※この記事は2017年11月03日にBLOGOSで公開されたものです

「日本最大級の海賊リーチサイト」と言われる「はるか夢の址(あと)」が摘発された。容疑は、権利者に無断でサイトを通じて人気漫画を公開した「著作権法違反」。サイト運営者の他にアップロード者も含め9人が逮捕された。

「リーチサイト」と言うのは、インターネット上で漫画や書籍を権利者に無断で公開するサイトのことだが、事件は大阪府警や福岡県警を始め埼玉、千葉、神奈川、新潟、岡山、香川、愛媛の9府県警合同捜査本部によって捜査され、「はるか夢の址」を巡っては今夏7月19日に関係先の家宅捜索が行われていた(サイトは、その時点で閉鎖された)。

「今回は容疑者9名の逮捕となりましたが、今後もその他の被疑者立件に向けての捜査を継続していく」(捜査関係者)
事件は、さらに拡大していきそうな気配だ。

「はるか夢の址」には「名探偵コナン」や「ワンピース」など、あらゆる人気漫画や雑誌が違法にスキャンされ電子データ化して「サーバーロッカー」と言われるファイル保存サービスにアップロードされていた。その管理者は「紅籍会」と言われる組織で「実際には同会のメンバーを含めサイトへの関与者は相当数にのぼっている」。

捜査関係者は言う。
「〝紅籍会〟の中心人物は元大学院生(22)でした。サイトは海外のサーバーを使うなど巧妙。しかも、接続元の特定を困難にする〝トーア〟というソフトを使い、投稿者にも、このソフトを使うように求めていたようです。運営方法は、サイトの利用料の半額が、紹介料としてはるか側に渡って、投稿者には競争させながら内容の充実を図っていました」。

元院生は、今回の事件発覚で退学処分になったそうだが、彼らのやり口は半端じゃなかった。

それは「他のサイトの利用者も取り込んで勢力を拡大していました」と捜査関係者も呆れるほどで、その手法は、競合するリーチサイト管理者に対して共同運営や合併を要求することから始まり、聞き入れなければ相手のサイトに大量のデータを送信してサーバーをパンクさせる「DDoS攻撃」まで行なっていたと言う。まさにヤクザ的に勢力拡大を図っていた。競合するサイトの中には閉鎖に追い込まれたところもあったそうだ。

もっとも、この種の案件は運営者を特定することが難しいのも確か。しかも、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)によると「サイト内で海賊版を直接読めるわけではないので摘発も困難」とも。因みに「はるか夢の址」は、投稿者の会員が3000人以上いて、毎月平均で2万件を超える投稿があったと言われる。閲覧者数は1400万人で300万回を超えるダウンロードがあったそうだ。

ただ、公開サイトは無料でも有料会員も募集していたり、当然、サイトへの広告収入も含めると相当額が入っていたとみられる。その一方、会員に対しては1回ダウンロードすると1円の報酬が支払われるシステムになっていて、投稿数や獲得ダウンロード数に応じて8段階の格付けを設けていたそうだ。こういったシステムが会員のモチベーションを高め「競うように人気作品を投稿させていった」。

ACCSの調査によると「漫画については直近1年間(平成28年7月から平成29年6月)、同サイトを通じてダウンロードされたと推定されるデータをもとに算定した被害額は約731億円にのぼります」とし、その上で「このように極めて悪質な著作権侵害行為は到底看過できるものではない」。

今回は、押収したパソコンや携帯電話の記録などを解析するなど地道な捜査で解明してきたというだけに、
「侵害行為者に対する逮捕が行われたことは出版業界ならびにコンテンツ業界において、著作物の適正流通の点でも大きな進展であると受け止めています。ACCSでは複数のサイトについても把握・確認しており、今後も悪質な著作権侵害行為に対しては断固たる措置を講じるとともに、著作物の適切な利用のための普及啓発活動を通じて、著作権が尊重される社会の実現に向けて活動を進めていきたい」としていた。

ちなみに、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館、スクウェア・エニックス、白泉社の6社は、「はるか夢の址」の摘発に、
「著者が心血を注いで作り上げた出版コンテンツを預かる出版社として、悪質サイトを通じて多数の作品が無断配信されていた事実は絶対に看過することができない。そういった意味でも容疑者らの逮捕に至ったことはひとまず安堵している」という一方で「残念ながら本件類似の著作権侵害行為は依然多く行われているのが実情。

同種サイトへの対策をより効果的に実施するためにも、今後の捜査を通じて、違法ファイルが組織的にやり取りされる仕組み・収益構造といった全容が解明されることを強く期待している。侵害行為者らに対しては刑事告訴など断固たる姿勢で対応していく」
と共同コメントを表明した。

こういった違法サイトは映像、音楽も含め年々増え続けている。イタチごっこを続けているのが現実だ。そういった意味でも今後は啓蒙運動はもちろんだが、取締りはさらに強化していかなければならないだろう。