【登山の基礎知識】山登りでは挨拶するのが常識?初心者が登山を安心・安全に楽しむための持ち物やマナーを解説

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夏を迎え、富士山も7月1日に山開きするなど、ついに登山シーズン到来です。これまで山登りをしたことがなくても、「いつかは富士山に登ってみたい!」と思っている人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、今から山登りを始める初心者向けに、登山の基礎知識を紹介。山歩きに適した服装、必要な持ち物、さらに知っておきたい登山のマナーなど、山登りを安心・安全に楽しむための事前準備やポイントを、登山のプロに解説していただきました。

 

<プロフィール>

AUTHENTIC JAPAN株式会社
清水良文

山に囲まれた山梨生まれという環境と父の影響もあり、高校時代に登山をスタート。某登山用品ショップで20年以上勤務し、現在は会員制捜索サービス「ココヘリ」などを展開するAUTHENTIC JAPAN株式会社に勤務。日本山岳ガイド協会「登山ガイドステージII」の資格を持つ。自然を感じることのできるテント山行が好きだと言う。

事前準備が大事!計画を立てることも登山の楽しみ

ただひたすら登頂を目指すのではなく、山や自然の景色を楽しみながら登ることが、趣味としての登山の魅力。もちろん山頂まで登った達成感や、そこでしか見られない景色を味わえるのも山登りの醍醐味です。

しかし、登っている最中や登頂時だけが山登りの楽しさではないと清水さんは言います。

「最近思うのは、登山はルールがないスポーツなので、自分の中である程度ルールを決めてやっていくことが登山の楽しみなのかなと。ほかのスポーツに比べるとリスクマネジメントが求められるので、それをどう自分でコントロールしていくかも一つの楽しみだと思います。

例えば、どこの山を登るか、どういうルートで登るかといった登山計画を立てること自体がすでに楽しいんです。計画を立てるなかで、ここは危険な道があるとか、そういったことを事前に知っておくことがリスクマネジメントにつながりますし、地図を読むという点においても登山の楽しみにつながっていくのかなと思っています。」(清水さん)

登山に限らず、何事も前もって準備しておくことがとても大切。その準備を億劫と思うのではなく、楽しみながらやってほしいと清水さんは話してくれました。

登山靴・ザック・レインウェアは登山における三種の神器

山登りは事前準備が大事。そこで、用意しておくべき持ち物について清水さんに伺いました。

「登山の三種の神器と言われるものが、登山靴・ザック(バックパック)・レインウェアです。そのなかでも一番重要なのは靴だと思います。

登山用の靴は、普通の靴に比べてソールやアッパーが硬くなっていて、筋肉疲労を軽減したり足を保護してくれる役割があります。歩くというのは山での一つのテーマなので、登る山に合わせて用途やサイズの合った靴を選んでください。

ザックは、持って行く荷物がすべて入るものを選びます。外にいろいろぶら下げてると引っかかったりして転倒の要因にもなるため危ないです。山登りに慣れてくるとシンプルなザックが好みになってくると思いますよ。」(清水さん)

また、雨風や寒さから身を守ってくれるレインウェアも必需品。防水なのはもちろんですが、ゴアテックスのレインウェアなど透湿性を備えたものが快適でおすすめとのこと。

肌着選びが最重要!山登りに適した服装とは?

山登りの服装は重ね着が基本。いわゆる肌着にあたるベースレイヤー、フリースなど体温調節のためのミドルレイヤー、レインウェアなど防風・防水・防寒対策となるアウターの3つのレイヤリング(重ね着)で構成され、暑いときは脱ぎ、寒いときは着ることで体温調節を行います。

「例えば夏の富士山は、5合目なら半袖・短パンでもいられますが、山頂で御来光を見る時間帯は東京の1月くらいの気温になります。そうなると冬の格好をしなくてはいけないので、登山では重ね着が重要になるんです。」(清水さん)

そのためミドルレイヤーは、登る山に合わせて厚みを変えたり、着方も変えたりする必要があると清水さん。しかし最重要なのはベースレイヤー(アンダーウェア)だと話します。

「アンダーウェアの重要性というのは初心者ではなかなか気付きにくい部分ですが、山登りは汗冷えが大敵なんです。山だと暑くて死ぬことはほぼありませんが、逆に低体温などで亡くなるケースはあるので、アンダーウェアが非常に重要になってきます。

どんなにハイスペックなレインウェアを着ていたとしても、下がコットンのTシャツだと意味がありません。また、下着は多々ある登山用品のなかでもレンタルや他人から気軽に借りられないアイテムです。速乾性のあるもの、吸放湿性のあるウール製品などシーズンや登る山に合わせてを自分でそろえておく必要があるんです。」(清水さん)

山登りを安全に楽しむための心得

登山ウェア、三種の神器のほかに、山登りにはどのような持ち物が必要になるのでしょうか。

「あとはサングラスや帽子もあったほうが良いですね。頭部のケガ予防にもなりますし、日焼けすると体力が消耗するので、登山では必要なアイテムです。

そして忘れてはならないのが安全装備ですね。遭難対策というかリスクマネジメントの一つとして、地図、コンパス、ヘッドランプ、それから山によっては緊急時のためにツェルト(小型軽量テント)なども必要になってくると思います。

さらに万が一に備えて、自分の位置情報を知らせるアイテムを持って行くと良いでしょう。」(清水さん)

安心して登山が楽しめる!捜索サービス「ココヘリ」

今、登山初心者はもちろん上級者からも注目されているのが、会員制捜索サービス「ココヘリ(COCOHELI)」です。万が一の遭難に備え、ココヘリに加入してから山登りを楽しむ人が増えています。

ココヘリに入会すると、手のひらサイズの会員証(発信機)が手元に届きます。登山届などで、どの山に行くか足跡を残し会員証を登山時に携帯するだけでOK。最大で16kmの範囲で会員証を探知し位置情報を特定します。発見後はその位置情報を警察や消防など捜索組織に通報し救助をお願いする仕組みになっています。

ココヘリは全国エリアをカバー。1事案につき3回までの捜索フライトが無料で、全国34都道府県の警察や消防がココヘリ受信機を導入・運用しています。

早期発見だから捜索費用や行方不明になるリスクを最小化。生命保険金がおりない、住宅ローン債務弁済など、未発見により失踪者扱いになることによって生じる経済的負担から家族を守ります。さらに、個人賠償補償や物品補償で登山中の心配もトータルサポートします。

「ココヘリ会員の方は、家族のために入られている方が圧倒的に多いんですね。スマートフォンだとその日のうちにバッテリーが切れる可能性もありますが、ココヘリは一度の充電で2ヶ月くらい電波を発信し続けます。」(清水さん)

ココヘリ専用ポケットを搭載したシェルジャケット

そんなココヘリの会員証(発信機)を収納できる専用ポケットを搭載しているのが、マーモットの「エージャケット(A Jacket)」。

防水性・透湿性・耐久性に優れたゴアテックスを使用した3層構造のジャケットで、レインウェアや防寒着として山登りで大活躍します。

オリジナルパターンにより、腕・肩まわりに可動域を持たせつつ、腕を上げたときに裾がずり上がりにくい構造もポイント。脇にはファスナー開閉によるベンチレーションを備え、衣服内の蒸れを外気へと排出することができます。

ココヘリと併せて用いることで、安心して登山を楽しめる注目アウターです。

初めての山登りはグループで行くのがおすすめ

山登りでは、登山計画書(登山届、入山届)の提出もマスト。登山計画書には、日時やメンバー、登山のルート、持って行く装備などを記入するため、しっかりとした登山計画書を提出することが大きなリスクヘッジになると清水さんは話します。

最初に述べたように、登山は事前準備が本当に大切。登山計画書・山岳保険・ココヘリを新三種の神器として、登山に出かけることを第三者に伝えて情報共有し、山登りを楽しみたいですね。

「あと、初めて山に登る場合は、経験者に同行してもらうなどグループで行くことをおすすめします。単独登山はそれだけでリスクが高まるので、初心者こそグループで。

登山ツアーや登山学校といったものがあるので、これから始める方はそういったものを利用するのも一つかなと思いますね。ココヘリでも会員様向けに安全登山学校も定期的に開催しております。」(清水さん)

飲み物や食べ物はどれくらい持っていくべき?

登山初心者が気になるのが水や食糧について。何を、どれくらい持って行くと良いのでしょうか。

「登山でバテないためには、ゆっくり歩くことと、飲むこと・食べることが非常に重要になってきます。食べるという点では、『体重×行動時間×5kcal』というのが一つの基準になります。体重60kgの人が6時間歩くと、消費カロリーは1,800kcalくらいになるので、おにぎり1個100kcalだとすると18個必要な計算に。

しかし、それを持って行くのは現実的ではないので、行動食はサプリメントなどでカバーします。お腹が減ったと感じた時点で、すでに“シャリバテ※”している直前なので、お腹が減らないように登山中に少しずつ食べてください。

また、水の計算式は『行動時間×体重×5ml』で、だいたい1日に1~2L必要になってきます。水も休憩のときにガブガブ飲むのではなく、ハイドレーションなどをうまく使い行動中に少しずつ飲むのが理想です。」(清水さん)

※シャリ=飯が足りずにバテること。きちんとした食べ物をとらないで激しいエネルギー消費を行うと、血糖値が下がり、急にひどい空腹感に襲われて全身に力が入らなくなり、動けなくなってしまいます。 これをシャリバテ(ハンガーノック)と言います。

知っておきたい山登りの基本マナーとは?

初めて挑戦する山登り。気持ち良く楽しむためにも、登山のマナーも知っておきたいところです。

例えば「山は登り優先」という言葉を聞いたことがある人も多いかと思います。では、なぜ「登り優先」なのでしょうか。

「山でよく言われるのは、“登りは体力、下りは技術”。下りは技術が必要なので、下りの人を急かすとケガのリスクが高まるんです。登りはゆっくりなので、そこまで技術は必要ありません。

『山は登り優先』なのは、下りの人をしっかり安全に下らせるための言葉なんです。つまり絶対に『山は登り優先』というわけではなく双方の気持ちになって双方の安全を確保、確認し譲り合うことが重要なマナーなんです。

山でやってはいけないのは、命を捨ててはいけない、ゴミを捨ててはいけない、あと転んではいけない。転ぶとケガをするリスクが非常に高いので、それに伴った歩き方が重要なんです。」(清水さん)

エージャケット(A Jacket)

また、山登りではすれ違う人と挨拶をするシーンをよく見かけます。これにも意味があるそうです。

「登山中、ほかの人とすれ違うときは挨拶を交わすのがマナーです。気持ち良く楽しむために挨拶するのはもちろんですが、これはそもそも、山で何かあったときに備えて、お互い顔を覚えておくためのもの。万が一遭難者が出た場合、目撃証言になる可能性があるからなんです。

あともう一つ、子どもと山登りをするときの話ですが、子どもにとって山で挨拶されることはとても貴重な経験になるそうです。街で知らない大人から挨拶されるケースはほぼありませんが、子どものときにそういう経験をしておくと、挨拶することが自然と身に付き、大人になってから役立つと言われています。」(清水さん)

初心者でも富士登山に挑戦できる?

これから山登りを始めるにあたって、富士登山を目標にしている人も多いのではないでしょうか。これから7月に富士山も山開きしますが、いきなり富士山に登るのはやはり危険?

「天気などの条件が良くて、体力もある人なら行けないことはないんですよ。しかし日本一高い山ですし、5合目と山頂の気温差もかなりあるので、そういったことを知っておかないと痛い目に遭ったり、場合によっては亡くなるケースもあります。

それを考えると、まずは日帰りの山から始めるのがおすすめです。4月から日帰りの山登りをスタートして、月に1回は長い歩きを経験する。例えば、関東であれば雲取山などで小屋泊まりも経験し、それから富士山に行くのが一番良いかなと思います。そのうち必要な装備も分かってくると思うので。」(清水さん)

条件さえ整えば、初心者でも富士登山は可能。しかし、これまで紹介したように、山登りはリスクマネジメントが最重要。無理なく安心・安全に登山を楽しむためには、まずは低山で経験を積み、装備品を整え、しっかりとした登山計画を練ることが大切です。

清水さんが話すように、この事前準備も山登りの楽しみの一つ。目標に向かって一歩ずつ、自分だけの山頂を目指してみてください。