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日本の食材に合わせて塩を改良し、売上を伸ばしたトリュフソルト

――DEAN & DELUCAには人気商品がたくさんあります。インパクトのある見た目で大流行したクラッシュチョコレートマフィンやトリュフソルトはどのように誕生したのでしょうか。

左:クラッシュチョコレートマフィン、右:トリュフソルト(画像提供:DEAN & DELUCA)

クラッシュチョコレートマフィンは想いが詰まった商品のひとつです。元々僕たちはベーカリーもセレクトで提携のベーカリーショップから毎日仕入れていましたが、ある時に内製化にチャレンジすることになりました。そして、2012年にベーカリーキッチンが併設された新宿店ができた時に「DEAN & DELUCAらしい、アメリカンペイストリーを作ろう」と当時の料理長と考えたのが、クラッシュチョコレートマフィンでした。カカオクッキーをのせるアイデアは、「カロリー度外視で見た目も楽しいマフィンが作れないか」という僕たちの好奇心から生まれました。発売から現在までずっとお客様に愛されており、とても嬉しく思います。

―― トリュフソルトも、売上20万個と大人気ですね。

トリュフソルトは元々セレクト商品でしたが、より多くのお客様に楽しんでいただけるように味わいを改良し2016年に自社商品に切り替えたところ、売上が伸びました。まだ馴染みのないトリュフソルトでもDEAN & DELUCAのロゴのパッケージにしたことで、お客様が安心してご購入くださったのだと思います。

――DEAN & DELUCAが自社商品を作る理由とは何でしょうか。

当ブランドはバイヤーが世界中を巡って出合った伝統的な食材を取り揃えていますが、その中には日本の食卓では普段使われないような商品も多く、お客様が少しでも不安がらずにご購入いただけるように、ブランドのロゴが入った商品を意欲的に開発しています。いわば自社商品はトライアル商品で、そこから関連するセレクト商品に手を伸ばしてほしいという思いもあります。

――新商品はどのような体制で作られているのでしょうか。

ベーカリーやデリ惣菜、カフェメニューの部門(フード&ビバレッジ部門)とグローサリーやキッチンウェアなどの部門(パッケージフード部門)が担当します。季節やイベントなどからプロモーションのテーマをたて、新商品の開発、セレクト商品などそれぞれのチームで検討し、進めていきます。

――商品を開発される時、トレンドを狙うことはありますか。

当社の商品はプロダクトアウトで、流行を意識することは考えていません。ただ一方で、お客様を知ることは大切にしています。以前に比べて今はブランドの規模が大きくなり、お客様のボリュームゾーンも30代~50代女性へと広がっているため、その点を考慮して商品の味付けやサイズ感などのバランスを見極めています。

DEAN & DELUCAでは、世界各地から集めたセレクト商品のほか、自社で開発した自社商品も販売している。画像提供:DEAN & DELUCA

原価の話をしない商品開発会議と、販売促進だけではないプロモーション

――プロダクトアウトで商品開発を行っているとのことですが、開発段階での重視点は何でしょうか。

ブランドの創業者、ジョエル・ディーンさんとジョルジオ・デルーカさんの哲学「Living With Food(”食すること”とは、人生を味わうこと)」を大切にしています。彼らは食べることが大好きで、「食事を家族や友人とシェアしたい、最高の体験にしたい」という強い想いがありました。このフィロソフィーに通じる商品を僕たちも作り続けたいと考えています。

――創業者のフィロソフィーは現場でも徹底しているのですか。

創業者たちと同じプロセスで商品と向き合っています。 商品会議では試食をしながら、現地や生産者について話してアイデアを出し合い、原価率は商品が完成した後にまとめて上代を決めていきます。当ブランドはまだ融通がきく規模なので自社商品については「反応が悪ければ止めようか」くらいの気心でテストマーケティングなしにトライすることも多いですが、セレクト商品は異なります。お客様にきちんと魅力を知ってもらい、商品が長く続くようにしたいので、慎重に販売戦略を練っていきます。

――他にも特徴的な点はありますか。

マンスリーのプロモーションでしょうか。

12月、ホリデーシーズンのプロモーション(画像提供:DEAN & DELUCA)

販売やVMD連動して店頭で最も目立つ場所にスペースを作り、ハロウィンやホリデーシーズンなど、季節やその時々で提案したい商品を置いています。販売促進の意味合いだけでなく「伝える機会」として僕たち自身も楽しみながら取り組んでいます。

――販売促進以外の目的があるプロモーション、面白いですね。

これも当ブランドらしい理由があります。海外の食品は日本人にとっては馴染みのないものも多く、「伝えること」がとても大切なんです。今でこそ日本で普及したオリーブオイルも、20年くらい前は家庭ではあまり一般的に使われていませんでした。そこで、僕たちはオリーブオイルを使用したレシピやおすすめの活用法を積極的に提案したのです。

商品だけではなく、産地での使われ方や作り手の想い、どんな風に活用するとおいしく味わえるのかも伝えていく。これも創業者が大切にしていたことで、僕たちの大事な役割だと考えています。

――これこそがDEAN & DELUCAの商品が話題になる理由かもしれません。セレクト商品もDEAN&DELUCAが生産者と同じ熱量で魅力を伝えることで、消費者は目新しい食品でもトライしやすくなるのでしょう。

僕たちは、普遍的な価値観を大切にしています。トートバッグが話題になるまではブランドの認知が広がらず難しい時期もあったのですが、それでも妥協せず、ブレずにフィロソフィーと向き合ってきたのが良かったのだと思います。また、商品について伝える際は「押し付けがましい」感じにならないように意識しています。食は楽しいのが根本ですから、ジャンクフードを食べる日があっても、健康的なものを食べる日があっても良いと思っています。選択肢があることが大切です。だから、一時的な流行や売上の上下は、僕たちはあまり気にしていません(笑)。長く愛される商品を開発することを大切にしています。

もっと近くの美味しいものに注目。食のプラットフォーマーとして、ブランドの原点と向き合う

――今後の商品開発について教えてください。

コロナ禍を経て、お客様の購買行動やニーズの変化が著しくなり、店舗やオンラインなど多様なチャネルで DEAN & DELUCAとして提案する機会も増えているので、そういった時代に合うようにスピーディな開発体制に見直していこうと動きはじめています。

商品については原料価格の高騰など、難しい舵取りが続いており、例えば小麦粉の代替品として米粉を使った商品提案を検討し始めています。また、そうした原料価格高騰という理由に限らず、最近は身近にある国産品を大切にしたい想いが増しています。

和食材に限らず、海外生まれの生ハムやチーズも国産品で目を見張るほど美味しいものがありますから、ラインナップを充実させていきたいです。

他には、イタリアンやスペイン料理、ポルトガル料理など、名店のシェフとのコラボレーション商品を強化していきます。僕たちは2020年頃から「レストランクオリティのものをご自宅でも食べてほしい」という想いからシェフと連携して缶詰などの商品を作ったり、産直で販売したりしています。

シェフとコラボレーションした缶詰のパッケージとイメージ(画像提供:DEAN & DELUCA)

――名店のシェフとのコラボレーションのきっかけは、コロナ禍だったのでしょうか。

はい。それまではご自身のレストラン営業で忙しく、「レストランの経営だけで十分」というシェフの方たちも、パンデミックでの休業を体験された際に、目線や考え方が変わったのだと思います。レストランで料理を体験できるお客様の数は、席数や場所の関係でどうしても限定的になってしまいます。しかし、こうした商品の形で提供すれば、料理の体験者を増やすことができます。

コロナ禍では、レストランという空間以外で、お客様に料理をどのように味わっていただくか考えたシェフも多いのではないでしょうか。シェフたちが単独で商品を作るのは大変ですから、そこを僕たちがこれまで培ってきた技術やノウハウで補えたらと思っています。

また、名店のシェフと一緒に取り組むことで、僕たち自身も商品開発のスキルが格段に上がりました。

――今後は国内外を問わず、「食の楽しさ」を生み出すコラボレーションが増えていきそうですね。

それこそがDEAN & DELUCAの原点ですから。僕たちも店舗やオンラインショップなどマルチチャネル化が進んでいます。生産者やシェフの想いに出合い、食がもっと楽しくなる、そんなプラットフォームになることを目指していきます。

――ありがとうございました。

株式会社ウェルカム DEAN & DELUCA グループ長 田中大資さん(画像提供:DEAN & DELUCA)

【Profile】
田中 大資(たなか・だいすけ)
株式会社ウェルカム 執行役員 DEAN & DELUCA グループ長。
大学卒業後、コーヒーを扱う会社に就職。29歳でDEAN & DELUCAに転職し、営業支援やバイヤー、企画職を経て、現在、株式会社ウェルカム執行役員 DEAN & DELUCAグループ長を務める。
株式会社ウェルカム 公式サイト:https://www.welcome.jp/
DEAN & DELUCA:https://www.deandeluca.co.jp/

記事執筆者

渥美まいこ

あつみ・まいこ
食領域で会社員をしながらライティング・編集を手掛ける。現在は食ビジネスに関わる方向けの無料コミュニティも運営中。
Twitter:@atsumi_maiko
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