トランプが大統領になり、SMAPで終わる2016年 - 木下拓海
※この記事は2016年12月31日にBLOGOSで公開されたものです
今年はまるでスマホの画面をスワイプするかのように、次から次へと事件が起きては消費されていった。「ポケモンGO」が大流行したのも今年の夏。しかし今、ポケモンが出るとされる新小岩の駅前に行ってみると、高齢者ユーザーばかりだ。若者は飽きが早いな~と思ったが、いやちょっと待てよ。これって実はすごいことなんじゃないか?
ITに疎い高齢者たちが、黙々とGPSを使ってスマホでポケモンゲットしている! そんな“最新の光景”に、衝撃を受けた2016年であった。
かねがね‘00年代はYouTubeやTwitterやWikipediaができて“ネットの中”が変わったけど、‘10年代は“ネットの外”、つまりネットからリアルが変化すると思っていた。この高齢者の光景もまた、その一端なのかもしれない。ポケモンGOは、もともとグーグルでグーグルマップやアースを作っていたジョン・ハンケという人が独立して作ったそうだ。テレビしか観ていないとされている日本の高齢者を家の外に引きずり出すだなんて、恐るべしグーグル。しかもこのテレビっ子の多い日本で、一切テレビCMをやらずにここまでの流行にした点もすごい。
ちなみに、アメリカ大統領選に出馬したトランプも過激な論調ばかりが注目されるが、テレビCMをあまりやらずに、主にTwitterなどのSNSを使って勝利した点にこそ特徴がある。一方、テレビCMを多用したヒラリーは「何、既得権者が偉そうなこと抜かしおって」と嫌われて惜敗した。マスコミを「マスゴミ」と言って嫌う、まるで2ちゃんねらーのような心理である。確かに今回の大統領選は、去年日本で見られた「五輪エンブレム騒動」に近いお祭り感があったと思うし、今後、日本でも同じようなムーブメントがより大規模に起きるような気もする。
かくして既得権クラッシャーとして当選したトランプは、二次大戦以降アメリカがずっと続けてきた「世界の警察」という役割の重要度を下げて、もっと自国内のことに目を向けようとしている。「もうお前らのことは知らんから、そっちは勝手にやっていてくれ。こっちはこっちの利益重視で行くわ」と、日本からもアメリカ軍を撤退しかねない発言すらしている。
日本からすると「ちょっと待ってよ!中国の脅威が」という感じだが、とはいえワシントンDCには連日、世界の紛争地域から代表団が詰めかけて、「頼みますから、うちの味方してください」と陳情しているらしいし、二次大戦以降ずっとそんな状態が続いていたら、そりゃさじを投げたくなる気持ちもわからなくもない。良くも悪くもトランプ率いるアメリカは、戦後にできあがった世界の枠組みをぶっ壊し、世界のビッグダディとしての地位から降りて、普通の大国になろうとしている。つまり「戦後」を終わらせようとしているのだ。
思えば今、生きているこの環境の多くは戦後にできたものである。日本が工業国として車や家電を海外にバンバン売るようになったのも、新幹線や高速道路ができたのも、天皇が人間になったのも、憲法ができたのも、そしてテレビが始まったのも、黒柳徹子を筆頭にテレビタレントが生まれたのも、すべてこの71年間の戦後の出来事だ。日本のテレビ放送免許第一号はCIAの許しを得て、1952年に正力松太郎に与えられた。これがのちの「日テレ」である。
同時に、アメリカ生まれのとある日本人は、終戦直後に再び日本からアメリカに渡って高校を卒業し、アメリカ軍の通訳として日本に舞い戻ってきた。その後、アメリカ大使館に勤務する傍ら、住まいとしていた代々木の占領アメリカ軍宿舎の近所の子供たちを集めて野球チームを結成する。これがのちに「ジャニーズ」となる。
そうして戦後に生まれた、テレビとジャニーズは両輪になって大きく膨らみ上がっていき、90年代後半、CDが史上最高に売れていた時代に、「SMAP」として結実する。SMAPとは、テレビが作り上げたイメージであり、大手メーカーの広告であり、CDプレス工場のおじさんの給料を生み出す神様であり、原子力による電力で動き出す受像機に映る映像であり、戦後、日本人が築き上げたこの壮大なシステムの上に、偶然なのか必然なのか、スポッとはまり込んだ時代の寵児である。長らく続いた日本の戦後の結晶のような存在なのだ。それが今年をもって解散してしまう。
トランプ誕生は新しい時代の幕開けを宣言し、SMAP解散は戦後の終わりを宣言した。なんという象徴的な1年だろう。ギョーカイの陰の実力者たちも皆さんかなりいいお歳である。これがずっと続くとは思えない。間もなく2017年、‘10年代も終盤に入って、いよいよ時代は総仕上げに入ろうとしている。