NHK紅白歌合戦、下請け制作スタッフに「あっぱれ!」~中川淳一郎の今月のあっぱれ - 中川 淳一郎

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※この記事は2017年01月03日にBLOGOSで公開されたものです

 BLOGOS読者の皆様はじめまして。編集者の中川淳一郎と申します。これから毎月勝手ながら類まれなる活躍をした方々を全面的に絶賛――そう。「あっぱれ」を僭越ながら入れさせていただきたく思います。もちろん「あっぱれ界」の大御所といえば、張本勲さんがいらっしゃるわけで、あの偉大なる先輩の言葉を使わせていただくことはたいへん恐縮の極みとはいいつつも、もう一輪を為す「喝!」は封印し、同氏に対する敬意の表明とお考えいただければ幸いです。

 さて、1月も始まったばかりですが、初回はいきなりの特別版というか、「喝・あっぱれの基準」について考えてみます。いや、つーか単にお前が「2016年全体を振り返る特別版を『12月版』とは別に書けよ! てめぇ、この野郎」とBLOGOSのT編集長から言われていたにもかかわらずその原稿をすっぽかしたワケだろ、コラ、というだけですので、明らかにこれは「喝!」です。

 一方「あっぱれ」の場合は明確な基準があったりもします。我が敬愛するハリーこと張本氏の場合、『サンデーモーニング』(TBS系)にて素晴らしいプレー(ただしMLBは除く)に対しては「あっぱれ」を入れますが、それ以外に「頑張ってるからあっぱれ」「けなげに見えるからあっぱれ」といったパターンが存在します。具体例は以下の通り。

・高齢者が走っている
・幼稚園児が柔道をしている
・ファンが熱心に応援している
・女性アスリートが悔しがって泣いている

 ダルビッシュ有がどんだけ快投を披露しても、錦織圭が4大大会でベスト4に進出しても「あっぱれ」をなかなか入れてくれないハリーではありますが、こうした情感にほだされる面はあるわけです。つまり、「あっぱれ」とはいかにして個々の人々の感情を揺さぶるかというものであり、普遍化はできないものなのです。

 会社で仕事をしていても、新入社員やバイトであれば、多少のミスを犯したとしても「頑張ったから『あっぱれ』だ」みたいな話になりがちです。しかし、企業が産地偽装やら燃費偽装に異物混入みたいなことをやらかした時はうらぶれた感じのオッサン4人ぐらいが登場し、「この度はたいへんご迷惑とご心配をおかけしました」と一斉に頭を下げ、フラッシュパチパチ! といった状況になったとしましょう。ここにハゲ頭のオッサンが一人いるとその「謝罪感」といったものは格段に高まります。この場合は更迭・失職・場合によっては多額の賠償金といった事態にもなり、これは明らかに「喝」の状況です。

 コピーの取り間違えとデータの改竄を一緒にするなよ、という話でもあるかもしれないのですが、やはりここで重要なのは「それなりの立場がある」「それなりのカネをもらっている」ということが「喝」を受けるかどうかの違いなのではないでしょうか。もちろん役員であろうと頑張ってリカバリーをしようとしたのですが、その「頑張り」が評価の対象とはならないのです。

 もう一つは「キャラ」というものがあるのではないでしょうか。たとえば、浅田真央がフィギュアスケートの大会で10位以下になったとしても「真央ちゃんは頑張ったよ。もう体がそんなにボロボロになるまでやったんだよね。もう十分だよ。あっぱれだよ。引退するのは寂しいけど、今はおやすみ」となる一方、安藤美姫の場合は「ざまぁみろ、けっ、さっさと引退しやがれ」となる。昨年不倫騒動に揺れた歌舞伎役者・中村芝翫の妻である三田寛子が「梨園の妻」としての姿を見せると「夫を陰で支える糟糠の妻だ、あっぱれだ」となる一方、新婚ホヤホヤ・片岡愛之助の妻・藤原紀香が和服姿で登場したりすると「このBBAは相変わらず目立ちたがり屋だな。名家・松嶋屋の看板を利用しやがって、けっ」となる。

 さぁ、ようやく「あっぱれ」の正体が見えてきましたが、人生において「あっぱれ」をもらうにはどうするか? 本連載ではそうした処世術も少しずつ読み解き、皆さまがより多くの人から「あっぱれ」をもらえるようなライフハックをお伝えしていく所存であります。ここまで見た中で「あっぱれ」と「喝」の境界線はどこにあるのか。それを箇条書きにしてみます。あっぱれ/喝です。

・貧乏/金持ち
・若過ぎor年取り過ぎ/それなりに大人・中年
・控えめ/自己主張が強そう
・苦しさに耐える/楽しそう
・不幸そう/幸せそう

 こうした状況がある中、私が2016年に「あっぱれ」を与えたいのは、NHK紅白歌合戦の現場下請け制作会社スタッフであるっ! 「意味不明演出」やら「マツコ・タモリの無駄使い」などと酷評されたが、あのさ、この日のためにこの人達どれだけ頑張ったと思ってるの?

 しかもNHKの正職員よりも圧倒的に給料安くて、出演者が与えられる名誉ももらえない。クリスマスも休む暇なく働き続け、それでいて大晦日のツイッターでは罵倒の嵐。それでも視聴率40%超を支えた彼らにこそ年始一発目の「あっぱれ」を送りたい。おつかれさまでした。ちなみに写真は年末年始、バンコクで原稿書き続け、ビールを飲み続けた私です。