※この記事は2017年01月16日にBLOGOSで公開されたものです

忘年会や新年会に参加しましたか。年末年始は人が集まって、飲食店で食べ飲みする機会が多いかと思います。

そのような状況で、ドタキャンやノーショーをしたことはあるでしょうか。

Yahoo!ニュース 個人でも「今日もどこかでノーショーは繰り返される」を執筆して反響を呼びましたが、このドタキャンやノーショーは飲食店に大きな損害を与えることは当然のことながら、その結果として、消費者である私たちにも損害が生じるので、絶対にやってはならないことなのです。

ドタキャンとノーショーは飲食店に大きな損失を与える

まず、ドタキャンとノーショーとは何でしょうか。

「ドタキャン」はほとんどの人が知っている言葉だと思いますが、予約日時の直前にキャンセルされることです。だいたい1、2日前くらいからが対象となるでしょう。ドタキャンされた飲食店では食材費が無駄になるだけではなく、客数によってキッチンやスタッフの人数にも影響するので人件費も無駄になります。

「ノーショー」は、一般の人はあまり聞いたことがないかも知れません。業界で使われている言葉で、「No Show」=「人が現れない」から無断キャンセルを意味しています。食材費と人件費が無駄となることに加えて、その客が訪れるつもりで席を空けて待っているので、他の客を入れることも難しく、機会損失を生みます。

飲食店は、売上ゼロになるだけでなくマイナスに

ドタキャンやノーショーが起きると、飲食店はどれくらいの損害を被るのでしょうか。

飲食店では概ね、売上の3割が食材費、3割が人件費となっているので、損害は売上の6割と考えられます。もしも、平均客単価5000円の飲食店に2人で訪れる予定であったとすると、6000円の損害が生じることになります。

この6000円を取り戻すにはどれくらいの客が入ればよいでしょうか。

売上の1割が利益とされているので、6000円の損害を取り戻すには、6万円の売上が必要となります。6万円の売上を計上するには、ドタキャンやノーショーをした2人の6倍にもなる12人の客が必要です。

ドタキャンやノーショーが生じると、売上が0(ゼロ)になるのではなく、-(マイナス)になると認識しなければなりません。

ドタキャンやノーショーが起こる理由

ドタキャンやノーショーが起きる理由は大きく分けて以下の通りです。

・忘れていた
・意識していなかった
・わざとやった

まず最初に、忘れていたという場合です。予約していたことを直前になって思い出してドタキャンしたり、忘れたままノーショーしたりするのです。

幹事を担当していた人が、いくつかの飲食店を予約しておき、参加者に好みを訊いてから、利用する店を決める場合もあります。その際に店を決めたことで安堵してしまい、事前にキャンセルするのを忘れることもあります。 意図してやっているわけではないので、理解できなくもないのですが、予約することで飲食店にどういう影響を与えるのか想像する必要があります。

次に、意識していなかったという場合です。飲食店にどれだけ損害があるかを深く考えず、意図してドタキャンやノーショーをするというものです。あえて適切にキャンセルしなかったので、忘れていた場合に比べると悪質でしょう。

最後に、わざとやったという場合です。ドタキャンやノーショーをすれば飲食店が困ることをよく理解した上でやっているだけにとても悪質です。

いずれの場合も、ドタキャンやノーショーによって飲食店は損害を被り、業務妨害となっていることをよく認識しなければなりません。

飲食店側がとるべき対応

飲食店はドタキャンやノーショーにどのように対処すればよいのでしょうか。私は以下のような施策が有効だと考えています。

・事前に確認する
・SNSでアナウンスする
・ペナルティーを課す
・前払いにする

◆事前に確認する

まず最も基本的なことは、電話でもメールでもよいので、予約日の数日前に確認を取ることです。忘れていた客に思い出させたり、ドタキャンやノーショーの損害を意識していなかった客に釘を刺すことができます。

飲食店側からすると手間がかかって面倒ですが、被害を被るのは飲食店自身なので、自己防衛の観点からすると有効な手段です。

◆SNSでアナウンスする

ドタキャンやノーショーが起きた場合には、即時性のあるSNSが有効です。FacebookやTwitterで、「空席ができたので訪れたい人は連絡してくれ」と投稿します。フォローしてくれている人は、もともとその店に興味があるだけに、訪れてくれる可能性も少なくありません。

ただ、ノーショーの場合には予約日時が過ぎてからアナウンスすることになるので、挽回できるチャンスはだいぶ少なくなります。

◆ペナルティーを課す

意図的にドタキャンやノーショーをする客に対してはペナルティーを課すことも考えられます。ただ、請求に対して素直に支払わない場合は、その後の対応が難しいでしょう。民事訴訟を起こすにしても、時間と費用がかかるので、回収する金額と比べると割に合わず、泣き寝入りする飲食店がほとんどです。

予約の際にクレジットカードの情報を聞いておけば、引き落としが容易となります。ただ、日本ではドタキャンやノーショーにペナルティーを課してクレジットカードで引き落とすケースはほとんどありません。個人情報の意識も高まっている中で、予約の段階でクレジットカードの情報を教えるとなると、尻込みする客は多そうです。クレジットカードの情報は機密度が高いので管理するのもコストがかかります。

◆前払いにする

ドタキャンやノーショーが起きてもまったく損害を被らないようにするためには、前払いにするのが最もよい手段です。ただ、前払いには不便な点もあります。例えば、フランス料理では、事前にコース料理やグレードアップを決めることができたとしても、ワインペアリングをするのでもない限り、事前にドリンクを決めることは困難です。

ドリンクや追加オーダーだけを当日支払うようにすればよいですが、支払いが2回に分かれるので面倒ですし、金額も不明瞭になります。

■予約プラットフォーム側でも進む対応

「トレタペイメントはノーショーとドタキャンを撲滅できるのか?」でも紹介していますが、予約プラットフォームであるトレタが、ドタキャンやノーショーの解決策として、予約時にデポジットを課すという機能を提供しています。 トレタ以外に、食べログ、ぐるなび、ホットペッパーも予約機能を提供しており、こういった予約プラットフォームがドタキャンやノーショーに対応すれば、個々の飲食店が対応するよりも効率的で効果的でしょう。

また、飲食店の予約は、客と飲食店との契約であり、つまり、ドタキャンやノーショーは契約に違反することであると認識される必要があります。多くの人の意識を変革するのは簡単ではないだけに、テレビ、本や雑誌、グルメサイト、グルメ系のジャーナリストやインフルエンサーが全力をあげて取り組んでいくことが重要です。

ドタキャンやノーショーの損失は消費者にも

ドタキャンやノーショーは飲食店が損害を被りますが、実を言えば客も損害を被るのです。ドタキャンやノーショーが増えると飲食店は損害をカバーするために料金を上げざるを得ません。不必要なコストのせいで、必要以上に料金が上がってしまうのは客にとっては嬉しいことでしょうか。

ドタキャンやノーショーがなくなれば、今と同じ料金でもっとおいしい料理を食べられたり、同じ質のコースをもっと安く食べられたりします。物事は巡り巡って自分に戻ってくるので、ドタキャンやノーショーをすることがないように、多くのみなさんによく考えてもらいたいと思っています。

プロフィール

東龍(とうりゅう):テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。「Yahoo!ニュース 個人」オーサー、All Aboutガイド、全日本司厨士協会「東京CHEFS」。ブッフェ、フレンチ、スイーツ、ホテルレストランに詳しい。コラボや企画相談も多く、テレビや雑誌で活躍。
Twitter:@toryu76

・2017年1月23日~27日 6:43~6:50 「エネオスプレゼンツ あさナビ」(ニッポン放送)
・2017年1月25日 9:28~11:13「なないろ日和」(テレビ東京)