「男系だろうが、女系だろうが知ったこっちゃない」生前退位は天皇陛下の願いどおりに~小林よしのり氏インタビュー - BLOGOS編集部
※この記事は2017年02月08日にBLOGOSで公開されたものです
昨年末に発表した「BLOGOS AWARD」で大賞に輝いた漫画家の小林よしのり氏。賞金の贈呈をおこなうと共に、ブログへの想いや執筆スタイルについて話を伺った。今まさに議論が行われている天皇陛下の生前退位や、トランプ大統領についても熱い意見が飛び出した。【田野幸伸(編集部)】
ーBLOGOS AWARD、大賞受賞おめでとうございます。さっそくですが小林先生がブログを始めたのはいつごろのことでしょうか。
小林よしのり(以下小林):「ゴー宣道場」を始めた時に、お知らせなどのホームページが必要になって、ブログを始めたんだったと思う。だから7年前ぐらいになるかな。
ーブログで発信していこう、と思われたきっかけは。
小林:最初は「ゴー宣道場」の人集め感覚で「日常をブログに軽く書いていこう」ぐらいだったんだが、どうしても朝、新聞を読むとムカムカすることがある(笑)。
そのムカムカのはけ口をブログに求めてすぐ書いてしまうみたいな所からかな。作品っていうのは、書いた後に随分待たなきゃいかんわけだよ。
コンテからペン入れが終わるまで2週間ぐらいまであって、そこから発売されるのに2週間ぐらいあって。わしの意見が世に出るのが1ヶ月後みたいな話になってしまう。
そうすると、わしの関心は次に移ってしまっていて、新聞を毎日読んで、怒りの感情が湧くのを鎮められない状態になるので、つい書いてしまうんだな。
ブログは30分以内で書くのがルール
「なんだこれは?」と思ったら、自分の部屋に戻ってきて、タカタカタカッと書く。でもすぐ仕事場に行かなきゃイカンから、絶対30分以内に書くぞという覚悟を決めて、なるべく短い時間で書いてしまうのだ。
そうなると、言葉足らずになる部分も出てきて、誤解されて炎上するようなことも起きてしまうのだが、まあそんなことは知ったこっちゃないと。
ブログは、あんまり客観的に読んでもらうために書くものじゃない。元々「日記」って意味なんだろうから、読む人のことなんて知ったこっちゃないという感じで書いてしまっているよね。
ー小林先生はあまりネットをご覧にならないそうですが、炎上に気がつかないなんてこともあるのでしょうか。
小林:人が教えてくれるんだよ。「今、なんて言われているのか知っているのか?」みたいに。「中国人の観光客がウザい」って書いたら、「随分批判されていますね」とか「そんなに中国人が嫌いなのか」とか言われたりして。
・外国人観光客は目障りだ(http://blogos.com/article/161934/)
「違うんだよ、アレは」って。あれはわしが昔フランスに旅行に行った時に、フランス人は、日本人観光客を差別していて、非常に厳しかったと。
ただそれが非常に教訓になった。やっぱりガヤガヤ団体行動ばっかりして、ブランド物のお店に入っていくこと自体がみっともないということに気がついた。
だからそういう差別的蔑視が、自分の身を振り返らせることができるってことにもなるんだよと。それを「おもてなし、おもてなし」と言って、どんな振る舞いでも全部許容していたら、どこで観光客は教育されるの?
そういうのが常識なんだよと。日本にやってきた外国人観光客の振る舞いがひどかったら、「酷すぎる」と言うのは、本当は常識的なことなんだよってことを言っているわけだよね。
でも、ブログって面倒くさいからそこまで細かく書かないじゃない。そうしたら炎上しちゃうんだよね。
ー執筆時間を30分以内と決めてらっしゃるんですもんね。
小林:だけども、同じように感じている人もいるわけじゃない。外国人観光客が京都の舞妓さんのところに立ち塞がって振る舞いを見ていたり、寿司屋を予約していたのに、平気で当日キャンセルしたり。
そういうので被害に遭っている人は共感するだろうから、まあ、それでいいやって。それを懇切丁寧に書いていったら論文になるからね。ブログではそれは無理だ。
ー非常に短くスピーディーで、継続的にブログを書かれているなということを、編集部としては思っておりました。日々の書き方を聞いて、その秘密が分かりました。
小林:わしはtwitterをやらないからね。twitterはあまりにも短すぎるというのがあるから、面倒くさいっていうのがあるでしょ。くだらないネトウヨが、なんか言ってくるわけでしょ?それを見なきゃいけないなんて、健康に悪い(笑)。
ブログだとそれは無いから。言いっぱなしだから良い。それでいて論文を書く気はないから。だから、日記のように書くのは、ちょうどいいかな。
ブログを書くもう一つの理由は、「眠気覚まし」のため。ずーっと仕事をしていると段々眠くなって、ボンヤリしてくる。
そうするとここどうしようかな~、ここでギャグがいるなーっと思っても、なかなかアイディア浮かばなくなってきてしまう。
そういう時に、気付け薬みたいな感じで「じゃあもうブログ書いてやれ」みたいな(笑)。そうすると、意識がはっきりしてくるんだな。気持ちの切り替わりができるというか。
そこでパパパッと30分以内に書いて、パンってやったら、また目が冴えて仕事に復帰という効果もブログにはある。
ー新聞を読んでムカムカした事以外にも、AKBのことだったりとか、ドラマの感想とか、自由に書かれていますよね。
小林:書くからには「なるべく褒めたい」というポリシーがあって。この前、『君の名は。』が、キネマ旬報のランキングから漏れてしまったら、『君の名は。』のファン達が「バカだ」「アホだ」の言葉ぐらいしか返せなくて、すごく悔しがっているということを聞くと「じゃあかばってやろう」みたいな感じで書く。
それをアップしたらワシのホームページがアクセス過多で繋がらなくなってしまった。「自分の好きな映画を擁護してくれている」という気持ちでみんな見にくるのだろう。
ー少しでも「いいな」と思ったら褒める、というお気持ちがあるんですか?
小林:あるな。もう片方では、今の朝ドラを見て「あまりにも暗くて退屈過ぎるんじゃないの」っていうのも、つい書いてしまう。
なるべくドラマとか役者とかは批判しないようにした方がいい。迂闊に書いていると、向こうがこっちのファンだったりする。
ーなるほど。そうすると、すごいショックですもんね。
小林:何かで会った時に「おぼっちゃまくん好きでした」みたいなことを言われたりして(笑)。なるべくけなしちゃイカンな~という気持ちがある。
天皇陛下の願いどおりにしてあげたい
ー天皇陛下の生前退位を考える上で小林先生の書かれた『天皇論』に再び注目が集まっています。
小林:それもあって2月の終わりぐらいに『天皇論』の改訂版を出す。100ページ以上描き下ろしをやって、本がさらにぶ厚くなってしまったが。
とにかく、もっと世論を動かさなければというのがあるので、改訂版を出すことにした。天皇陛下の「退位したい」というお言葉によって、価値観が全部変わっちゃったんだな。
わしも『天皇論』の中では、「祭司が一番重要」とかって書いていたんだよ。でもやっぱり天皇陛下の今までやってこられたこと、お言葉を聞くと、退位が正しいなと。
宮中に閉じこもって、祭司だけやっていれば、それで天皇の役割が果たせるって話じゃない。公務削減とか、政府は言いよるけど、やっぱり国民と共に寄り添って歩むと言う形を示されたから、我々も尊敬するわけだし。
沖縄に琉歌まで作って、沖縄の人の気持ちを慰め、あるいは震災の被害に遭った人達、身障者の人達、ハンセン病の人達の気持ちを慰めという感じで。
資本主義とか民主主義からあぶれてしまった人達、少数者。そこを天皇陛下が見てくれている。それがものすごく大きく、一番重要なことだった。
なんとか天皇陛下の願いどおりにしてあげたいというのが、わしの一番の考え。こっち側のただの一国民に過ぎない人間が、天皇のお気持ちなんて分かるわけがない。天皇になったことがないのだから。
天皇がどれほどの考えで、今の仕事をやっておられるかっていうこと。「天皇の思うがまま」と言ったって、絶対に踏み外したことは言われない。
自分の自由意志で発言されたのって皇位継承ぐらいでしょ。我々なんかだって、「うちの家の家督は誰に継がせろ」とか勝手に決めてるわけだ。それが決められないのだよ。他人がガタガタ言うんだ。そっちはいけないとか。
「キツくなってきたから退職したい」というと、「ダメだ!死ぬまでやれ」と。どうしてそんな無茶苦茶なことが言えるのか!?自分の家庭を考えてご覧なさいよってことでしょ。
男系だろうが、女系だろうが知ったこっちゃないじゃないか。自分の家は、女の子が継いだ方がいいと思ったら、そうすればいいんじゃないの?
象徴だから、女性活躍の時代が必要だって言うなら、女性天皇にしたっていいじゃないか。だからもう天皇の思うがままにやろうという本を今作っている。衝撃的なことが色々書いてあるからな。
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グローバリズム=善ではない
-トランプ大統領についてもブログによくお書きになっています。
トランプで世界が大変だとみんなが批判してね。グローバリズムが崩れるとか言うんだけど、わしは元々からグローバリズムが嫌いだったので。
「保護主義でいいじゃん」とかって書いちゃうんだよな。常識的にはみんなそれが書けないみたいで。保護主義は悪、グローバリズムが善とされているから、書くのをためらうんだろう。
テレビなんかだと、もっとそこをためらうから、偽善的なことばっかりコメンテーターが言うわけでしょ。ブログとかtwitterとか色んなものがあるのに、ネットの中ですら、同調圧力を感じて本音が言えないというのがある。
だから、わしは「もういいよ、書いちゃう」っていう方向に行っている。トランプが選挙運動中に言っていた冗談のようなことを本当にやり始めちゃったりってなると、みんなの言うことのニュアンスが段々変わってくるんだよな。
例えば、自動車産業のことで無茶苦茶言っていると。トランプは80年代の日米貿易摩擦レベルのことを言っているじゃないかと。
いやいや、今は車の関税ゼロだよと。だから、「トランプは全く間違っている」とみんないうわけじゃない。でも、わしはニュアンスがちょっと違うんだよ。
日米貿易摩擦があって、アメリカで車を破壊し始めて、その後、『戦争論』が90年代になってから出た時、日米貿易摩擦のタイミングでジャパンバッシングをしていた、すごく有名な記者がいたんだ。
これがね、わしにインタビューに来た。『戦争論』がずっとベストセラーになっていた時だな。その時に、「ナショナリズムって言ったら聞こえは悪いけど、わしのナショナリズムは、基本的にパトリオティズムですよ」と説明した。
故郷や共同体を守るために、日本の兵隊は死んだんですよ。「お国を守るとか言っているのは、兵隊達にとってお国は郷土のことで、それはパトリオティズムなんだよ」って言うと、アメリカ人は大体分かるんです。
パトリオティズムだったら良い事だと思っているんですよ。ナショナリズムは悪いことだと思っているのに。本当は同じ意味なのに、そういうニュアンスになっちゃっているんだよね。
その時に向こうが、「日本の自動車がアメリカにドンドン輸出されるから、共同体が壊れていく。職が全部奪われていく。それをどう思うのか?」って言ってきたわけだ。
だからわしは「いい加減にせんといかんよ、トヨタも」と言ったのよ(笑)。そうしたら、そのアメリカ人の記者が立ち上がってね、わしに握手を求めてきたの。
わしはその時からずっと、自由貿易に懐疑的なんだよ。とにかく勝ちゃいいぞと。向こうを破壊しろと。そこまでやると、やっぱりその国のプライドを傷つけられるってことが、その時初めて分かった。
それでもう『戦争論』が出た90年代の頭ぐらいから、ずっと懐疑的なわけだ。だから、トランプがいまだにそういう感覚を持っていることが、わしは経験で分かるんだね。
やっぱり、ラストベルト地帯の共同体が崩壊しそうなんだな。そういう人達がみんなトランプに入れたんだなっていうのが、理解できる。
中間層が崩壊しすぎたら、将来性が見えないでしょ。その不安が全部トランプに票として入っているのは共同体が崩壊しているからだよ。品質が良いから勝つのは普通だとかいう話には少し疑問があるんだよね。
ーそんなブログが本になるそうですが。
小林:イースト・プレスがわしのブログを本にしたいというので、『素晴らしき哉、常識!』というタイトルを付けてやった。
イースト・プレス (2017-02-17)
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常識が狂ってしまっている世の中になってきたからな。わしはマンガ家なのに、常識を言っているんだと。奇想天外なことを言っているわけじゃないんだと。
みんながおかしいから、わしが批判されたり炎上するだけで、常識というのは素晴らしいんだということをテーマにしようと。だから『素晴らしき哉、常識!』というタイトルにした。
2月17日に発売されるんだが、BLOGOSから大賞を与えられたからさ。自信をもって本に出来るんじゃないかなと思うわけだ。