大ヒット中の映画『トップガン マーヴェリック』。劇中で俳優トム・クルーズが駆るのはF/A-18Eですが、前作ではF-14に乗っていました。この2機種はどう違うのか、出自から機体の性格、遂行可能な任務の違いまで比較してみました。

「トムキャット」が生まれた時代背景

 1986(昭和61)年公開の『トップガン』、そして2022年6月現在、大ヒット上映中の続編『トップガン マーヴェリック』。どちらも傑作スカイ・アクション映画として高い評価を受けています。

 両作とも主演はアメリカのベテラン俳優トム・クルーズ。しかし、彼に勝るとも劣らないほどの存在感を放っているのが、「もうひとりの大空の主役」ともいえるアメリカ海軍のジェット戦闘機でしょう。

 前作ではF-14「トムキャット」、今作ではF/A-18「スーパーホーネット」が用いられており、どちらも、空母で運用される艦上機としてオープニングからエンディングまで終始スクリーンに登場しています。では、なぜ前作と今作で使われる戦闘機が変わったのでしょうか。その理由を、F-14「トムキャット」とFA-18「スーパーホーネット」という2機種の「性格」とともに見ていきます。


2004年、翼を並べてともに飛ぶF-14D「トムキャット」(手前)とF/A-18A「ホーネット」(画像:アメリカ海軍)。

 さかのぼること約60年前の1960年代、東西冷戦真っ最中のこの時代、アメリカと敵対していた旧ソ連(現ロシア)は、実用化とその保有に時間、技術力、そしてノウハウが必要な空母を持つことができず、アメリカの空母機動艦隊への決定的な対抗手段に欠けていました。ゆえにソ連海軍は、当時、アメリカよりも進んでいた自国の対艦ミサイルを使った対抗策を編み出します。

 それは、アメリカ空母機動部隊に向けて、海軍航空隊の爆撃機編隊、水上戦闘艦隊、潜水艦という三者が、各々異なる方向から、100発もの対艦ミサイルを一斉に発射する「対艦ミサイル飽和攻撃」でした。100発が、数発ずつ順番に飛んで来るならまだしも、これほどの数の対艦ミサイルがあらゆる方向から同時に向かってくるとなると、当時のアメリカ海軍の艦隊防空システムでは全く対応できず、確実に被弾してしまいます。

オールレンジで敵機を圧倒可能な空戦性能

 そこで、この戦術に対応すべく開発されたのがF-14「トムキャット」です。最大探知距離が200km以上もあるAN/AWG-9レーダーを搭載。同機は、このレーダーによって、24個の目標を同時に追尾することができ、そのうちの6目標に向けて最大射程約150kmというAIM-54「フェニックス」空対空ミサイルを一斉に発射し、それらを別々に誘導・攻撃できるという、当時の戦闘機としては類まれな戦闘能力を有していました。

 アメリカ海軍は、F-14「トムキャット」があれば、ソ連海軍航空隊の爆撃機部隊も、それから発射された対艦ミサイルも、どちらも迎撃することができると考えたのです。ちなみに、ソ連の水上戦闘艦と潜水艦が発射した対艦ミサイルへの対抗策として生まれたのが、のちに登場することになるイージス・システム、すなわち防空戦闘に秀でた「イージス艦」でした。


2005年、編隊飛行するF-14D「トムキャット」(手前)とF/A-18E「スーパーホーネット」(画像:アメリカ海軍)。

 しかもこのF-14「トムキャット」は、単に「空飛ぶミサイル発射基地」のような鈍重な戦闘機ではありませんでした。それまでのベトナム戦争における戦訓で、戦闘機にはミサイルで離れた場所にいる敵機を撃墜するだけでなく、近距離での「ドッグファイト」と呼ばれる格闘戦でも敵機を圧倒できる戦闘能力が必須となっていました。つまり、敏捷性や優れた機動性も求められたのです。そのため、F-14は飛行速度によって角度が変化する可変後退翼を備え、きわめて優れた機動性を発揮するように設計されています。

 搭載する空対空戦闘用の兵器も、長距離用の「フェニックス」、中距離用の「スパロー」、短距離用の「サイドワインダー」という3種類のミサイルに加えて、ドッグファイト時の近接戦闘用として20mmバルカン砲も装備。つまりF-14は、ソ連の爆撃機や対艦ミサイルを迎撃するだけでなく、ドッグファイトも含めた敵戦闘機との空戦でも勝利できるよう、優秀な「制空戦闘機」に仕上がっていたのです。

「ホーネット」がFとA両方を名乗るワケ

 ただ、このF-14の実用化が進められていた頃、艦上軽攻撃機であるA-7「コルセアII」の後継も求められていました。しかし、アメリカ海軍はこちらの新型機開発については、攻撃専用の機体ではなく、ベトナム戦争の戦訓に基づき、F-4「ファントムII」のように戦闘機としても攻撃機としても運用できる多用途(マルチロール)機を要求したのです。

 なお、そのような要求を行った背景には、当時流行った「ハイ・ロー・ミックス」という考え方に従い、戦闘機としてはきわめて優秀ながら、ゆえに高価で、かつ爆撃能力を持っていないF-14を補佐できる廉価な戦闘爆撃機も必要だという、アメリカ海軍の方針もあったからでした。


アクロバット飛行するF-14D「トムキャット」(下)とF/A-18「ホーネット」。作中でも似たような飛び方をするシーンがあった(画像:アメリカ海軍)。

 そこで白羽の矢が立ったのは、アメリカ空軍が不採用としたYF-17「コブラ」戦闘機の艦上機化でした。YF-17は、アメリカ空軍の軽量戦闘機計画に従って開発された機体でしたが、YF-16(のちのF-16戦闘機)の採用によって、引き取り手のない状態に陥っていました。

 このYF-17の開発を海軍が継続し、空母に搭載可能な艦上戦闘機に仕立て上げたうえで生まれたのがF/A-18「ホーネット」だったのです。同機はF-14よりも廉価な制空戦闘機であると同時に、F-14とは違って爆撃機としても運用でき、従来の艦上攻撃機の代替となる機体でした。

 結果、戦闘機にも攻撃機にも使えるという意味から、戦闘機(Fighter)を示す「F」と、攻撃機(Attacker)を示す「A」の類別記号を「/」でつないだ、それまでのアメリカ軍には存在しなかった機種類別記号の「F/A」が与えられたのです。

いまだ飛び続ける「トムキャット」伝説

 その後、ソ連が崩壊したせいで対艦ミサイル飽和攻撃の危機はほぼ解消されます。その一方、より高性能化が図られたF/A-18の発展型であるF/A-18E/F「スーパーホーネット」が開発されたことで、陳腐化したF-14「トムキャット」の必要性に疑問符が付き、運用コストも高かった同機は姿を消すことになり、2006(平成18)年9月、アメリカ海軍から退役しました。

 ちなみに、作中でも、前作の『トップガン』ではF-14「トムキャット」が得意とする空戦をメインに描かれていたのに対して、今作の『トップガン マーヴェリック』では、F/A-18E/F「スーパーホーネット」だからこそ行える地上攻撃が描かれています。

 一方で今作『トップガン マーヴェリック』では、F-14「トムキャット」で空対空戦闘を繰り広げる場面も。各々の機体のキャラクターに適したストーリー展開になっているといえるでしょう。


アメリカ海軍VF-213のF-14「トムキャット」戦闘機(画像:アメリカ海軍)。

 なお、開発元のアメリカからもF-14「トムキャット」は退役してしまった2022年現在、飛行可能な同機が地球上に存在するのかという疑問が残りますが、世界で唯一、イランだけはいまだに運用しています。同国はパーレビ国王時代に高価な本機をオイル・マネーにものをいわせて購入しており、結果、開発元のアメリカ以外で唯一、導入した外国となりました。

 イランでは、いまだに屈指の高性能戦闘機として重用されているそうなので、同国からF-14「トムキャット」が退役するまで、『トップガン マーヴェリック』は楽しめるかもしれません。