「みてね」は子どもの成長を家族で共有できるアルバムアプリ。ユーザー数も右肩上がりで増加している(写真:ミクシィ)

子どもの写真や動画を家族と簡単に共有する――。それを実現するスマホアプリが「家族アルバム みてね」(以下、みてね)だ。

「みてね」は2015年にリリースされた共有アプリで、写真だけではなく3分以内の動画であれば容量無制限かつ無料で利用することができる。遠く離れた家族とも気軽に写真や動画を共有し、一緒に子どもの成長を見守れることがウリとなっている。

中でも人気なのが「1秒動画」というコンテンツ。無料会員であれば3カ月に1度、月額480円の有料会員であれば1カ月に1度、アップロードした写真や動画を組み合わせて、成長を振り返ることができるダイジェスト動画である。


編集はアプリが自動で行うので、動画の切り貼りなどの面倒な作業は一切不要だ。こうした独自サービスが子育て世代に受け入れられ、アプリのユーザー数は右肩上がりで増加。2021年に3月に1000万を突破し、直近では1500万に近づいている。

モンスト依存脱却へ多角化進む

実はこの「みてね」を手がけるのが、かつてSNS「mixi」で一世を風靡したミクシィだ。2013年に開始し、大ヒットしたスマホゲーム「モンスターストライク」を含むデジタルエンターテインメント事業は今なお収益柱で、2022年3月期売上高1180億円のうち、約8割をゲーム事業が占める。

一方、ミクシィとしても“モンスト一本足”に対する危機感は強い。日本のスマホゲームの中では依然として確固たる地位を築いているが、リリースしてからの時間が長く、ゲームの売上高は減少傾向にある。モンストが含まれるデジタルエンターテインメント事業について、会社側は今2023年3月期については減収するとみている。

そこでミクシィはこの数年、オンラインベッティングアプリ「TIPSTAR」などの公営競技事業や、2022年2月に子会社化したFC東京を含むスポーツ観戦事業など多角化を進めてきた。その中で力をいれてきた1つが、写真共有アプリの「みてね」だ。

「みてね」のプロデューサーを務めるのはミクシィ創業者で会長の笠原健治氏だ。開発のきっかけは笠原氏自身が子どもを持ったことだったという。

当時笠原氏は「子どもの成長の様子を残したいと思って、気がついたら写真・動画を撮っている日々だった」と振り返り、それらの写真を整理保存するアプリを探していた。


かさはら・けんじ/東京大学在学中の1997年に求人サイトを開始。1999年に法人化し代表取締役就任。2022年4月より取締役ファウンダー上級執行役員(撮影:今井康一)

ただ、既存のSNSやクラウドサービスは満足のいくものがなかった。笠原氏自身、写真・動画整理や保存にはクラウドサービスを使うことが多かったが、保存に特化しているサービスが多く、共有という観点では利便性が低く、動画の再生の遅さ、解像度の悪さが気になったという。

そこで社内で共感してくれる人たちを中心にチームを結成。「みてね」のサービス開始へとつながった。「みてね」開発チーム内には今の社名にもなっているSNSの「mixi」に携わりたいと集まってきたメンバーが多く、mixi由来ともいえるさまざまなアイデアが反映されている。

例えば親しい人とだけコミュニケーションできる「クローズドなメディア」という観点ではmixiと共通している。そうしたメディアは参加者の熱量が高く、互いに親しいからこそ安心して、気兼ねなく発信できる。受け取る側にとっても、すべてのコンテンツが「見たい存在」なのでエンゲージメント率 (投稿に対する反応率)は高い。

実際、「みてね」はサービス開始から7年経つものの、アクティブ率は上がっている。これは既存ユーザーが高いエンゲージメントを保ったまま、新規のユーザーが入ってくるためだ。

拡大する「みてね経済圏」

ユーザーが増える中、「みてね」はアルバムアプリの範疇にとどまらずM&Aや連携なども通じてサービスを拡大、「みてね経済圏」を広げている。

2016年にはオリジナルのフォトブックが作成できるサービスを開始。その後、カレンダーや年賀状の作成など、デジタルだけにとどまらない「思い出作り」のサービスを展開してきた。

さらに、2020年にはインターネットサービス事業を手がけるXTech社とジョイントベンチャー「クロスポッケ社」を設立し、子ども向けプレゼントのECサービス「みてねギフト」など開始。ほかにも、こどもの居場所を通知してくれる「みてねみまもりGPS」や、2021年に資本連携したコールドクター(現・みてねコールドクター)による往診医療サービスなど展開を広げる。

「みてねは祖父母世代が使っているアプリとしては日本随一になっていると思うので、おじいちゃん、おばあちゃん世代の課題解決するサービスも作っていけるのではないかと思っている」(笠原氏)

実際に居場所がわかる「みてねみまもりGPS」は子どもにはもちろん祖父母世代にも使われている。また、往診医療サービスは親も含む3世代に渡って使えるサービスだ。

海外の登録者が3割を占める

サービスを拡充する一方で、海外展開にも力を入れる。現在7言語、150カ国以上でサービス展開しており、海外ユーザーが3割を占める。直近では新規の登録者数は国内よりも海外のほうが多い。

収益化の手段としてはプレミアム課金、写真プリント、フォトブックを提供しているが、日本で行っているカレンダーの作成など、ほかのサービスはまだ提供できていない。

一方、近々カレンダーやグリーティングカードの提供や日本では展開していないサービスを、アメリカなど海外で提供することを計画している。

実は日本よりもアメリカのほうがアルバムアプリへの課金率が高く、ヨーロッパのほうが写真プリントの課金率が高いため、今後の海外展開にも期待がかかっている。

みてね経済圏が拡大する中、笠原氏は「国内だけでも(みてねの)売上高200億はいけるのではないか」と話す。海外の子どもの数を踏まえると、グローバル展開が進むことで、現在の売り上げの10倍も射程に入るという。(みてねを含むライフスタイル事業の2022年3月期の売上高は87.3億円、みてね単体での売上高は非開示)。

「モンストと同じく会社の柱にしていきたいと思っている。ただ『みてね』に限らず、スポーツ事業、新規ゲームに携わる人はみなモンストと同じく柱を作りたいと思っているだろう」(笠原氏)

多くのユーザーから支持されている「みてね」。今後、サービスや海外展開にさらに厚みを増していけるかが、ミクシィの成長における試金石となりそうだ。

(武山 隼大 : 東洋経済 記者)