※この記事は2022年03月31日にBLOGOSで公開されたものです

この3月一杯でBLOGOSのページ更新が終了するという話をうかがい、一抹の寂しさを感じております。

BLOGOSとのお付き合いは、2011年11月に当時頻繁に更新していた拙ブログからの転載ご依頼という形で始まっていますので、足掛け10年とちょっと。2015年にブログを実質休止した関係で、しばらく掲載が途切れたことがありましたが、その後2018年からは寄稿という形で、月2本ペースで主に企業ネタを書かせていただいてまいりました。

まずは何より、10年超の長きにわたり拙原稿を取り扱っていただきましたBLOGOS編集部様に対し感謝の念に堪えません。御礼申し上げます。

過去10年間で象徴的だったソニーと東芝の明暗

せっかくの機会ですので企業ネタということに関してこの10年を振り返ってみますと、日本を代表する名門企業(個人的には昭和企業と呼んでいますので、以下昭和企業)の浮き沈みに、大きな動きがありました。

中でも象徴的と言えるのはソニーと東芝です。この両社に関しては原稿でも何度となく取り上げさせていただきましたが、ここまでハッキリと明暗分かれる流れになったのは10年前には思いもよらぬことでした。

ソニーの10年前は、長引くソニーショックの後遺症からようやく少し立ち直りかけたところをリーマンショックに見舞われ、外資への身売りさえも語られるような状況にありました。

しかしその後、一部主力事業の売却と後発のエンタメ、金融を稼ぎ頭に位置付けたグループ内シナジーを生ませるリストラクチャリング(事業再編)が功を奏し、2022年の今また再び大きく輝く状況に至っています。

最新のニュースでは、EV開発においてホンダとの全面提携も発表され、日本を代表する企業として今後一層の発展に期待感が募る現況です。

一方で10年前のリーマン苦境から、さらなる負の状況への転落を余儀なくされたのが東芝です。東芝はリーマンショックでの大きなダメージからの復活を不正会計で乗り切ろうとした誤った経営の舵取りから、さらなる苦境に陥ります。

東証二部への降格からファンドの力も借りつつ一部への復帰は果たしたものの、今度は物言う株主との対立から、株主総会運営で一部株主の議決権行使に圧力をかけるなどのさらなるガバナンス不全が噴出。不正会計発覚以降、トップが入れ替わりを続けながらも未だ先行き不透明な状況にあります。

リーマンショックからの復活軌道模索、企業に求められる一層のガバナンス強化、ESGおよびSDGs対応、そしてコロナ禍…。

この10年、人間でいえば老齢期に入った社歴50年を超える昭和企業にとっては、自らの成長期であった昭和の時代から経営環境が大きく変革を遂げ、いよいよ本気の転換をしなければ退場を求められかねない時代へ移行した10年でもありました。

それは同時に、昭和企業経営にとって時代の要請を真摯に受け止めて対応ができたか否かが問われた10年でもあったわけで、ソニーと東芝はまさにそれを象徴するかの如く明暗両極に再配置されたと言えます。

苦境の時こそ重要になる企業風土のポジティブな側面

どの組織風土にも、必ず良い部分と悪い部分が存在します。組織風土は長年の蓄積のなせる業でもあり、長い社歴を持つ昭和企業にとってそれを一朝一夕に変えるのは至難の業でもあります。

ならばトップは、その良い部分も悪い部分も理解した上でいかに良い部分を活かして企業を発展させられるのか、苦境時にはその悪い部分をいかに抑えることができるのか、あるべき組織マネジメントはそこにあると見せつけられたこの10年でした。

ソニーの場合、組織風土の悪い部分と組した過去の経営者の負の遺産の清算に長い時間とコストを費やしながらも、ここ二代のトップが悪しき風土を封印しソニーイズムと言われる創業来の組織風土の良い部分に再び陽をあて、大復活を遂げることに成功しています。

一方で東芝は窮地からの脱却策に取り組むも、その都度トップが悪しき風土に立脚したやり方から脱することができず失敗を繰り返してしまったのです。

一例としてソニーと東芝の比較対照をあげましたが、この10年は大手自動車各社や部品メーカー大手、さらには三菱電機などでのデータ改ざん不祥事も相次ぎ、様々な企業報道から同じように昭和企業が持つ組織風土の重さを感じさせられることの多い10年でありました。

私の専門領域では未だ止まぬみずほ銀行のシステムトラブル問題も、本を正せば三行合併による20年に及ぶ三者均衡重視の組織風土に起因したものであり、ここにも令和に乗り遅れた昭和企業の悪しき組織風土が見えると思わされることしきりです。

次々と課題が押し寄せる昭和企業の行方に今後も注目

今企業を取り囲む経営環境を見渡せば、昭和には考えも及ばなかった課題が次々と企業マネジメントに突きつけられています。

例えば、社外取締役による後任トップ選びの定着化、物言う株主が様々な形で外部から経営改善要求を突きつけることの経常化、さらには敵対的M&Aが国内でも違和感なく仕掛けられるようになったこと等々。

このような中で、我々世代が長年共に生きてきた昭和企業たちがどのようにしてそのシルバー人生を全うしていくのか、はたまた生まれ変わることになるのか。同じく高度成長を生きてきた企業問題の書き手としては、まだまだ追いかけなくてはいけないテーマがたくさんあると思っています。

BLOGOSでの新規投稿は本稿で終了しますが、これまで10年間BLOGOSの場をお借りして様々な切り口で企業ネタ原稿を書かせていただいた貴重な経験を財産として、引き続き執筆活動を続けていきたいと思っております。

10年間お付き合いいただきましたBLOGOS読者の皆様、後藤様はじめBLOGOS編集部の皆様に、心からの感謝の意を表しつつBLOGOS原稿の締めとさせていただきます。長い間本当にありがとうございました。