「マスク外せない」職業ドライバー襲う熱中症リスク 猛暑でも外すことを許さない“圧力”
例年よりも早く猛暑日を記録するなか、マスクが熱中症のリスクを高めています。関係省庁も熱中症対策を目的にマスク不要を呼び掛けているものの、運転中の職業ドライバーはもちろん、白バイの警察官すらマスク着用の状況。なぜでしょうか。
「距離」と「会話」が着脱の目安だが...
例年より早く猛暑がやってくる予想を受けて、関係省庁は熱中症対策としてマスク不要の呼びかけを強めています。1人で運転、もうマスクしなくてもいいはずです。
マスクをつけたトラックドライバーのイメージ(画像:写真AC)。
気象庁は2022年7〜9月の平均気温について、「北・東・西日本で平年より高い確率が50%」と発表しました。厚生労働省はマスク着用による熱中症リスクが高まることを訴えています。
マスク着脱を見極める基準は次の2つと、厚生労働省は定めています。
・距離=目安2mの確保
・会話=ほとんどしない
屋外、屋内に関わらず、この2つの基準が満たされている場合は、マスクをする必要がありません。
ただ、物流、旅客など交通インフラの関係者は、マスクを外している人はほとんどいません。直射日光が照り返す屋外作業でも、1人で運転するドライバーでも、マスクが外せない理由があります。
宅配ドライバーは、置かれている現状をこう話します。
「感染症対策でのマスク着用義務がそのまま続いている。冷感グッズや塩飴の配布はあるが、基本的にはマスク。しなくてもいい目安が会社的に明確ではない。少ないが配達中に熱中症で倒れる人もいる」
止められないマスク着用習慣
マスクをする習慣が招く熱中症に危機感を抱き、環境省は気象庁と連携して、暑さ指数(WBGT)の活用や、暑さ指数を基本とした「熱中症アラート」に注目し、熱中症対策の強化を改めて呼びかけています。
暑さ指数(WBGT)は通常の気温に加えて、湿度に影響される湿球温度や、日差し・照り返しに影響される黒急温度の測定結果を加味し、数値化して危険度を示しています。
環境省のホームページでは全国約840か所の測定データをもとに暑さ指数マップを公開。警戒を要する「熱中症警戒アラート」を環境省LINEでも発信しています。
6月25日、梅雨なのに猛暑の本州では茨城や埼玉などで、梅雨のあけた沖縄でもWBGT30(厳重警戒)を示す熱中症警戒アラートが出ています。
働く人の環境から熱中症対策を呼び掛けるのは、厚労省労働衛生課です。暑さ指数の段階は日常生活、スポーツなど生活シーンに合わせたランクがありますが、同課は労働者向けに暑さ指数における指針を出しています。それによるとWBGTが31以上で危険域。WBGT33以上では、身体に負荷のかかる作業をしない「安静」とされています。猛暑の暑さ対策は、命を守る対策です。
匿名の厳しい目が圧力になる?
暑さに慣れる「暑熱順化」が進まない状態ほどリスクは高くなります。今年5月、6月に全国の小中学校、高校のスポーツ時に発生した熱中症が疑われる救急搬送は、暑さ指数でいえば20〜26で、そのほとんどが注意レベルでしたが、症状はマスク着用で起きたと報道されています。
熱中症と見られる救急搬送は年間5〜7万人、その多くが「梅雨明け直後の7月後半に多い」(環境省環境安全室)というので、今すぐの対策が必要です。
振り返って、物流、旅客など交通インフラに携わる人向けのマスク着用が変わらないのはなぜでしょうか。ある契約配達員はこう話します。
「対面でマスクをしていなければアウト。運転中でも〇〇(ドライバー名)はマスクをしていない、と苦情が入ったら個人的に注意。それが何度も続いたら、委託契約が打ち切られるほどの問題になりかねない」
前出の厚労省労働衛生課は、熱中症予防対策の観点から、職業ドライバーなどのマスク着用について、こう話します。
「まずは日常生活と同じように車内でもエアコンを使い予防してもらうこと。屋外では会話の有無に関わらず、目安2mの距離が確保できていれば、マスクの必要はありません。もちろん車内に運転者だけでも同じです」
熱中症による死亡者は、2018年から2021年までの3年連続で1000人を超えています。その約80%は65歳以上ですが、高齢者に限定されたことではありません。公衆衛生向上のために地域保健対策を担当する厚労省地域保健室も「会話のないシーンや、人のいないところで、わざわざマスクをする必要はない。感染症対策に重点を置いているが、熱中症対策も大事。そのための行動もしていただきたい」と、言います。
しかし実際は、郵便配達や白バイでもマスクを着用している警察官を見かけるほど、マスクは外せない状況です。社会の受容と共感が求められています。