まんだらけ擁護の声が招いた?サブカルの聖地で起きたバッドエンド - 赤木智弘
※この記事は2021年10月29日にBLOGOSで公開されたものです
10月22日、警視庁はアダルトショップを禁じられた地域で営業したとして、マンガやグッズなどを扱う古書店「まんだらけ」を運営する法人とその役員男性を風俗営業法違反の疑いで書類送検した。(*1)(*2)
この一報を聞いたとき「ああ、こういう形で決着になるのか」と少し複雑な気持ちになった。個人的にはもう少し穏当な形で終わって欲しかったのだが……。
サブカルの聖地にオープンした「禁書房」
実はこの問題、8月下旬から一部界隈で騒がれていた。
発端は、まんだらけが東京都中野区にある「サブカルの聖地」とも呼ばれる中野ブロードウェイの4階に「禁書房」という、昭和のアダルトメディアを中心に取り扱うショップをオープンさせたことだった。
禁書房では、胸などを隠した形ではあったが、通路に面したショーケースにアダルトメディアを掲示していた。また目隠しがなく通路からも中が見える状態だった。
これに対して、禁書房の向かいでファンシーショップを営業していた「Spank!」が、Twitterで「10代の女の子や家族連れなどに通ってもらっている」として、真正面にアダルトメディアを扱う禁書房がオープンしたことを問題視するツイートを行ったのである。(*3)
このツイートを「友人の店の話」として、エヴァンゲリオンの碇シンジ役などとして知られる声優の緒方恵美氏が紹介した(*4)ことで、一気に問題が多くの人たちに認知されることになった。
必要なのは「ゾーニング」だった?
Spank!側が一貫して求めていたのは「ゾーニング」であったと僕は考えている。
まんだらけは中野ブロードウェイ内に多くの店舗を持ち、いわばまんだらけ王国と言っても差し支えないほどである。そうした店舗の一区画としてアダルトメディアを扱えば問題ないのに、どうしてわざわざ10代を含む若い女性客の多いショップの目の前にアダルトショップをオープンさせたのかと問うている。
Spank!のツイートでは、まんだらけに「なぜこの場所なのか?」と問うたところ「ここしか空いている場所がなかった」という返答が得られたとしているが、中野ブロードウェイ内に店舗を構えるまんだらけの全体面積を考えれば、他の場所に昭和アダルトコーナーを設置することは、それほど難しいことであるとは思えない。
ところがこの問題が厄介だったのは、緒方恵美氏のツイートを通してこの問題を知った人の一部が「女性向けのショップが、まんだらけの営業を妨害しようとしている!」と認識してしまったことである。
彼らは店や緒方氏に対して「目障りだから店を出すなってことですか!?」「自分の影響力を駆使して店(まんだらけ)をネットリンチする方向に誘導しようとしている」など、さも対立を煽っているかのような批判を送った。
店や緒方氏を直接的に批判しない人たちも「中野ブロードウェイはまんだらけの天下なんだから、女性向けの店の方が場違いだ」「中野ブロードウェイはアダルトショップも許される場所」などとして、まんだらけを擁護した。
4度の警告に対応せず 背景には擁護の声?
中野ブロードウェイは確かにまんだらけを初めとするアニメグッズのショップが多いことが知られているが、1階や地下階はスーパーやドラッグストアなどがあり、通常のショッピングセンターとして機能しているなど、マニア以外の利用も多い。
また2階以上でも喫茶店や高級時計店、テクノやニューウェーブを中心に扱う音楽ショップなどといった、アニメ以外の趣味の店も多い。4階にあるSpank!もかわいい系統のハンドメイドやビンテージを扱うサブカルファッション系ショップである。
こうしたことから、中野ブロードウェイは決してマンガアニメ系ばかりを扱う商業施設ではないし、かつSpank!が中野ブロードウェイに店舗を構えていることも、決して場違いなどではないと言えるのである。
その後、話題が忘れられつつあった10月22日に警視庁が禁書房を風俗営業法違反疑いで書類送検することになったのである。
報道によれば、まんだらけ側は禁書房を「まんだらけ中野店の一部」として認識していたようだが、警察は「禁書房は1つの店舗」、風俗営業法に規定される性風俗特殊営業の5号営業店舗と見なしたようである。(*1) 警察は計4回の指導をまんだらけに行ったものの、従わなかったために9月14日、店内のアダルトDVD等を押収して捜査をしていた。(*2)
問題が話題になり、警察が押収に動くまでの間、まんだらけがこの問題をどのように考えていたのかは分からない。しかし、ネット上で叫ばれた、まんだらけを擁護する多くの声が「警察の指導に従わない」というまんだらけの強硬な態度を生んだとすれば、擁護の声は結局はまんだらけに仇をなしてしまったと言えるだろう。
必要なのは、配慮を求める声だった
東京の繁華街には、アダルトメディアを扱っているショップも少なくない。
しかし、通常そうした店は道に面したところにアダルトメディアを掲示せず、一見しただけでは「うちは雑貨やアイドルDVDを扱う店ですよ」といった風に振る舞っている。その上で、アダルトメディアは店の奥の方で扱っているというのがお約束である。
禁書房では胸を隠してあるとはいえ、アダルト商品をショーケースに入れ、通路に向けて陳列していた。これでは周囲の店舗への配慮を欠いていたと言われても仕方がないだろう。
そうした配慮のなさが問題を生み、その声が警察に届いて、風俗営業法違反の疑いという形で取り締まられてしまった。これはまんだらけ側にとってはもちろん、話し合いと適切なゾーニングでの解決を望んだSpank!側にとってもバッドエンドと言えるだろう。
もし、もう少しまんだらけを擁護する言葉ではなく、まんだらけに配慮を求める言葉の方が多ければ、まんだらけも強硬に禁書房の営業をそのままの形態で続けず、警察の指導に従い、適切なゾーニングを実施したかもしれない。もしそれが実現すれば、こうしたバッドエンドにはならずに共存の道もあったのではないだろうか。
そう考えると、僕はとても複雑な気持ちになってしまうのである。
*1:AV店、禁止地域で営業容疑 「まんだらけ」書類送検 警視庁(朝日新聞デジタル)https://digital.asahi.com/articles/DA3S15085728.html
*2:禁止区域でアダルト商品販売 中野ブロードウェイの「まんだらけ」を書類送検(産経ニュース)https://www.sankei.com/article/20211022-VZ44QFECPBOXBO7IIUAV5T7IUM/
*3:「大切なお知らせ コロナ禍でも日々営業がんばってましたが、まさか、コロナと全く関係ない事で店を閉める事になるかもしれません。 Spank!向かいにアダルトDVD店がオープンしました。幅1m95cmの細い通路を挟んだ真正面です。 当店としましては、営業を続けるのは大変厳しい状況です #中野ブロードウェイ」(Spank! Twitter)https://twitter.com/Spank_love/status/1431468296222564353
*4:「友人のお店です。 皆様はどう思われますか。 #中野ブロードウェイ #中野区 #ゾーニング」(緒方恵美 Twitter)https://twitter.com/Megumi_Ogata/status/1431564512897888257