球界屈指の名手も高評価! なぜ、ブロックソールスパイクが高校球界で注目され出しているのか?

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 連日各地で熱戦を繰り広げた夏の高校野球の地方大会も、西東京大会を最後に出場校がすべて出そろった。夏の甲子園に出場する49校が8月6日から戦うことになる。

 甲子園といえば、毎年懸念されるのが暑さとの戦い。酷暑ともいえる厳しい暑さが選手たちの体力を奪っていく。2020年シーズンより白スパイクの使用が認められることになり、暑さ対策の一環として注目された。

 多くの学校がトレンドに乗っかったことで瞬く間に白スパイクへの統一が進み、選手たちの足元が白く輝くのが当たり前になりつつある。スパイクに対する注目度が近年、非常に高まってきているが、実は時代背景とともに大きく変化をしている道具でもあった。

始まりはアメリカ。持ち帰ってきたスパイクが文化を作る

 画像左/以前販売されていた釘カシメ式の革底スパイク画像右/現在、主流となっている埋め込みスパイク

 そもそも、日本球界にスパイクという道具を使う風習ができたのは1905年がきっかけだという。早稲田大がアメリカ遠征に行った際、向こうの選手が金具スパイクを使っているのを知り、日本へ持ち帰ってきたことで始まった。

 当時の状況について、現在はゼットクリエイト株式会社で野球用品の開発に携わる田中穂積氏に詳しく解説してもらった。 「持ち帰ったスパイクといっても、靴底に対して、滑り止めの金具が付いている程度です。言うなれば、普段履いている革靴に金具がついているような感じだった様です。 しかし当時の日本は普通の靴でプレーをしていたので、特別で画期的な靴だったんです」

 ここを起点に、日本野球にも金具スパイクを使う文化が根付いてきた。 最初は革底に対して釘を打ち込み、曲げて金具を固定する釘カシメ式。その後、ボルト/ナット式と呼ばれる、金具が消耗してきたら自身で金具を付け替えできる方法が1970年代後半ごろから確立された。

 靴底についても、雨に弱いが、足なじみが良い革底のみならず、天候に関係なく使えることで現在の主流となっている樹脂底が生まれるなど、技術の発展とともに、スパイクの靴底もあらゆるものが生まれてきた。

 しかし2000年代、21世紀に突入すると、多様性のあったスパイクにトレンドが生まれる。 「釘カシメ式やボルト/ナット式はスパイク本体が壊れなければ、金具を交換し続けられ長持ちするのが特徴でした。ただ金具のブリッジや取り付け部品などにより、スパイクそのものが重くなってしまうのがデメリットでした。 そこで金具クリート単体を樹脂底に直接、埋め込んで軽量化を追求した埋め込み式スパイクが登場。パフォーマンス向上の為、軽量スパイクは好まれることから、埋め込みスパイクに人気が集中するようになりました」

 足なじみが良かった革底も、雨に弱く耐久性に難があることから埋め込みソールの台頭に伴い徐々にすたれ始めた結果、2010年代になるころには革底スパイクは市場からほとんど姿を消し、樹脂底に埋め込み式のスパイクを履くのが主流、トレンドとなり、球界を席捲した。

次に来る「ブロックソールスパイク」とは?

ゼットブロックソールのスタッドは先端を尖らせ、中央部にはV字の切り込みも入れグリップ力を高めている

 時間にしておよそ10年でスパイクのトレンドが変化する。時代とともに目まぐるしく変化する市場の中で、現在はホワイトスパイクがトレンドワードになっている。今後もホワイトスパイクの勢いは続くだろうが、密かに注目を集めているネクストブレーク候補が「ブロックソールスパイク」だと田中氏は話す。

 「埋め込みスパイクはパフォーマンスには良いのですが、長時間の練習で金具からの突き上げを受け足裏が疲れてしまうんです。その疲労を軽減することを選手たちは望んでいたので、突き上げを感じにくく足裏が楽なブロックソールスパイクの開発に着手しました」

 少し前とは違い、プロ野球選手でもキャンプになれば早朝から個人練習。日中は全体練習、夜は再び個人練習と、とにかく野球に打ち込む選手たちが増えた。そうすれば必然的にスパイクを着用している時間も伸びる。加えて選手たちの筋力やパフォーマンスは年々高まっている。すると足にかかってくる負担も当然増えてくる。

 であれば、第2の心臓とも称される足裏を含め、少しでも足に優しい、楽になるようなスパイクを使った方が、ベストパフォーマンスを発揮できる可能性は高まる。そうしてプロ選手たちが導き出した答えが「ブロックソールスパイク」なのだ。

 選手1人1人が食事への意識、ケアに対する意識が高まっているという時代背景も「ブロックソールスパイク」の人気に拍車をかける要素ではあるが、特にゼットが販売しているスパイクの特徴は主に2つだ。

ゼット株式会社の独自調査によるスパイクの違いによるパフォーマンス結果

 まずは地面からの突き上げを軽減するために、靴底全面にクッションを入れる「フルミッドソール」の設計を採用。足裏全体に対する突き上げを解消した。

 もう1つが「ブロックソールスパイク」の最大の特徴であり、「最も大変だった」と田中氏が話したスタッド設計である。 「ブロックソールスパイク」に変えたことで負担を減らしたが、パフォーマンスが落ちてはならない。金具と遜色ないプレーを発揮するためにどんなスタッドがいいのか。元々、小学生や一般軟式野球層に向けて展開していたポイントスパイクを土台に、軽さとグリップ力を両立した足に優しい「ブロックソールスパイク」の開発を1年間かけて行ってきた。

 「地面に刺さりやすく足部を安定させる。そのために金具に近い構造を目指してスタッドを作っています。ただ金具と同じように設計しても、素材が合成樹脂なので、薄くするほど耐久性が低下してしまいます。そのバランスを見極めて、形状は先端を斜めに削り、なおかつV字カットを施しています。 そして安定感と前後左右への蹴り出しやすさを実現する為、スタッドの配置と角度にもこだわって設計しています」

 これらの成果として、ゼットの独自調査で、金具と「ブロックソールスパイク」による30メートル走やスイングスピードの計測結果の違いを調べた。結果、ほとんど遜色ない数字が出ており、「ブロックソールスパイク」がいかに足への優しさとパフォーマンスの両方が成立しているかが証明されているという。

NPB屈指の名手も高評価! 「ブロックソールスパイク」は徐々に浸透中

ブロックソールスパイクを手にポーズ写真を撮る田中穂積氏

 この唯一無二のソールを作るために、キャンプ中にプロ選手にも履いてもらい、そこで出た意見を取り入れたそうだが、その中の1人でもあり、ゼットアドバイザリープロスタッフ・源田壮亮内野手は、ブロックソールスパイクを練習用として現在も使用している。

 「フルミッドソールなので足裏が柔らかく、突き上げもないので履いた瞬間から足が楽です」とコンセプトでもあった、足に優しいスパイクを肌で感じ、愛用しているのだ。

 源田選手をはじめ、プロ選手でも徐々に「ブロックソールスパイク」は浸透しているが、高校野球に限ってみると、2020年に発売を開始しているものの、使用状況はまだまだ少なく、これから徐々に浸透していくものと思われる。

 なかなか高校生に「ブロックソールスパイク」の良さが伝わり切れていないのが現状である。しかし、実際に履いてもらうと好評の声が上がることが多いそうで、商品そのものの完成度は高いという。それだけに「良さを知ってもらってまずは練習用から徐々に使ってもらい、2年後くらいには全体の2、3割にでも使ってもらえたらと思っています」と焦る気持ちを抑えて、その瞬間が来ることを待っている。

 トレンドに遅れないように、今後は「ソール構造はそのままに、その他の部分をバージョンアップしていきたいと思います」引き続きアッパー部分を見直して、軽量化と耐久性向上などを図っていく方向だという。

 パフォーマンスが向上し、体への負担も大きくなった。少しでも試合でベストパフォーマンスを発揮できる時間を延ばすには、自身の体のために優しいスパイクが求められる。まもなく次のトレンドもやってくることだろう。そのとき、先端を走るのは「ブロックソールスパイク」になるのではないだろうか。

取材=編集部