「世界の平和を安定させるには、アジアの安定が必要不可欠」30年に渡り日中友好の架け橋となった日中笹川医学協力プロジェクト調印式 in北京に行ってきた - 田野幸伸
※この記事は2017年02月24日にBLOGOSで公開されたものです
2017年2月17日。PM2.5による大気汚染が深刻な北京にしては珍しく、透き通った青空が広がっていた。
ここは中国の国会議事堂である人民大会堂。日本のネットメディアがおいそれと入れる場所ではない。
様々な方のご協力をいただき、今日ここで行われる日中笹川医学協力プロジェクト第五次調印式を取材にやってきたのだ。
日中笹川医学協力プロジェクトとは日中両国の友好と交流の促進及び、中国の公衆衛生や医学・医療の水準向上のために、1986年から30年に渡り中国から医学・医療分野の人材を、大学病院や研究機関に招聘してきたものである。
のべ2226名の奨学生は、日本の医学技術を学ぶだけではなく、日本の文化や生活様式に理解を深め、多くの友人を作った。帰国後は中国トップレベルの医科大学学長や教授になるなど、奨学生OBの多くが中国医学界をリードする存在となり、中国の医学・医療の発展と日中両国の友好と交流に力を尽くしている。
39年生きてきたが、そんな壮大なプロジェクトが行われていたとはつゆ知らず。実際中国に来てみて、その影響力に驚かされているところである。
2018年から開始される第五次制度においては、よりハイレベルな人材を育成するため、日中双方による共同研究コースと日本の大学で博士号の取得を目指す学位取得コースの2つが実施されるとのことだ。
調印式は、日本財団の尾形武寿理事長、日中医学協会の小川秀興理事長、中国国家衛生・計画生育委員会の崔麗副主任(副大臣)の3名で行われ、在中国日本大使館の横井裕大使も来賓として祝辞を述べた。
◇中国の衛生事業の発展を強く助けた
崔麗:中日両国は隣国であり、交流の歴史も長く、友好条約の締結後、友好関係に努めてきました。
中日笹川医学奨学金制度はすでに30年あまりが経過し、中国の2000人以上の医療従事者が育成され、中国全土で活躍しています。
中国の衛生分野の中で1番分母が大きい国際協力プロジェクトであり、この事業は中国の衛生事業の発展を強く助けました。 プロジェクト関係者に感謝の意を表すとともに、中日友好の発展、医学交流の前進をお祈りいたします。
◇国の関係が悪いときこそ民間交流が大切
尾形:プロジェクトが長年続くというのは双方の国の理解も必要ですが、この事業が両国によって重要である、という点がないと、続かないだろうと思います。
この事業が始まってすぐ、当時の日本財団会長・笹川良一と蠟小平氏の会談が行われました。
「世界の平和を安定させるには、アジアの安定が必要不可欠である」。
アジアの安定のためには日中両国の安定が最も大切であると笹川は説いたわけでございます。
国境を接する2国間というのは、常に色んな問題をはらんでいるもの。
しかし、政治的な環境が良かろうが悪かろうが、私たちは2人の合意に基づいて、この仕事を30年間続けてまいりました。
今、日中関係が良くないと言われていますが、私はそんなに気にしておりません。
むしろ大事なことは、どんな環境に置かれても、民間同士の往来を絶やさず、お互いを「見て」理解するという仕事を計画的にやっていくこと。
国家間の問題を大きくしないで済むような環境を作ることが、我々民間人の役割だと思っております。
この笹川医学奨学金制度の第一弾は1987年から97年の10年間に渡り、1年に100人、10年で1000人の医学生を迎えました。第二次は1998年から2007年の10年で、この時も1000人。
20年で2000人の卒業生を送り出し、次はどうしようかという議論になりました。
中国も十分に経済発展し、我々の援助がなくても、自分たちでできるだろうという意見もありました。
第三次ではやりかたを変え、招聘する人数を100人から30人に減らしました。そして、中国の医学生や医者で、日本のこの医者に学びたい、という人を招聘するかたちにしました。第四次も同じように30人を5年間に渡り招聘しました。
そして2018年からの第五次では日本で学位を取ってもらう、というスキームに変えます。我々はその時々に合わせ、引き続きいい事業に切り替えていきたいと考えております。
プロジェクトが招聘した2,200人余りの卒業生は大学の学長や病院の院長になって活躍しています。半数以上の卒業生が、中国医学界の重要なポジションに着いているということは素晴らしいことだと思います。我々はこのプロジェクトを続けていきます。
日本で研修する医学生の数は減りましたが、中国に残っている奨学生OBが2000人います、その方々が、ネットワークを作り、中国の医学界の技術向上に努力をしてくれることを心からお願いする次第であります。
◇少子高齢化対策は医療分野での協力が重要
横井:私が初めて北京を訪れたのは1980年。まだ改革・開放が始まって間もないころでありました。それから37年が経ち、中国は世界第2位の経済大国になり、世界のGDPの13%を占めるまでになり、目覚ましい発展を遂げました。
中国と日本の関係は世界第2位と第3位の経済力を持つ国と国の関係であり、日中両国はこの新しい時代にふさわしい、相互にとって利益のある新しい関係をしっかりと築いていかなければなりません。
今年は日中国交正常化45周年、来年は日中平和友好条約締結40周年であり、これらを見据え今後様々な分野で関係を発展させていくということで、両国首脳は一致しております。
日本側からは今後両国が協力できる5つの協力分野を提案しており、その一つが少子高齢化の問題です。
日中が共に直面する少子高齢化という問題に対応するためには、医療分野での日中協力が大変重要だと思います。
日本政府としては官民一体で医療分野での日中間の交流や協力を実施していきたいと考えています。
この制度を活用し、中国の医療関係者と日本の医療関係者が活発に交流を進められ、日中両国にとって共に利益となる、様々な取り組みが広がっていくことを、心より期待しております。