町山智浩氏が見た“美味しいとこ取り”トランプ大統領の矛盾 - BLOGOS編集部
※この記事は2016年12月14日にBLOGOSで公開されたものです
世界中から大きな驚きをもって迎えられたトランプ大統領の誕生。米国在住で映画評論家、コラムニストとして活躍する町山智浩氏は、トランプ大統領の誕生をどのように見たのだろうか。そして、トランプの主張してきた政策に、どの程度実現の可能性があると考えているのだろうか。トランプの支援者集会を周り、「さらば白人国家アメリカ」を上梓した町山氏に話を聞いた。(取材・執筆:永田 正行)
トランプは最後の「白人のための大統領」
-今回のトランプ当選の背景には、“白人の怒りがあった”という分析をよく見かけますが、町山さんはどのようにお考えですか。
町山智浩氏(以下、町山):CNNの出口調査によればトランプに投票した人の57%が白人ということですね。私もトランプの支援者集会を訪ねて、アイオワやアリゾナ、それにオハイオを周って話を聞いていますが、参加者はほとんどが白人でした。そして白髪が多い。つまり、圧倒的に高齢者なんです。CNNによれば50歳で分かれるようです。つまり50歳未満の投票者の過半数がヒラリーに入れて、50歳以上はトランプということです。
また、これはサンノゼというシリコンバレーに非常に近い街で行われたトランプ支持集会で感じたことなのですが、平日の夕方6時から始まった集会にネクタイやスーツを着ている人がいない。作業着やワークブーツ、いわゆるブルーカラーの人達が多かったです。
直接彼らに話を聞くと、ガソリンスタンドや水道、学校の先生でした。つまりハイテクや金融グローバライゼーションや株式市場とは縁のない、地元に密着した仕事の人達ですね。ITなどのニュー・ビジネスに対してオールド・ジョブズ(昔からの仕事)などと呼ばれています。
それは社会インフラの末端を担う仕事なので、間違いなく必要です。しかし、飛躍的なビジネスの拡大は望めないので、どうしても収入が頭打ちになってしまう。予備選が始まった頃、トランプ支持者は、「年収700万円程度」と報道されて、日本では「それほど悪くないじゃないか」と受け止められましたが、これは世帯収入Household Incomeなんです。つまり、夫婦で働いていたら、各々の年収は350万円。彼らの多くが50歳以上であることを考えると、決して裕福ではない。
またCNNによるとトランプ支持者の51%が非大卒で、PRRI調べでは40%が生まれた街から出ないで暮らしている。つまり大学に行くために都会に出なかったということですね。そういう人々を2008年の共和党の副大統領候補だったサラ・ペイリンは「リアル・アメリカン(本物のアメリカ人)」と呼びました。トランプが彼らを「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)」と呼んだように。
そのいっぽうで、ニューヨークのある東海岸や、カリフォルニアのある西海岸の、ITや金融業界で働く人々は20代で年収は1000万~2000万円を得ている。しかも将来もっと発展する仕事です。こうした都会のエリートと、田舎のサイレント・マジョリティの間に接点はほとんどありません。飛行機は田舎の上を飛び越していくし、製造業はアメリカの田舎から中国やアジアに行ってしまったので、ビジネスでもあまり取り引きがない。だからサイレント・マジョリティは“取り残されている”という感覚があるのでしょう。
実際、トランプ勝利を見た広告業界は「田舎の人たちに向けたマーケティングを忘れていた」と反省し始めたという報道がありました。
―そうした人々がトランプを支持したわけですね。
町山:だから、トランプは勝てないだろうと思ったんです。支持者が白人の高齢者だけに限定されて、広がりがなかったので。白人の人口は減少し続け、現在、既に60%しかいない。2040年には50%を切ると推測されています。やはりPRRIの調査によると、トランプに投票した人たちの3分の2が今回の選挙は「ラスト・チャンスだった」と言っているそうです。つまり、白人が多数派として政治を左右できる最後のチャンスだと。トランプは移民の規制を打ち出して人気を集めましたが、白人の人口の比率がこれ以上減るとマズいという危機感があったからだと思います。
白人は全人口の60%しかいないにもかかわらず、今回の選挙では全投票者のうち70%が白人でした。それだけ必死に投票に行ったわけです。一方、非白人の投票率は歴史的なレベルで低かった。
今回、トランプがメキシコ系移民を侮辱したので、それに反発してヒスパニックの投票率は伸びたのですが、黒人の投票率はオバマ時代に比べて大きく下がりました。さらに、若い人たち、オバマの当選に大きな役割を果たした「ミレニアル」と呼ばれる30歳以下の人達の投票率は、ここ何十年かで最低でした。さらに女性の54%しかヒラリーに投票しなかった。これはオバマよりも低かったです。
それでも、ヒラリーは全体の得票数で260万票もトランプに勝ってるんですけどね。トランプの得票率は46.8%で、2012年に500万票差でオバマに負けたロムニーの47.2%よりも少ないんです。、2008年に1000万票差で負けたマケインと同じくらいです。つまり、本来であれば、トランプの得票数は勝てない数字なんです。しかし、全体の投票率が54.7%と、12年間で最低だったので、それでも勝利しました。
-投票率低下の背景には、既存の政治に対するあきらめがあったのでしょうか?
町山:そうですね。最近最も投票率が高かったのは2008年で、オバマが「チェンジ(改革)」を掲げて出てきた時ですからね。
オバマに投票したミレニアルは今回、ヒラリーではなく、民主党の公認を最後までヒラリーと争ったバーニー・サンダースを支持していました。サンダースは民主党員ではなく、社会主義者を自認していました、トランプと同じく、既存の政治に対するアウトサイダーだったわけです。
若者たちがサンダースを支持した最大の理由は、学費の免除です。富裕層に対する増税を資金源として、公立大学の学費を無料にするとサンダースは主張しました。これが非常に具体的で若者の支持を得ていたのです。しかし、サンダースが離脱したことで彼らは投票に行くのを辞めてしまったのでしょう。
同じように、トランプが選挙に勝った最大の理由は、TPPとNAFTAの破棄を掲げたことです。トランプは「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれる五大湖地方の州ですべて勝利しています。製鉄や自動車などの重工業の拠点だった地帯です。ここはラテン系、メキシコ系、イスラム系の移民がそれほど流入していない場所なので、「移民排斥」はそれほど関係ない。この地方の人々に響いたのは、やはりTPPとNAFTAを破棄することで工場を国内に取り戻すというトランプの公約です。保護貿易政策ですね。
-自由貿易の方が全体の富は大きくなるという認識が一般的ですが…。
町山:自由貿易で利益を得るのはウォール街の金融業者や、西海岸のIT業者ですね。例えば、iPhoneだって全部中国で作っているわけですから。
しかし、自由貿易だと、製造業の工場は人件費の安いメキシコやアジアに移転されちゃうわけです。それで経営者は儲かりましたが、ラストベルトの労働者は仕事がなくなってしまった。
彼らの支持を集めるためにトランプは、「ウォール街は敵だ」と主張してきました。ヒラリーや他の共和党議員を「ウォール街から金をもらってる」と攻撃してきました。特に「テッド・クルーズの妻はゴールドマン・サックスの重役だ」だの「ヒラリーはゴールドマン・サックスから講演料をもらった」だのゴールドマン・サックスとのコネクションを攻撃対象にしてきましたが、それで票を集めて当選したにも関わらず、財務長官をはじめ経済閣僚にはゴールドマン・サックスのOBを次々に起用してるんですよね。ラスト・ベルトの人たちは「裏切りだ!」と怒らないんでしょうかね(笑)。
トランプは保守でもリベラルでもない
-トランプは当選したことで、これまでの主張が軟化しているようにも見えます。また、共和党から全面的に支持されているわけではないので、今後どれだけ当選前の主張を実現できるかは不透明だと思うのですが。
町山:トランプは選挙中、共和党の政策に一致していること、反していることの両方を言っています。つまり、彼は保守でもリベラルでもない。ラスト・ベルトの白人ブルーカラーにウケそうなことは何でも言っていました。
もともと、大統領選の勝敗を決する激戦州は英語では「スイング・ステーツ(揺れ動く州)」ですから、保守でもリベラルでもあります。特にラスト・ベルトの白人ブルーカラーは労働組合員なので、伝統的に民主党の支持者でした。1980年の選挙ではレーガンに投票しましたが、クリントンもオバマも彼らから圧倒的に支持されていました。オバマは2008年も2012年もラスト・ベルトで圧勝してますからね。GMとクライスラーが破綻した時に公的資金を投入して立て直しましたから、支持されて当たり前なんですが。
今回の投票でも、CNNの出口調査では投票者全体のオバマ支持率は57%と、トランプよりヒラリーよりも高いという異常な状況になっていたんです。
しかも、民主党支持層に限って調べると、67%がオバマの3期目を望んでいる。つまりヒラリーよりもオバマに政権を続けてほしいと。だからオバマ人気はヒラリーにとって追い風にならなかったんです。
今回は「トランプが勝った」から「保守派が勝った」というわけではありません。特に、保護貿易は本来、労働者を守る民主党の政策です。共和党は自由貿易主義です。NAFTAを推進したのも、父ブッシュでした。
ところがヒラリーは今回、NAFTAを否定しませんでした。何故ならNAFTAに実際に調印したのは、ビル・クリントンだったからです。彼が当選直後に批准したのがNAFTAなのです。
またTPPについても、オバマは中国への対抗策として賛成しており、共和党にも自由貿易の立場から賛成者が多かった。民主、共和両方とも否定しにくいNAFTAとTPPに反対したのが、アウトサイダーのサンダースとトランプだったんです。
特に共和党内の予備選中にトランプは、ライバルのジェブ・ブッシュに対して「お前のオヤジがNAFTAを始めたんだ」と攻撃していました。これに対してジェブは共和党のポリシーに忠実に「自由貿易を守る」と言い続けたために、労働者の支持を失ってしまいました。
-トランプは共和党の大統領ですが、これまでの共和党を背負っているわけではないのですね。
町山:まったく背負っていません。共和党と一致するような政策はそれほど多くないですから。例えば、共和党は、ソーシャルセキュリティーと呼ばれる国民年金を縮小しようとしています。しかし、トランプは、「それには一切手を付けない」と言いました。庶民の支持を失うからです。
また、「オバマケアに関しては完全破棄」と共和党は主張していますが、トランプは何度も「改善する」と言っています。つまり公的医療保険制度そのものは残すと主張しているのです。オバマケアのおかげでやっと医療保険に入れた人は全米で2千万人もいるので、彼らから再び保険を取り上げるなら、選挙に勝てないからです。
イデオロギーではなく、有権者を喜ばせる政策ばかり立てることが「ポピュリズム」なので、トランプは「“美味しいとこ取り”ばかりしてるから、政策が矛盾してしまう」と指摘されてきました。それでも、とりあえず美味しいとこ取りをすれば、選挙には勝てるわけです。
すでに顕在化しつつあるトランプの矛盾
-実際に矛盾が生じている部分も既にあるのでしょうか。
町山:いちばんトンデモないと思っているのは、大減税ですね。「すべての所得層に対して減税する。貧しい人、最も低所得の人達に関しては、所得税は取らない」とまで言っている。ところがそれを埋める財源はよくわからない。
その一方で、「公共事業、公的支出を増やす」とも言っている。税収を減らして、どうやって公共事業をするのか、まったく分からない。ローズヴェルト大統領もニューディール政策の公共事業によって労働者に仕事を与えましたが富裕層の税率は9割にしたんですよ。 私はアメリカで納税しているので、減税の恩恵を受ける側ですが、何の策もない減税は公共サービスや福祉の削減になるので危険です。トランプは、「公共事業を民間にドンドン下ろすんだ」とも言っていますが、汚職が発生する可能性も出てきます。
また、トランプは勝利演説の時に、「私は忘れられた人々によって選ばれて、忘れられた人々のための政治をする」といいましたが、この「忘れられた人々」は具体的には、白人ブルーカラーの人達のことを指しています。
しかし、トランプは相続税を撤廃するでしょう。現在、相続税は40%ですが、議会で優位を保っている共和党は、これをずっとゼロにしようと議決し、オバマに拒否されてきました。トランプが法案を出したら通過するでしょう。
すると富裕層は税金逃れのために一斉に生前相続をするでしょう。そもそも相続税は格差是正を目的とした税制なので、格差がいっきに拡大します。トランプを支持したブルー・カラーの白人たちは格差に苦しんでいるのに、こんなことでいいんでしょうか。
-選挙運動中から“美味しいところ取り”の政策を主張してきた結果、様々な矛盾が出てきているということですね。
町山:他にも、中国に対する危機感を煽る一方で、ホテルやコンドミニアムを開発するトランプ・オーガニゼーションは、2008年ごろ、中国の大手不動産業者と契約しています。
また、「日本車に35%の関税をかける」と主張して自動車を製造しているラスト・ベルト人達から票を集めましたが、アメリカで流通している日本車の6割はアメリカ生産なので、それには税金をかけられない。あまり意味ないですね。
それどころか、メキシコやカナダに工場を移転させているフォードやGMが困ってしまう。彼らはアメリカの車であるにもかかわらず、関税をかけられることになってしまうからです。実際、フォードはトランプ当選直後に「それは無茶だからやめてくれ」と交渉を始めました。
たとえ口から出まかせでも、ラスト・ベルトに対して何の経済政策も出さなかったヒラリーよりは票を真剣にとりに行ったわけですが。
-トランプは日本にも軍事費の負担増を求めると主張しています。
町山:日本に米軍の負担増を求めるという主張は、アメリカ中央部に住んでいる人たちに対する大きなアピールになりました。何故なら彼らには、海外の安全保障にアメリカが貢献する理由がまったく理解出来ないからです。「グローバルな市場を確保するためには軍事的な安全が必要」と言っても、そのグローバルな市場のせいで仕事を失った人たちですからね。
先ほど言ったように、トランプに投票した人達の4割は自分の生まれた街から一生出ないそうです。それぐらい閉じた世界で暮らしていると国際的な安全保障といっても感覚として分からないでしょう。
そこに「日本や韓国は儲けているだろう。なんで俺達が彼らを守ってやらなきゃいけないんだ」と主張されれば、守る必要がないと思ってしまう。それは、ある意味正しい。彼らの商売や生活に日本や韓国は一切繋がっていませんから。実際、中央部に行くと日本車も本当に少ないですよ。アメリカ全体としては、「アジアや欧州を含めた世界と取り引きしているんだ」と言ったところで、「いや、俺達していないし」となってしまう。
-国際安全保障を理解できない人がトランプを支持していたとしても、本人が理解していないとは限りません。トランプ自身は、現在の状況をどのように考えているのでしょうか。
町山:おそらく実際に政権を取ったらどうするか、ということまで考えていなかったのではないでしょうか。実際、彼のスタッフに経済分野に詳しい人などはいませんでした。だから結局、敵呼ばわりしていたウォール街の連中を雇っている。
これまでアメリカは、シンクタンクによって動かされてきた歴史があります。例えば、ヘリテージ財団のようなシンクタンクが共和党の新自由主義経済を進めてきたわけですが、そういう機関とも付き合いがない。そもそも今現在、彼の首席戦略顧問のスティヴン・バノンはもともとハリウッドのインディペンデント映画のプロデューサーですからね。プロパガンダのプロではあるけど、経済や国際政治の知識も経験もない人物です。
仕方がないので、ロムニーを国務長官にしようとした。ロムニーはヘッジファンド出身なので、選挙期間中はウォール街の人間としてさんざん叩いていたのに。だからトランプのスタッフが「ロムニーは敵じゃなかったの? 有権者への裏切りでしょ」と怒って、国務長官は無しになりましたが、まったくバラバラなんです。
「アメリカではそれは起こらないだろう」が現実に
-大統領に就任する前から、政策に様々な矛盾が出てきている状況を考慮すると、今後4年間の見通しというのは非常に不透明なものになりますね。
町山:非常に不透明ですね。再三指摘していますが、一番恐ろしいのは、トランプが保守でもなければリベラルでもないということです。ポピュリズムですから、右だろうと左だろうと人気をとれる政策を採用する。そうなると「いったい誰からの人気を得ようとしているのか」が問題となります。人種や社会階層によって、それぞれ利害が異なりますから。
もう1つ、トランプ自身が自分の言っていることを信じていないように見えることも大きな問題です。彼は「メキシコ人を追い出せ」といいますが、本当にメキシコ人が嫌いなのかと言うと、おそらく何とも思っていないでしょう。「一切のイスラム教徒の入国を禁じる」と言いましたが、彼のビジネスパートナーには中東の石油業者などイスラム教徒がたくさんいるので、できるはずがない。それはわかって言ってるんですね。
「貧しい人、ブルーカラーの人達を救う」と言っても、億万長者の息子としてニューヨークに育った彼がそんなことを思う動機はどこにもありません。今まで付き合ったこともないし、会ったこともない。話したこともないでしょう。ラスト・ベルトだって、大統領選がなければ一生行くこともなかったでしょう。
とにかくポピュリストの典型で自分の言っていることを信じていない。信念がどこにもない。ものすごいゴリゴリの右翼やナチの方が、どんな政策をするか予想ができるのでまだマシなぐらいです。
ただ1つだけ、人物として彼の特徴は、怒りっぽいことです。スタッフをすぐにクビにしてしまう。それを考えると、政権が非常に不安定になりますよね。今は、プーチン大統領と仲良くしていますが、怒ったら何をするか分からないですよ。
-トランプの当選によって、人種差別的な言動を行う勢力が勢いを増しているという報道が散見されます。町山さんはアメリカで生活する中で、トランプ当選による空気の変化をお感じになりますか。
町山:トランプは共和党大会の指名受託演説で「もはやポリティカリー・コレクトでいる余裕はない」と宣言して、差別にある意味、“お墨付き”を与えた形になってますからね。特にトランプの最高戦略顧問になったスティーブン・バノンは、「Alt-Right」と呼ばれるネット右翼を読者に持つネット・ニュースの主幹でした。
ただ、トランプ自身が極端に人種差別的な人物かというと、そうでもないようです。彼は自身の事業を進めていく中で、それほど人種差別に関しての訴訟を起こされていないんです。ただ女性関係、セクハラなどの問題はずっと出続けていますが。
-最後に、トランプが当選した現在のアメリカの状況を理解するのに役立つ映画を教えてください。
町山:まず1992年の映画『ボブ☆ロバーツ』ですね。主演のティム・ロビンスが製作・脚本・監督しています。ロビンス演じるウォール街の投資家が上院議員に立候補しようとする政治コメディです。ロバーツがファシズムに近い主張や差別的な発言をすればするほど白人の労働者から支持を得て、ポップスターのようになっていきます。まさにトランプの出現を予言するような内容になっています。
作中で、ボブ・ロバーツがミスコンを主催するのですが、トランプ自身もミス・ユニバースの主催をしてますし、Alt-Rightのような若者が登場してナチス式敬礼をするところも似ています。
もう1つは、『オール・ザ・キングスメン』(1949年)。ヒューイ・ロングという1930年代に大統領を目指して暗殺された男をモデルにしています。主人公は徹底したポピュリズムで白人労働者の票を集めていきます。ヒューイ・ロングは、金持ちへの増税とベーシック・インカムの導入、移民排斥を打ち出して、大統領の座に近づいたのですが、女性関係のもつれで暗殺されてしまいました。
そのヒューイ・ロングがもし大統領になったら? という小説を1935年に、シンクレア・ルイスが書いています。「It Can't Happen Here」つまり、「アメリカではそれは起こらないだろう」というタイトルで、アメリカがポピュリストの大統領によって完全にナチ化していくという一種のSFです。
この80年ほど前に書かれた小説が、トランプ当選後から急に読まれ始めて現在ベストセラーになっています。起こらないはずのことが起こってしまったんです。
講談社