり続ける。そんな予感がする。