「3時間続けて眠れない」重度の障がいを持った子どもを介護する家族に休息の場を 障害者一時預かり施設うりずんが目指す”普通に暮らせる社会” - BLOGOS編集部PR企画

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※この記事は2017年10月25日にBLOGOSで公開されたものです

「レスパイトケア」という言葉をご存知だろうか。

respite(小休止)care=ケアをレスパイトする、介護の小休止という意味だ。

恥ずかしながら私は今回の取材をするまで、耳にしたことも目にしたこともない言葉だった。

やってきたのは栃木県宇都宮市にある認定NPO法人「うりずん」。重い障がいを抱えた子どもたちの日中一時預かり支援をしているレスパイトケア施設である。

重い障がいを抱えた子どもたちには24時間体制での介護が必要で、主に母親がその介護の担い手となっている。人工呼吸器のケアや痰の吸引作業などで、夜も3時間以上続けて睡眠をとることが難しいという。例えが難しいが、夜泣きで授乳を繰り返すあの時期がずっと続くような状況ということか。

そんな家族が介護から離れ、一休みする時間を作る場所、うりずんを取材した。【撮影・執筆:田野幸伸(BLOGOS編集部)】

介護する家族を支えたい

JR宇都宮駅から車で30分ほど、宇都宮動物園の少し先にあるうりずんには理事長の郄橋昭彦医師が院長のひばりクリニックも併設されている。郄橋院長は重症心身障がい児者や医療的ケアが必要な子ども等への医療的な貢献が評価され、第4回赤ひげ大賞も受賞している人物だ。

うりずん事務局長の我妻英司さんに話を聞いた。

うりずんは来年で設立10年。在宅医療に力を入れていた郄橋院長が、「たけるくん」という重度の障がいを持った少年と出会ったことから始まった。

介護の担い手はお母さんが中心で、24時間かかりきりでたけるくんをケアしていた。たけるくんは人工呼吸器をつけているので、何かある度に夜中でもアラームが鳴って起こされ、機器の調整をしなければいけない。痰の吸引も定期的にあり、重度の障がい児を抱えたほとんどのご家族は3時間以上続けて寝られない状況に置かれている。

郄橋院長が診察で訪れたある日のこと。いつものお母さんの姿が見えない。どうしたのか尋ねてみると、体調を崩して寝込んでいるとのこと。

その日はお父さんが応対してくれたが、たけるくんのようなご家庭では介護の担い手のお母さんが倒れてしまうと、お父さんが会社を休んで介護しなければならないということに気がついた。

厳しい状況を目の当たりにし、これは何とか支援できないかと、たけるくんを自分のやっていた「ひばりクリニック」で日中預かりすることを提案。

公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団から資金援助してもらい、プロジェクトチームを設立。研究事業ということでたけるくんを土曜日にクリニックの和室で預かることが始まった。

今まで障がいを持つ子どもを一時的に預かっていたのは大きい病院だけだったが、個人の小さな診療所でも、人工呼吸器をつけている重度の障がいもったお子さんを預かる事は可能であるということが証明されたのである。

一番の問題は採算性

問題も見えてきた。たけるくんを一日預かった場合の診療報酬は約1,500円。

たけるくんを預かるには常勤の看護師と介護職員が必要で、その人件費が最低でも1日2万円かかってしまう。

これはどうやっても採算が取れない。どうりで誰もこの事業をやらないわけだということが分かった。

しばらくして、郄橋院長の活動を知っていた宇都宮市の障がい福祉課から連絡があった。

宇都宮市でも重度心身障がい者の支援を考えており、医療的ケアの必要な方はその重症度によって報酬を上乗せする制度を作ると言ってくれたのだ。

人工呼吸器を受けた子どもを預かった場合は8時間以上で一日2万4,000円。もう少し軽度な経管栄養、たんの吸引などの医療的ケアが必要な子どもだと1万5,000円を補助するいう、重症障がい児者医療的ケア支援事業制度を市が独自に制定したのだ。

これなら3年ぐらいで黒字経営ができるかもと思ったが…そうはいかなかった。

今もうりずんは事業収入だけでは赤字である。

なぜなら補助金は子どもを実際に預からないと支払われない。すなわちキャンセルになると収入は入ってこないのだ。

障がいを持った子どもたちは、体調の変化が激しく、急に入院になったり、体調が悪くて家からうりずんまでの移動に耐えられないということがたびたびある。

子どもたちには手厚いケアが必要なため、予約の時点で介護士をマンツーマンで人員配置している。キャンセルが起きても人件費は支払わなければならない。

1年を通してキャンセルが2割から3割発生するということがわかった。

毎年の赤字はひばりクリニックの収益からお金を回してしのいでいたが、これでは事業として続かない。そこでNPO法人に切り替え、広く社会に資金援助を求めようということになった。2012年のことだ。

幸いに支援者も多くあつまり、会費と寄付でここ数年はなんとか黒字になっているそうだが、本来は制度として赤字にならない仕組みが必要で、キャンセルを見込んだ制度設計が求められるのではないだろうか。

現在うりずんでは日中一時預かりのほか、放課後等デイサービスや児童発達支援、自宅へ訪問しサポートする居宅訪問型保育や居宅介護、移動支援など、重い障がいをもつ子どもと家族のサポートを様々な角度から行っている。

重度の障がいを持って生まれたお子さんのいる家庭では、「2人目」を諦めなければならないというケースも多かったが、たけるくんのご家庭では、日中一時支援のおかげで、2人目を授かることができたそうだ。

まるで保育園のような明るい施設

2016年3月に完成した新施設は広く明るい。建設費用の8割は日本財団の助成によるもので、歯科医師によるチャリティ活動「TOOTH FAIRYトゥース フェアリー(歯の妖精)」プロジェクト(公益社団法人日本歯科医師会協賛)に寄せられた歯科撤去金属(金・パラジウムなど)のリサイクルで得た寄付金が活用されている。使わなくなった入れ歯や金歯がこんな形で人助けに使われているとは驚きである。

パッと見は普通の保育園とかわらないほど。

重い障がいを持った子どもたちは家から出る機会が限られていたが、ここでは病院ではフォローしきれない療育や子どもの育ちの支援も行われている。

子どもと遊ぶ職員。酸素タンク等を常備していること以外は、本当に保育園見学に来たかのような風景だった。

9月9日(土)そんなうりずんで「ふれあいまつり」が行われた。テーマは「きみといっしょに」。地域といっしょに暮らしていく、そんな思いが込められている。

ふれあいまつりには多くの人が訪れ、障がいを持った子どもたちも秋の一日を楽しんでした。

偏見のない社会は子どものうちから

「ふれあいまつり」などの機会を通して、障がいを持った子どもたちが近所にいるのはわかった、家族の苦労も知った。ではその次に我々は「いっしょに」社会の一員として暮らしていくのに何が必要なのだろうか。

我妻さんはこう答えてくれた。

「1番の夢は子どもたちが小さい頃から、障がいを持っている子も、健常な子も一緒に学ぶ社会になることです。偏見をなくすといってもある程度大人になってからだとなかなか難しいものがあります。

子どもの頃から身の回りに障がいを持った友達がいれば、大人になってもそれが「普通」になる。普通になれば偏見が生まれなくなると思うんです。

今の社会は障がいを持っている人たちを施設で囲ってしまう側面がありますが、できるだけ外へ出ていき、社会の構成メンバーの一員として存在をわかってもらうことが大切です。

それこそ相模原で障がい者施設殺傷事件があり、あの事件の後に行政から防犯を強化しろといろいろな指導があったんです。でもそれは個人的には正しいと思っていません。

地域社会との交流が少なかったからこそ、あんな悲劇が起きたのではないでしょうか。

うりずんの理念は『障がいのある人もない人も、共に助け合える社会の実現』。

だからここには塀も柵もないんです。

子供の頃から健常者と障がい者が一緒にいるのが当たり前という社会だったら、相模原の事件はおこらなかったかもしれないですよね」。

そして最後に我妻さんはこう語る。

「ここで働いていると子供たちの笑顔に癒されるんです。健常なお子さんたちの笑顔も可愛いんだけれども、障がいをお持ちのお子さんが一緒にニコっなんて笑ってくれると、ものすごく可愛いんです。宝物をもらっちゃったみたいな気持ちになって、一日気分が良かったりする。

重度の障がいを持った子たちからエネルギーの素みたいなもの僕はもらっているし、彼らはそんな力を持っていると思うのです」。

日本財団 難病児支援「難病の子どもと家族を支えるプログラム」
小児医療の進歩はめざましく、小児がんや、染色体異常に伴う病気などにより、これまで長く生きることができなかった子どもたちが家族で過ごせる時間が増えています。
一方で、命を脅かす病気と共に暮らすことは、家族に厳しい緊張を強い、特に自宅でのケアの負担は非常に大きく、地域から孤立してしまいがちです。
日本財団は、全国に生活サポート拠点を立ち上げ、子どもたち一人ひとりにあわせた経験と成長の場を増やすための「難病の子どもと家族を支えるプログラム」を行っています。

・日本財団 難病児支援「難病の子どもと家族を支えるプログラム」