ボランティアはブラック労働ではない - 赤木智弘

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※この記事は2017年07月30日にBLOGOSで公開されたものです

2020年に迫った東京五輪が様々な波紋を呼んでいる。

誘致計画当時に副都知事であった猪瀬直樹氏はTwitterで「世界一カネのかからない五輪」(*1)であると主張していたが、実際には新国立を始めとする多くの競技場や関連施設で大きなカネが動いていることは、もはや隠し通せなくなった。

ゼネコンにはガンガンとカネを流すその一方で、本来であれば専門職である通訳を始めとする9万人以上のボランティアの活用(*2)を推し進めるなど、ゼネコン以外のところに対するカネは一銭でも抑えようと必死な様子である。

そうした中で、五輪組織委員会が地方公共団体に対して「木材の提供」を無償で募集していることが、注目されている。

「日本の木材活用リレー ~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~」(*3)と題されたこのプロジェクトは、地方公共団体に対して、木材の提供と、1、2次加工。そして建設現場への運搬。さらに大会終了後に解体した木材の撤去を無償でお願いするものである。

そうして返却された木材は、地方で「レガシー」として活用してくれと。そういうことらしい。

これがなんで批判されているかと言えば、どう考えても木材を提供する側にメリットがなさすぎるところだろう。本来であれば当然、売り物である木材やその加工技術を「五輪だから」とタダで買い叩かれるのはおかしな話である。

また、その話に触発されたのか、東京都教育委員会が五輪に小中高校生をボランティアとして活用するということもTwitterで盛り上がっていた。

この話自体は、2015年に取りまとめられた内容(*4)であり、全ての子供が大会に関わり、オリンピックやパラリンピックについての知識や経験を得ることを目的としている。

これについても、学徒出陣などと批判する人がいて、五輪に関する安直なボランティア利用に対する反発の声が高まっている。

さて、これらを踏まえての僕の意見だが、どうもネット上でのボランティア批判は行き過ぎている感がある。ボランティアということの左翼臭さや、無償労働という搾取感、そしてボランティアに勤しむ人間の自己顕示欲が嫌なのだろうか?

しかしボランティアも扱い方を間違えなければ、他人の役に立つことはもちろん、ボランティア自身のメリットにもなりうる。

たとえば、通訳とか木材やその加工といった、本来専門職であり、それをすることによってお金が生じるべき事を、ボランティアとして無償で補うというのは、どちらかと言えば悪いボランティアであると言える。

そもそも、各国が五輪を承知するのも、イベント開催による経済効果を期待してのことであり、本来であれば通訳や、選手村建設のための費用も経済効果の一部であるはずだ。しかしそれをボランティアとして無償にしてしまうことにより、経済効果は減ってしまう。これでは本末転倒だ。 その一方で、小中高校生によるボランティアや、また一般の人たちによるボランティアは、本来の学業や仕事では経験できないことを経験するという意味で、良いボランティアである。

特に、子供たちによるボランティアは、そもそも仕事として金銭を受け取るレベルに無いのが当たり前なのだから、そこに金銭が発生するような責任を課すべきではない。むしろボランティアであるほうが正しいといえる。

他にも、大きな震災などが発生したときのボランティア活動に対して「素人が邪魔をするな」と否定する人も多いが、入り口さえ間違えなければ、ちゃんと組織だった活動のもとで被災者の役に立つことができる。

仕事の目的とは、決して金銭を得ることだけではない。

ネット上でのボランティア批判に僕が危機感を感じるのは、さも「お金を十分に貰えるのが、仕事の本質」だと勘違いしている人がいるのではないかという点だ。

我々は仕事によって、金銭以外にも社会的信用や、自尊心を得ている。また仕事で多くの人と知り合ったりすることもできる。仕事に就くというのは、金銭以外にもたくさんのメリットがあることなのだ。だからこそ、みんな必死で働きたがる。

もし、金銭を受け取れる仕事でなければ、働く価値が無いということになると、金銭の受け取れない仕事は全て価値がなくなってしまう。子育てや介護。親戚づきあいや町内会、PTA活動。そうした、私達が生活する上で必要なことが、すべて価値のない仕事であると判断されてしまう。 ボランティアと意識しなくても、私達が生活する上で、無償の仕事はたくさんあり、また私達自身も無償の仕事の世話になっている。ボランティアは何も特別なことではなく、私の身の回りに常に存在しているものなのである。

だからこそ、今回の木材の無償提供といった、本来金銭を得るべき仕事の範疇をボランティアとして要請してしまうようなことを批判するのはいいが、一方で子供が五輪に参加したり、また震災への扶助をしたり、近所で草むしりをするようなことまで含めて、無償労働だ、ブラックだ、搾取だと批判をするのは行き過ぎた、筋の通らない批判である。そう僕は考える。

*1:「誤解する人がいるので言う。2020東京五輪は神宮の国立競技場を改築するがほとんど40年前の五輪施設をそのまま使うので世界一カネのかからない五輪なのです。」(猪瀬直樹 Twitter)https://twitter.com/inosenaoki/status/228871964251537409?lang=ja *2:東京2020大会のボランティア活動(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)https://tokyo2020.jp/jp/get-involved/volunteer/about/ *3:日本の木材活用リレー ~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/village/ *4:東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議最終提言について(東京都教育委員会)http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/2015/pr151221.html